第78話 星の舟のマスターになる ~誤解
「星の舟を動かしたり止めるたりするなら、マスター権限が必要だ。
今のところ、わしがそれを所持している。……んががっ!
くそ、黙る事が出来ん!」
例によって、レリアの『素直になる香水』で、べらべら秘密を喋ってくれるリュドミール王。
「そのマスター権限とやらは、他の人に移せたり出来るか?」
「それは知らん、やったこともないからな」
本当に知らないようだ。
……じゃあ、今やらせてみよう。
この王に、舟を自由にできる状態にしておくのは危ないからな。
「システム・セルシエル?
この者が、マスター権限を委譲して欲しいと言っているが?
……あががっ!」
王が、天井に向かってしゃべっている。
……何やってんの? とか思ってたら、
<マスター権限の委譲は可能。実行しますか?>
と、天井が返事した。なんだこれ!
王に聞くと、この舟の全てを司っている、人工知能だか人工生命だか……らしい。
『知性のオーブ』で、物体に精神を発生させたようなものだろうか。
「権限の委譲は可能だそうだが?
や、やめろ! こんな劣等種族になどやれるか!」
と王がこちらを仰ぎ見た。
「じゃあ、やらせてくれ。権限を私、シルヴィア・アルベールに移すように言え」
「こいつが言ったことを実行せよ。やりたくない、やりたくないが!
実行、せよー! チクショー!」
<完了しました。今後、シルヴィア・アルベールをマスターとします。
音声による命令を実行してください>
やたら早い手続きだったが、完了したらしい。
これで、この舟は俺のものになったのか……
「ば、馬鹿者が!
古代文明人を追って、宇宙へ出るのは選ばれたる民の、宿願なのだぞ!
そ、それを邪魔しおって……! なんたることだ!
貴様は、全エルフから罵倒され、呪われる宿命を、いま背負った!」
アルカディーは、これが終わったら全エルフで感謝を、とか言ってくれたけどな。
グリゴリー、レオーンを倒し、リュドミール王も確保した。
もう、この戦いはほぼ終わったわけだ。
あとは、この舟を止めるだけ。
「じゃ、この舟の出港準備を、」
止めてくれ、と言おうとして……ふと違う考えが浮かんだので黙る。
「? どうしたの?」
隣から見えないレリアが聞いてくる。もう剣は持ってないので、声でしか大体の位置は分からない。
すぐ近くに全裸で居ると思うと、少しドキドキする……
透明の上からでも、民族衣装を着れば良いのにと思ったが、そういえばあれは着方が複雑すぎた。
マティにしか、着つけることが出来ない。
しかし、いつまでその薬の効果は続くんだろう。
「あ、いや……このまま機能停止させて、埋めようかと思ったんだけど。
せっかくエルフの人たちが苦労して掘り出したんだし……
一度は飛ばしてみたい、かなって」
今のところ空を飛ぶ魔法は、勇者専用の移動魔法しかないし、空を飛ぶ舟なんて当然他にない。
マティも移動魔法は未収得だ。
「でも、飛ばしたらエルフの里が吹っ飛ぶんでしょー?」
「えー、システム・セルシエル?
エルフの里に影響を与えず、この舟を飛ばすことは出来ないか?」
と天井に向かって問いかけてみた。
<計算中。……。可能>
どうやら、可能らしい。
「おお! 貴様、やはり、宇宙へ飛ぶべきだと考えたのだな! 突然どうした!?
貴様自身は劣等種族だが、良かろう、特別に許す! 嘘だが!
宇宙へ飛び、古代文明人を追うなら! 無礼も許そうではないか! 嘘だが!
そしてマスター権限をわしに戻すのだ! 宇宙へ放り出して殺してやる!」
考えていることを素直にさらけ出している、リュドミール王。
「放り出されるのは、あんただけだよ。お休み」
「何だと!? ぐああああああああああ!」
王に雷撃魔法を食らわして、気絶させた。
その後システムに聞いてみると、安全にこの舟を飛ばすには、地中を少し先に進む必要があると。
舟に装備されている大砲で地中にトンネルを空け、そこを進めば良いようだ。
「エルフの里に影響が出ないところまで地中を進んだら……
改めて地上へと浮上すれば大丈夫らしい」
「へえ! 色々出来るんだね、この舟! 地面の中も動けるんだ!」
レリアが感心した声をあげた。
「でも、ちゃんとこの天井の人? に聞けば、安全に飛び立てるんだねー!
それ、この王の人が聞いておけばよかっただけじゃない?」
「そうしておけば、迷惑な事にならずにすんだかもな……」
……とはいえ。
無理やりにエルフたちを働かせたり、人命をかえりみない言動や行動を取ったのは確かだし。
責任は、取ってもらわないと。
「もう少し待てば、マティとエリーザも戻ってくるだろうし。
そうしたら、システムに命じて舟の入り口を開き、入って来てもらおう。
皆が集まったところで……!?」
と、その時。目の前で奇妙な現象が起き、俺は喋るのをやめた。
空中に、じわーっと肌色のものが浮かんできたと思ったら、それがレリアの形になったのだ。
レリアは気づいていないのか、よそを向いたまま、無防備にその姿をさらしている。
「ちょ! レリア!? 見えてる! 全部!」
「えっ? ……。やぁーーーっ!」
全裸のレリアが、自分の姿を見下ろして、一瞬止まった後……
真っ赤になって叫び、両手で大事なところを隠した。
「あ、あれー!? んー!?
もう薬の時間切れだっけ? 数えてなかった! もー!」
思わず見とれてしまっていたが、睨まれたので慌てて視線をそらす。
その方向は艦橋入り口の扉だった。するとその扉が開き……
「ここに。おねいちゃんの気配がある。……ほら。居た……!?」
「おお! すごいものですね、マティさんの、その、感覚……!?」
マティとエリーザが艦橋内に入って来て、固まった。
どうやら、ヴァルキリー部隊を片付けて遺跡に戻ってきたようだ。
そして、舟の穴から入り、隔壁を開けて(たぶんエリーザの力技で)ここまで来たのだろう……
「しかしこんなタイミングでここに来ること、ないだろうに……」
俺は頭を抱える。
「おにいちゃん……? 何してるの……?」
呼び方がおにいちゃんに戻った。明らかに男としての俺にターゲットが向いている。
すごいジト目だ。
「シルヴィアさま……レリアさんとは、そういう、ご関係……?」
エリーザは恐る恐るといった様子で聞いてきた。
まあ、そうなるよね……
この状況、俺がレリアを全裸に剥いたみたいに、見えても仕方ないよね……
「完全に、誤解だから!」
俺は絶叫した。
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