第103話 思わぬ因果 ~意外な訪問者

「……はっ」



 気が付くと、元の部屋に戻って来ていた。

 エリーザもリリアーナも、眠りから覚めたような感じだ。


「……まあ、そんなわけで。またよろしく」


 俺は二人に軽く手を振った。


「あ、ああ……今は、シルヴァンどの、なんだな。ファニーさまは、今……」


 エリーザがやや戸惑った感じで答えた。


「また、呪いの影響で眠りについたよ。


 でも時々、意識を取り戻して私と会話も出来るから、何か言伝があれば伝えるよ」


「わかった。シルヴィアさま、いや、シルヴァン? 


 ううむ、理解はしたが……今後どういう態度で接すればいいのか?


 なんか分からなくなってきた……」


 と頭を抱える。


「今まで通りで……でもまあ、エリーザの好きなようにしてくれ」


「ぼ、ぼくは自分の気持ちの整理と考察をしたいな。


 も、もう部屋に戻っていいかな?」

 

 とリリアーナ。

 

「とりあえず問題なく、話し合いが出来たみたいでなによりだよ」


 エウねーさんが壁に寄りかかりながら、にやりと笑った。

 ということでお開きになり、エリーザとリリアーナの二人は自室へと戻って行ったのだった。




「……やっと二人きりになれたねえ?」


「また変な事を……儀式の手順の説明のため残ったんじゃないの、ねーさんは」


 ねーさんの軽口は相手にせず、手をヒラヒラ振って次の話題をうながした。


「ちぇー。まあ、儀式の話はそうなんだが……


 その前に、ちょいと小耳にはさんだ事があってね。


 最近また、この国の諜報機関みたいなのが近くをうろついていた……


 とクローンが報告してきた」


「ああ……あの王、諦める性格はしてなさそうだったからな」


 バレルビア国、マウロ三世。

 オーブの力を使って、世界征服みたいなことを考えてた、俺たちの国の凶王。


 いまでも、捜索部隊を使って、俺らが持ち去ったオーブの行方を追っているはずだ。


「一応、オマエも耳に入れといた方が良い情報だと思ってね」


 警戒は必要ってことだな?

 しかし、オーブが全てこちらの手にある以上、大したことは出来ないと思うが……

 

 それとも、まだ何か手を隠しているのか。


「だもんで念のため、また引っ越そうと思ってね。


 必然、オマエの復活の儀式は引っ越し先で、ってことになる。


 なるべく早く、元に戻りたいだろうしね」


 そりゃそうだ。

 しかし、ここに帰れば即、元に戻れるものと思っていたのでやや肩透かし感もある。


 まあ、多少伸びたところで、方法は確立されてるから大丈夫だとは思うが。


「で、次はどこへ?」


「それが、『天国』と接続しやすい土地ってものがあってね……」


 とエウねーさんが腕を組み、 

 

「復活の儀式を行うのには、二つの条件がある。


 世界に魔力が最も満ちる、『日食』の日に行うこと。


 『天国に最も近い土地』で行うこと」


 そんな場所があるんだ……


 ここでエウねーさんが机に、大陸の地図を広げ一点を指さした。


「それが……ここ、なのさ」


 地図にはバレルビア国をはじめ、エルフの里や他の国々が、いくつも記されている。

 ねーさんが指した国の名前を見て、俺は驚きの声を上げた。


「ブレシーナ王国!?」


 ファニーがもと居た、ゴブリンに滅ぼされた国じゃないか……!


「どういう因果なんだろうねえ。アタシもまさかと思ったよ。


 しかしここは今、ゴブリンどもとの戦いのせいで、汚染された土地になってる。


 それでも、儀式に必要なら……行かざるを得ない」


「まずは、その汚染された土地をどうにかする必要があるか……」



 もともと、ファニーの国を再建するってのは目的の一つでもあった。

 順番的には俺が元の体に戻ってから、だったんだけど。


 その前に、ひと手間増えたくらいなら大丈夫だろう。


 本格的に国を作り直してから儀式をする、ってわけじゃないし。

 しかし、これをファニーが知ったら……どう思うかな。



「次の日食は、二週間後だ。それまでに、ブレシーナ王国に入る。


 そして、儀式を行うのに最適な場所に陣取り、そこの汚染を除去しておく……


 ってとこだね。人体に害のある環境で、復活の儀式なんて出来ないからね」

  

 と、エウねーさんが今後の計画をまとめた。


「了解した。ブレシーナ王国まではここから一週間ほど。


 十分、余裕はあるな」


「何も邪魔が入らなければね……」


 ニヤついた顔でねーさんがまぜっかえす。


 や、やめてくれ!

 そういう事言うと、ほんとに何かが……


「……お? ここの周囲を警戒しているクローンから報告だ。


 空を飛ぶ、巨大な影を探知したらしい。こちらに接近している」


 ほらもう何か来たじゃん!


「ね、ねーさんが要らん事言うから!」


「アタシのせいじゃないだろ、んなこと。ふむ、影はどうやらグリフォンらしい」


 ねーさんとそのクローンたちは、【精神接続】によりリンクしている。

 クローンが得た情報は、すぐに本体に知らされる仕組みだ。


「グリフォン……敵か?」


 グリフォンは、鷲と獅子を合成したようなモンスターだ。

 ふだん人が寄り付かないような岩山に生息している。

 

 モンスターではあるが割と温厚で、ナワバリを侵さない限りは人間にも危害を加えてこない。

 山に住むとある部族は、特殊な技術で飼いならし、馬がわりに使うこともあるらしいが……

 

「バレルビアの連中がグリフォンを飼いならしてる、なんて聞いた事ないよ。


 ただの野良だろ。こちらに降りてくるなんて珍しい事じゃあるが。


 いっちょ姿でも拝みに行くかね、生で見る事なんて滅多にないからね」


 とエウねーさんはのんきしている。

 しかし、


「……ん? そのグリフォンから飛び降りた人影が二つ?


 お、おいおい。そいつら、この小屋がある木に向かって来てるようだよ……」


 と報告を聞いたねーさんが顔色を変えた。

 

「ほらあ! 私たち以外にねーさんの小屋に用がある奴なんて……


 もう敵しかいないだろ!」


「ひ、人聞きが悪いね! アタシだって、オマエたち以外にも知り合いが……!」


「……」


「……いる、わけじゃないけどさ」


 いないじゃん!

 てことは、やはりオーブを狙ったバレルビア関係者としか、


「おおい! ここにおるんじゃろー!? わしには分かっとる!


 妙な結界を解いて、わしらを入れてくれんかー?


 入れてくれんなら、無理やり結界を開いて入るがな! なっはっは!」


 と、小屋の外から叫ぶ声が聞こえてきた。

 女性の声だ、しかも聞き覚えのある……?



「シルヴィア! わしなのじゃー! 


 アンニザームを出て、はるばるやってきたぞー!」



 ……竜人都市の女王、ロレーナ・ドラゴネッティ!?

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