第75話 シルヴィア対レオーン後編 ~決着

「【多く、可愛く、変わりなく】! 『分身』!」


 俺は本物と見分けのつかない、分身を多数作り出した。

 全員、キラキラなエフェクトつきだ。


 レオーンが数十人の俺を見すえ、構える。


「そして【強く、可愛く、頼もしく】、『ファイアーボール』!」


 俺と分身全員が、掲げた手の上にフェニックスを発生させる。

 そしてすばやく動き、分身と位置を入れ替え、本体の見分けをつかなくさせた。


「ここから本物を見分けて、お前の火の鳥で相殺できるかな?」


 そう言って、レオーンにフェニックスを飛ばした。

 分身も、全て同じ行動を取る。


 多数のフェニックスの炎で、空間が明るく照らし出された。

 だが本物は一羽のみ。


「ここまで精巧な分身も初めて見たが……お前は、さっき探知されている!」


 レオーンが少し前に、舟の中で俺を探知したときに得た情報から、本体を見分けた。

 その本体が放ったフェニックスに、自らのフェニックスをぶつける。


 が、俺本体が放ったように見えた火の鳥は、レオーンのものとぶつかった時に消えてしまった。


「ばかな……ぐああっ!」


 分身の一人が放ったフェニックスに焼かれ、レオーンが叫び声をあげた。


「分身と本体の位置を入れ替えた時、火の鳥自体も偽物と入れ替えておいたんだ。


 前に本体を探知してたことは、分かってたし」


 爆炎に飲まれるレオーンに向かって言った。

 

「身体強化してても、これは相当なダメージだろう」


 だが。

 炎は、レオーンの身を包んだアイスキューブで消火されてしまった。

 なおかつ緑の光で包まれている。


「氷結魔法と回復魔法を同時に使ったのか。器用な……」


 その上レオーンは、サンダーボルトを放ってきた。俺もマジックシールドで弾く。

 しかし、その弾かれた雷撃魔法は軌道を変え、なんと後ろから俺を襲ってきた。


「痛っ!?」


 宇宙的強化された民族衣装のおかげで、軽傷で済んだが。

 レオーンのやつ、追尾魔法をこの戦闘中に作り出したのか!


「……ふむ、追尾魔法、まあまあだな。


 しかし、分身と発動した魔法を入れ替えるとは、器用なやつ」


 何事も無かったように、すっくと立つレオーン。

 受けたダメージは、すっかり回復してしまっている。


「一度行った場所へと飛んでいく移動魔法。


 その術式を、アレンジして組み込んだ。追尾とは、そういう仕組みだろう?」


「いや、俺のはスキルの効果によるものだけど……」


「スキル。固有スキルだったか。そうか、どうりで分からんはずだ。


 あの妙な前口上も、スキルを発動させるための詠唱なのだな」


 『どうりで分からん?』

 まるで、魔法は見れば分析できるような言い方だが……

 

 しかしまさか、この場で新規魔法を生み出すほどの、才能をレオーンが持ってるとは。

 追尾については的外れな推理だったというのに。


「つくづく、まともな道に行っていればと思うよ……


 良い師匠にでも巡り合っていればな」


「師匠などおらん。魔法はすべて、独力で会得してきた。


 一度見れば魔法の構造は分かる。それが俺のスキル【ラーニング】だ。


 人のスキルはラーニング出来んため、追尾は独自開発した」


「やっぱり、スキル持ちだったか……その上、才能もある」


 そう言いながら、ポーションを飲んで傷を完治させる。

 前々から預かってたやつだが、ついに使う機会が訪れた。


「ごめん、痛かったね」


 小声でファニーに謝る。


(いえ、大丈夫です! 治していただきましたし! が、がんばって!)


