第101話 愛されボディ ~最後の旅の前に
オーブ探索隊に見つからないか。
海からの侵略は阻止したが、地底からの侵略が始まったりしないか。
はたまた、エウねーさんの気まぐれが起きないか……
元の体に戻れる道筋がついたとあって、なにか横やりが入るんじゃないか?
と、無駄に警戒していたが……
特に何事もなく、俺たちは無事にエウねーさんの家に帰ってくることが出来たのだった。
「ただいまっと。ふう、やっぱり家は落ち着くねえ」
俺たちもエウねーさんに続いて、木のうろの中の小屋へとぞろぞろ入って行く。
「ああ、やっと帰ってこれました……! はああ!」
とニーナさんが、ばたばたと奥の部屋に駆けだしていった。
ものすごい慌てようだ。
トイレ我慢してたのかな……?
「その後、どうだい? オーブに関する問題はないかい?
ここが誰かに襲撃されたり、監視されてる様子はないかい?」
「問題ありません」
「問題なし」
エウねーさんが、研究室で働いている自身のクローンたちに声をかける。
うわ、ねーさんと同じ姿格好の人間が、何人も居て動いてるよ……
例の水着じゃないだけ、マシなのか。
そのうえ、リリアーナも何人も居るな……って全員、裸に白衣じゃないか!
かろうじてパンツ穿いてるとはいえ、なんだこの状況。
「あ、ああん。お姉さま、み、見ないで……?」
リリアーナはなぜか嬉しそうにくねくねしている。
彼女のクローンたちも、どういうわけか一斉にくねくねしだした。
見てると気が狂いそうだ……
「よし。異常なしだね。良かった良かった」
エウねーさんがクローンたちの報告に、満足そうにうなずく。
既に異常事態が発生してるとしか見えないんですが!?
「なにがだよ。
このクローンたちのおかげで、オマエは元の体に戻れるようになったんだからな。
感謝するんだよ。全員の靴をなめとけ」
なんでだよ! 感謝は確かにその通りだけど!
「あとはシルヴァンの体も一応チェックしとこうかね。
クローンたちが定期的にカプセルの保存液を入れ替えてるから、大丈夫だとは思うが」
……あ。
さっき、ニーナさんが駆け出して行ったのは、そこか!
慌ててそのカプセルの部屋へ行く。
そこではニーナさんがさっそく俺の体を取り出し、丁寧に拭いていた。
「ああ。やっぱり、たまりませんね……
海では危うく、禁断症状が出るところでした……」
なにやらぶつぶつとつぶやき、目は恍惚に輝いている。
やっぱ危ないよこの人……!
「あ! ずるいおかーさん! あたしも、シルヴァンさんの体、拭きたい!」
「あらレリア、いいわよ。一緒にやりましょう?」
まさかのレリア参戦!
「じゃあわたしも。おにーちゃんのお顔。拭きたい」
「そ、それでは私も! シルヴァンどのの、雄っぱ……いや!
鍛え上げられた大胸筋をいじり、じゃなく。拭いていきたい所存!」
マティにエリーザもかよ!
(いいですね、みなさん……
わたしもシルヴァンさんのお体、触ってみたいです……)
……えっ!?
(……えっ!? い、いえ! ん、んんっ!
な、なんてこと、考えるわけないじゃないですか!
じょ、冗談です! プリンセスジョーク!)
なんだそれ……ファニーもかよ……
しかし、なぜに皆、俺の体に群がっていくのか!?
全裸だから恥ずかしいんだが!? せめて水着くらい、着けさせてもらえないだろうか?
「いやあ、なんだかんだ言って皆、シルヴァンの事を気にかけているんだね。
愛されてるとは、このことだね」
エウねーさん、そんなほっこりした顔で言うような状況じゃないと思うんだが。
リリアーナだけは、興味がないとばかりにさっさと自室に引きこもってしまっていた。
彼女だけ、まともに見えてしまうこれは錯覚?
マティが顔、エリーザが上半身というか主に胸部、レリア・ニーナ母娘が下半身担当。
皆ていねいに、俺の体についている保存液の残りを拭いていっている。
ありがたいやら、恥ずかしいやら。
「……えっ!? そ、そうなんだ……そうしたら、赤ちゃんが……!?」
ニーナさん、娘に何を教えているんだ!?!?!?
なんだかんだで、俺の体はぴかぴかに磨き上げられ、無事カプセルへと戻された。
満たされた緑の液体のなかで、ぷかぷかと浮いている俺の体。
「もうすぐ……戻れるんだ……」
あと少し。感慨深く、じっと見つめる。
「ふう。やっぱり良いものです、シルヴァンさんの肉体……! ああ!」
「な、なんかドキドキが止まらないよー!」
「おにいちゃんのお顔。やっぱりかっこいい」
「だ、男性の鍛え上げられた体……! こ、この気持ちは何でしょう!?
私、ほ……惚れたかもしれません!」
……俺の横にいる人たちは、全く違った思いで見つめているようだけど。
(あ、あわわ……! い、いけません、わ、わたし!
触ってみたいとは言いましたが!
こ、こんな真正面から、男の人の、は、は、裸を見てしまうなんて……!
ご……ごめんなさい!)
なんかファニーがあたふたしている。
あ、そうか。ファニーは俺の目を通して、現実世界を見ているんだった。
俺が自分の体を見てるって事は、彼女も同じモノを見てるわけで……
……ファニーさんのえっち!
(ええっ!? そ、そのようなつもりは全く無く……!
もう! いじわる、シルヴァンさん!)
いや、ごめん、ちょっとからかっただけ。
エルフの里では、ファニーのを全部見てしまったから、ファニーには借りを返す権利があるよ。
(い、いいですってば―!)
「……さて。皆、それぞれの個室に落ち着いたようだね」
「それで、俺だけ呼び出して、何の用? エウねーさん」
俺はエウねーさんの部屋の椅子に座って、次の言葉を待った。
オーブ三つを使った、俺の体を元に戻す儀式の、手順の説明かと思ったのだが。
「その儀式をする前に……
オマエがやらなければならない事があるんじゃないか、と思ってね」
俺がすべき事?
……エウねーさんの言いたいこと、直感的に分かってしまった。
うすうす、それは俺も考えてはいたのだ。
「分かってるようだね。エリーザとリリアーナ。
彼女らには、このまま何も説明しないまま、儀式を進めちまって良いのかい?」
確かに。
その二人だけは、このファニーの体を実際に動かしてるのは俺……シルヴァンである事。
それを伝えていない。
「今のティエルナに波風立てるつもりはないが……」
少しエウねーさんも言いにくそうだ。
「儀式を進めるためには、ここじゃなく、とある場所まで行く必要があってね。
また、ちょっとした旅になる。ここに居る皆を引き連れてね。
それがオマエの、ファニーの体を使った最後の旅になるだろう」
ここですぐにとは、いかないのか。
それは少しばかりやきもきしてしまうが……しかし。
「このまま、最後まで、何も知らせないまま協力してもらって……いいのかい?
仲間はずれが居る状態で、最後の旅をするかい?」
「……それは、誠意ある行動じゃないとは、俺も思っていた。
二人に、話すよ。この、ファニーの体に起こっていること……」
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