第79話 王の末路 ~解放
その後、どうにか誤解は解けて。
レリアにはマティに着付けてもらって、元の衣装の格好に戻り……
落ち着いたあと、俺は皆を見回して言った。
「それでな。今後について、だけど……」
「む……?」
しばらくして……リュドミール王が目を覚ました。
身を起こすが、まだ後ろ手に縛られたままだ。
「き、貴様ら!」
目の前にいた俺たちティエルナの面々を見回し、叫びかける王。
それを制して、
「まあまあ。私たちは、この舟を安全に飛び立てる場所まで、移動させたよ。
ここからなら、誰にも迷惑をかけずに、宇宙に行くことが出来る」
「……なんだと!?」
思ってもみない言葉を聞き、王が表情をゆがめた。
そのまま、疑いの目で俺を見てくる。
「あんた一人。ひとりだけで宇宙へと行くのであれば……
私たちはもう、何も邪魔しないよ。
勝手にするといい。古代文明人でも、なんでも追いかけていってくれ。
それが嫌なら、あとは一生、エルフの里の牢獄暮らしになると思うけど」
「……本気で言っているのか?」
「全部、『あんた次第』だよ」
俺の回答に、むう……と押し黙る王。
長い間迷ったあげく、ようやく口を開いた。
「……分かった。わし一人だけか。だがせめてヴァルキリー部隊のやつらは、」
「だめ」
「ちっ……本当に一人きりか……くそ! 分かった! いいだろう!
その条件を飲む! ……だが、舟のマスター権限はわしに戻すんだろうな?
でないと、まともに旅することも出来んぞ!」
「もう、戻してるよ。な、システム?」
と俺が天井に向かってしゃべりかけると、
<……はい。現在のマスターは、リュドミール・グロフです>
と王の名前を答えた。
「良かろう。仕方あるまい……くそ……」
ややうなだれ気味だったが、王は了承した。
腕の拘束を解いてやる。
「じゃ、私たちは舟を降りるよ。食料とか水は、積み込み済みなんだろう?
私たちが降りたのを確認したら、さっそく飛び立つと良い。
ただし、私たちに危害を加えたりするようなら……」
と、俺はここでいったん区切り、
「……その時こそ、絶対に許さないからな?」
と王を見すえて、念を押す。
「分かった分かった。
とにかく、わし一人だけで、ただ飛んでいけばいいんだろう!?
さっさと降りるがいい!」
王は手のひらを振り、もう話すことはないとばかりに不機嫌な態度をあらわにした。
俺たちはやれやれ、と首をすくめる。どこまでも偉ぶった奴だ。
そして王の命令で、システムに舟のハッチを開かせ、そこを降りていった。
タラップとか言う階段を降りながら、
「ところで、リュドミール王、もう香水の効果切れてるよな?」
と俺はレリアに確認する。
「切れてるねー!」
との答えに、
「じゃ、あとは王の、今後の選択次第か……」
と返す。
すでに星の舟はエルフの里の北、不毛の岩場にあり、半分くらい地上に露出している。
舟を降りた俺たちは、その岩場をエルフの里へと走って舟から距離を取る。
すると、ゴゴゴ……と地面が振動をはじめた。
振り向くと星の舟が、赤みがかった岩場を割って、徐々に空へと昇っていくところだった。
「わあ……! 本当に、飛ぶんだ……!」
「不思議な。光景」
光り輝く、銀色の三角形をしたものが、空へと浮かび……
すごい勢いで上昇を開始。どんどん小さくなっていく。
その見た事も無い光景には、皆もつい見とれてしまうのだった。
▽
<高度、二千四百。対地速度、二万八千。第二宇宙速度へ切り替えます>
天井からシステムが報告した。
窓の外には、漆黒の空と、青く輝く星の一部が見える。
星の舟は、ついに宇宙へと飛翔したのだ。
「……よし! ここまで来れば、こっちのものだ!
システム! この舟の、主砲は使えるな?」
リュドミール王が、薄笑いを浮かべて天井に問いかけた。
<可能。さきほども、地中を掘るのに使用しました>
「ふふふ、そうか! なら、いったん反転せよ。
わしの邪魔をしてくれた奴らを、エルフの里ごと、吹き飛ばしてやる!
これの主砲なら、それくらいの威力はあるな?」
<肯定。一発で、里の周辺五キロほどは消滅します>
それを聞いて、王が目を細め、舌なめずりをした。
「よし、よし! 早く、反転するのだ! 奴らに目にもの見せてくれる!
愚かなやつらだ、マスター権限をわしに戻すなど!
そのまま、素直に旅立つとでも思ったか! バカめ!」
<反転して、地上を攻撃するのですね?>
「そうだ! 早くしろ、何をもたもたやっている!」
<了解。安全高度まで離脱したのち。本船は、自爆します>
「……は!?」
▽
空の彼方、星の舟が飛んでいった方向……
そこに、まぶしい閃光が走ったかと思うと、やや青みがかった爆発炎が見えた。
それをエルフの里から認めた俺は、ため息をつく。
「やれやれ。やっぱり、そうなったか……」
王にマスター権限を戻したというのは、嘘なのだ。
戻したフリをするよう、システムに一芝居打ってもらった。
「もし、王が私たちに危害を加える命令を下すようなら、自爆してくれ。
しかし、王が素直にそのまま宇宙へと旅立つなら……
そのまま、王をマスターとしているフリをしながら、王と一緒に旅をしてくれ」
と、システムに命令しておいたのだが。
俺の予想通り、王は、こちらを攻撃しようとして……
星の舟は、王とともに宇宙のもくずとなったのだった。
「ちょっともったいない気もするけど……
便利な道具も、結局は使う人間次第なんだよなあ」
なんて事をつぶやいた後。
俺は、空の爆発炎を指さして――
全てが終わり、里が解放されたことを、集まっていたエルフたちに改めて宣言した。
「おおおおおおおおおおおおおお!」
エルフの森に、大きな歓声が響き渡った。
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