第76話 マティ・エリーザ対ヴァルキリー部隊 ~求婚

 ――少し時間はさかのぼり……


 エルフの宮殿、王の間。


「無駄。通さない」


「あなた方の相手は私たちです!」


 ヴァルキリー部隊の前に、立ちはだかるマティとエリーザ。


「王の敵は、斬る……!」


 ヴァルキリー部隊の一人が、白熱剣をマティにふるった。

 だが、簡単にマティが受け止める。


「!?」


 どうみても安物の剣にあっさりと白熱剣を受け止められ、一瞬驚いた女戦士だが、すぐに飛びのく。

 切り返したマティの剣が空を切った。


「さすがに。判断が早い」


「相手は四人。二人ずつ、担当ですね!」


 エリーザが双剣をかまえた。

 女戦士たちが再び、白熱剣を振り回しながら襲い掛かってくる。


 剣戟の音が、立て続けに王の間に鳴り響いた。

 マティとエリーザ、それぞれが二人ずつの女戦士を相手に、剣をふるう。


 女戦士二人はそれぞれの相手を、挟み込むように位置を取ってくる。

 後ろから前からの攻撃を、エリーザは双剣を器用に使い分けて防ぎ、マティは位置取りで対処。


「二人がかりでも、押し切れない……!?」


 逆に、押し返されそうになった女戦士の顔に焦りが見えた。

 その時。


「あ痛った!」


 エリーザがうめき声をあげた。

 突然、光の玉が飛んできてエリーザの腹を打ったのだ。

 

 一瞬出来た隙に、二本の白熱剣が打ち込まれるが、エリーザは転がって避ける。

 続けざま、マティにも光の玉が飛んできて、それをかろうじて剣で弾く……

 が、しびれて剣を取り落としそうになった。


「びりっときた。どこから飛んできたの?」


「……!? 


 白熱剣は普通に受け止められるし、光弾銃を食らっても体に穴があかない!?」


「なんなのこいつら!?」


 いったん、女戦士は引いて四人が集まった。 


 マティとエリーザも、肩を並べる。


「何かが飛んできた。大丈夫?」


「いたた……石が当たった感触ですが、大丈夫です」


 エリーザがその部分をさするが、さほどのダメージではなさそうだ。


「おねいちゃんの強化。効果抜群」


「確かに……! あれが無ければ、死んでいたかも!」

 

「そして敵は。四人じゃない」


 マティの言葉を裏付けるように、女戦士たちの後ろから、さらに四人が現れた。

 手には白熱剣ではなく、取っ手のついた筒を持って構えている。


 その筒に空いた穴から、ふたたび光の玉が発射された。


「おおっと!」


 飛んでくる四つの玉をかわすマティと、なんとか弾くエリーザ。

 外れた玉は王の間の壁に当たると、こぶし大の穴を穿った。

 そしてそこから、炎が広がり始めた。


「反応速度が人間とは思えない!」


「王の間が、燃える! だからこの武器は、撃つときは必ず当てろと」


「光弾を弾いたりかわしたり、そんな事が出来る者が居るはずがないんだ!」


「その上、当たっても平気なのはなぜだ!?」


 動揺を隠せないエルフの女戦士たち。


「伏兵を忍ばせていたとは、気づきませんでしたね。


 その新手は、白熱剣とは違う、古代文明由来の武器を使ってるようですが」

 

「強力な光の玉が飛んでくる。でも。あの筒の持ち手の角度。穴の向き。

 

 それで光の玉の軌道が分かる」


「なるほどですね、理解しました! 


 姿が見えていれば、大したことなさそうです!」


 逆に、マティとエリーザは敵の武器は見切ったとばかりに、笑顔を見せた。


「あと、敵中に切り込んでごちゃつかせれば、あの戦士たちは撃てなくなりそうです!」


「味方を撃ちかねない状況を作る? それもいいね」


「では、行きますか!」


 二人はうなずくと、剣を構えて女戦士たちに突っ込んでいった。


 もはや二人には、白熱剣もただの剣。

 光の弾を飛ばす武器も、使用する機会を奪えば無用の長物だ。


 女戦士の間を風のように駆け抜けながら、安物の剣をふるうマティ。

 その背中をカバーしながら、失敗作の双剣をふるうエリーザ。


 ひとり、またひとりと、女戦士はその剣に倒れていった……



 ▽



「おじゃましまーす!」


 自動扉を抜けて、レリアが艦橋内へと入って来た。


「えれべーたーとか言うの、初めて使ったよ! すごいねこの舟!

