第100話 見えた希望 ~改造人間たちの解放

「ま、マジか!?」


 『天国』の位置が特定できただって!?


 思わず、またエウねーさんに掴みかかった。

 ねーさんは相変わらずV字水着なので、そのヒモみたいなところを掴むしかないのだが。


「おいおい、あまり勢いよく掴むなよ。はみ出ちまう」


「わ、悪い」


 手を離す。

 しかし、落ち着いてはいられない。


 『天国』の位置を特定できたって事は、そこから魂のエネルギーを持ってこれるという事。


 つまり……


「オマエが男の体に戻るためのプロセスで、一番やっかいな問題が解決したわけだ。


 アタシとしても、長い研究がついに実る時が来た」


「や、やった……!」

  

(よ、良かったですね! シルヴァンさん! ようやく元の体に、戻れるんですね!


 長い間、慣れない体で大変でしたでしょう……!)


 ファニーも、心の底から祝福してくれた。

 いやいや、心良くこの体を貸してくれた、ファニーには感謝しかない……!


(いえいえ! おめでとうございます、シルヴァンさん!)


 ああ! ありがとう!

 思わず、万歳をしてしまう。


 すると即、エウねーさんが両手の人差し指で、俺の胸の先端をつついてきた。


「ひゃん!」


(やぁん!)


 反応がファニーとほぼ被ってしまった。


「な、なにを……?」


 胸を押さえながら、ねーさんを睨む。


「だはは! オマエのその女の子っぷりも、そろそろ見納めってなりそうだからな!


 今のうちに堪能しておこうと思って」


 そういうの、マジで勘弁してくれ!




「ほんとに!? シルヴィアちゃん!」


「おにいちゃんが。元に戻る……!」


 俺の部屋にレリアとマティを呼んで、先ほどの話を報告したところ……

 二人とも、心底喜んでくれてるようだ。


「よ、よかったよー! ほ、ほんとにー!」


 レリアは泣き出してしまった。

 思えばこの体になってから、ずいぶんと長い付き合いになっている。


 レリアの存在は、かなり支えになってくれた。

 女の子らしい振る舞いやら何やら、いろいろ教えてくれたりして。

 そして俺のために泣いてくれるなんて……こっちも、少し涙ぐんでしまう。


「よかった。おにいちゃん」


 そっと、マティが抱き着いてきた。

 妹には心配をかけてしまったな。


 こんな体になって、違和感しかないだろうに……それでも兄と呼んで、一緒に居てくれた。

 まさかの勇者職になって、ともに戦ってくれて。

 子供の頃にはそんなこと、想像もしてなかったけど……嬉しかったぞ。



「……しかし、エリーザとリリアーナには、なんて説明したものかな」


 パーティの中で事情を知らないままなのは、その二人だけだ。

 事実を知ったら、ショックを受けるだろうなあ……


 色々と謝らなければならない事もあるだろうが、なんとか受け入れてもらうしかない。




 

 外に出ると、そのリリアーナが泣きついて来た。


「お、お姉さま! もう、た、大変すぎ! クラーケンに改造された人間たち……


 その数、千人! 全員を人間にする作業、つ、疲れました!」 


 リリアーナの後ろには、ずらっと応対待ちの改造人間たちが行列をなしている。



 彼女には深海から連れ帰った改造人間たちを、【生命操作】で元に戻す作業をしてもらっていた。

 さすがに数が数なので、当然疲れ果てている様子。


 ちなみに、エリーザはこの改造人間の行列を見て、「はふん」とか言って気絶。

 今は、『いい夢が見れる薬』を服用して、寝てもらっている。



「うーん、さすがにこれはリリアーナにしか出来ない事だからな……


 レリア、エリクサーあげてやって」


「はーい!」


 レリアからエリクサーを受け取ったリリアーナは一気飲みしたあと、


「ぷはあ! げ、元気は取り戻せましたけど! 


 も、もっと精神的なケアをよろしく!」


 などと言ってきた。

 まあ、これも借りっちゃ借りかなあ?


「わかったよ、作業が終わったら、一緒に寝てあげるから……」


 と言ってしまった。


「ほ、ほんと! や、やった! こ、今夜は寝かしませんよ!?」


 いやそういう意味じゃないんだが!?


 リリアーナはとたんにやる気をみせ、行列に戻っていく。 

 そしてバリバリと勢いよく、改造人間を戻し始めた。


「……安請け合い」


 とマティにたしなめられた。

 ちょっと反省。 



 結局、リリアーナによる改造人間を戻す作業は、二日間にわたって続けられ……

 作業が終わった日の夜は、疲れ果てて何をするでもなく、普通に一緒に並んで寝るだけに終わった。


 翌朝、目覚めると、隣にめちゃめちゃ服をはだけさせたリリアーナが寝ており、


「……こっちが得した気分になってどうする」


 と服を直してやったのだった…… 





「ありがとう! ティエルナの嬢ちゃんたち! 色々と助かった!」


「ようやく、国に戻れるよ! あんたたちは命の恩人だ!」


「リリアーナちゃんも、お疲れさま! ありがとうな!」


 そうして、改造人間から人間に戻れた人たちの、最後の一団が出発した。


 彼らは人間に戻ったあと、俺たちから多少の路銀を受け取り、それぞれの国へと帰っていく。



「いやー、太っ腹だね」


 エウねーさんが、彼らを見送る俺の肩に手を置き、そんな事を言ってきた。


「さすがに無一文で解放されても、どこにも行けずに行き倒れるだけだし。


 なにせクラーケンにさらわれた時の持ち物しか、無いわけだしね。


 今までのオーブ獲得による報奨金、まだまだ余ってたし……」


 それに、人魚国からも、色々と謝礼の品々を頂いてきているのだ。

 既にもう一生、食いっぱぐれないくらい潤っている。 


「彼らにとっちゃ、どえらい借りが出来たってとこだろうよ」


「ま、返したい人がいるならその時はよろしく、ってとこだな」


 俺は肩をすくめて笑った。



「そいじゃま、元の家に帰ろうかね。結局、日焼けできなかったが。


 一日中太陽に当たってたつもりなのに……おかしいねえ」

 

 確かに、ねーさんは一切焼けた様子がない。どういう体質だ?


「……つかそろそろ、その水着脱いだら?」


「いや? 夏はもう、しばらくはこのままで居ようかなって」


「泳ぐわけでもないのに、家の中でも外でもその格好って変態かな?」


「うるさいね! 


 アタシの部屋まで来て、この水着に着替えるところを見たがったくせに」


 み、見たがってない!


「ほんと!? シルヴィアちゃん!?」


 うわっ、レリア!? いつの間に後ろに……ってマティやリリアーナも!

 俺を見るマティの目が、すうっと絶対零度になっていった。

 リリアーナまで「そんな、お姉さま……!」と涙目だ。


「ち、違う! 部屋まで行ったのは確かだけど、それは私の水着に問題があって」


「部屋、行ったんだ……! シルヴィアちゃんのえっち!」


 行っただけで何もないって!

 エウねーさんを軽くつつくと、何倍にもなって帰って来る!




 ……などとひと悶着あったが、ようやく俺たちはティエルナ領、ヴァレントを後にした。


 エウねーさんの家に帰れば、俺も元の体に戻れるのだ。

 何事も起こらなければ良いが……

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