「お前、回復魔法はどうした? 賢者なのでは?」


 レオーンがけげんな顔をした。


「賢者だけど、使えるのは攻撃と補助全般だけだよ」


「ポーションも無限ではあるまい。このままだと限界がくるぞ、俺には勝てん」


「先に限界が来るのは、あんただよ」


「ほう?」


 ニヤリと笑うレオーン。


「【固く、可愛く、頼もしく】、『マジックシールド』」


 俺はまず、自身に魔法防御をかけた。


「む?」


「これは前準備だよ……

 

 なにせ究極点を越える、限界突破の火炎魔法を使うから」


「限界、突破だと?」


 レオーンの目がギラリと光った。

 そう、最上級火炎魔法フェニックスの、さらに上があるのだ。


「それは! 【強く、可愛く、神々しく】! 『ファイアーボール』!」


 俺は右腕を天に掲げた。

 その腕にまとわりつくように、紅蓮の炎が発生し、高く伸びる。


 燃え盛る炎の周囲には、妙に丸っこい火の粉のエフェクトが散っている。

 しかしその可愛い火の粉は、古代文明の力で作られた、星の舟の天井すら溶かしていた。


「これは……!」


 レオーンが目を見開く。 


「炎乃神剣(レーヴァテイン)! 神話級の、火炎魔法だ!」


 俺は腕を振り下ろした。

 それと同期して、伸びた豪炎がレオーン目掛け振り下ろされる。


「うおおおおおお!」


 レオーンが吠え、最大級の防御魔法と氷結魔法を展開したのが見えた。

 しかしそれをも押しつぶし……凄まじい爆音と爆炎が上がった。


 ごおっ、とこちらにも熱が届き、魔法防御をしてなかったら消し飛んでいただろう。


 レオーンが居た場所には、もうもうと炎と煙が立ち上っている。

 すると、壁のあちこちから白く泡立つ水が噴射され、あっという間に消火してしまった。


「自動消火装置!? 便利な舟だなあ」


 などと言っていると……

 泡が洗い流され、全身に大やけどを負ったレオーンが中から現れた。


「ちょうど、予想通りのダメージだな。多少、加減したからね」


「加減、しただと……情けを、かけたのか」


 レオーンが、弱弱しく口を開いた。


「いや。力の証明は、相手を殺すこと以外でも出来ると言いたかった」


「……甘いな。俺のスキルを忘れてないか」


 回復魔法でやけどを治し、元の姿に戻りつつあるレオーンが笑う。


「炎乃神剣。お前が使えるのなら、俺にも……!」


 とレオーンが右手を掲げ、集中しだす。

 その右腕に炎がまとわりつき……次の瞬間、消えた。


「……魔力切れ!?」


 愕然とするレオーン。


「バカな。俺とお前は、ほとんど同じ魔法しか使っていない。


 さっきの防御と回復の分を含めても、足りなくなるとは……!」


「いや、私。最初からずっとレベル1の魔法しか使ってないから。


 消費魔力なんて、ほんのちょっと」


「レベル、1だと? あの、神話級魔法も、レベル1の消費魔力で、展開したと……?」


「それが私のスキル。


 あの炎乃神剣、普通に使おうとしても並みの消費量じゃないよ。


 最大級魔法を連発してきたあんたじゃ、絶対無理」


 それを聞いて、レオーンは床に膝をつく。

 先に限界が来るのは、やはりレオーンだったのだ。


「……殺せ。俺を倒したものの、義務だ」


 完全に負けを認めたらしく、そうつぶやいた。


「なんでだよ。さっき言ったでしょ、力の証明は、」


「それは俺の流儀に反する。強き者は、弱き者の屍を乗り越え、先に進むもの。

 

 俺を倒したものには、俺の屍が必要だ」


「い、いらないって。そんなの。


 私はあんたを助けるし、罪を償ってもらう」


「……なら。俺は、ここで朽ちていく。敗者は、そう、あるべきだからだ!」


 そう言ったレオーンは、最後の魔法力を振り絞り……

 自分自身に、フェニックスの魔法を重ねた!


 ごおっと爆炎が上がり、それが収まったときには……そこにレオーンは居なかった。

 白い灰が、ただ床に散らばっていた。


「ば、ばかやろーが……そこまでするか……」


 しかしレオーンは、最後まで己の信念に殉じたのだ。


「そこは多少褒めれるかもだけど……でも。やっぱり、身勝手だと思う」


 そして、俺は艦橋へと急ぎ走りだしたのだった。

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