 

 道案内ありがとう、妖精さん!」


 ばいばい、と探知妖精さんは手を振って消えてしまった。


「はあっ!? だ、誰だ貴様は!?」


 てっきり、ヴァルキリー部隊かレオーンが戻って来たものと思っていた王が、座席からずり落ちかける。


「レリアです! 舟を、止めに来ました!」


 レリアが片手をあげて、宣言した。


「な、なんだと!? レオーンのやつ、こいつを止められなかったのか!?」


 王は顔が蒼白になった。

 レオーンが、まさか倒されたのか、こいつに!?


「レオーン将軍は、シルヴィアちゃんが倒したよー!」


「な、なにィ―!?」


「今じゃないけど、でもあと十分くらいで倒してるよー!」


「貴様の想像か! ちっ、レオーンは足止めされてるってことか……


 だが、貴様ていどなら……この白熱剣でわし自ら、駆除してやるわ!」 


 ビシューンと、リュドミール王が白熱剣を起動させる。

 剣先をレリアに突きつけ、ようやく落ち着きを取り戻したようだ。


 あらためて、レリアをじろじろと眺める。


「……ふむ。貴様、なかなかの美少女ではないか。


 多少、物足りない体ではあるが……


 どうだ。わしと一緒に、宇宙の旅に付き合わぬか。


 貴様には、わしの子を残す栄誉をくれてやろう」


「えっ!? あなた、あたしと結婚したいの!?」


「まあ、愛人だが、似たようなものだ。どうだ、この上ない名誉であろう」


 王がニヤリと、いやらしい笑みを浮かべた。


「ぜ、ぜぜぜ絶対イヤー!」


「な、なんだと!?」


「あなたからは、下心しか感じないよー! あなたの心、汚れてるもん!」


 思い切り拒絶され、突きつけた剣先が盛大に揺れる。


「バカが! ハーフエルフの分際で! わしの誘いを断るだと!?


 貴様、心に決めた男でも居る、などと下らぬことをぬかすなよ? 


 どう考えても、そんじょそこらの男とわしなら、比較するまでもなかろうが!」


 ダンッと、床を踏み鳴らして王が叫んだ。

 顔は怒りに歪んでいる。


「比較するまでもなく、シルヴァンさんがいいよ!」


 思わず、レリアはそう叫びかえしていた。

 

「さっき、シルヴィアちゃんにもレオーン将軍から求婚の申し出があったけど……

 

 でもそれは勘違いだったけど……あの時、すごくドキっとした。


 取られたくない、ってすごく思った!


 結婚、するなら……あたしがしたいのは、シルヴィアちゃん、いや、シルヴァンさん!


 そう! あたし結婚するなら、シルヴァンさん! 


 だってあたし、シルヴァンさんがすきだものー!」


「な、なにを言っている、知らんわそんな奴! 


 だいたいシルヴィアとかシルヴァンとか、どっちなんだ!」


「どっちもだよ!」


 狼狽する王にはお構いなしに、レリアはまくしたてた。


「女の子のままのシルヴァンさんでも別にいい! 


 シルヴィアちゃんのままでもいい!


 あたしがすきなのは、シルヴァンさんの、心のあり方だもの! 


 入れ物なんて、気にしない!」


 そう……あたし何を言ってるんだろう。でも、なんか勢いで言っちゃった。


 勢いで言ったら、すっきりした。もやもやしてたのは、これだった。

 シルヴァンさんが、シルヴィアちゃんでも。


 男の体でも、女の体でも……どっちでもいいんだ。

 

 あたしがすきだな、と思ったのは……


 自分が死ぬ間際なのに、萎れていた花に光を作ってあげた……

 そのやさしさ、こころなんだ。魂のかたちなんだ!


「求婚は、お断わりします! そして、舟も止めてもらいます!」

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