第73話 レオーン出現 ~百合喧嘩?
「ひゃー! あぶなく、つぶされるとこだったね!」
穴に飛び込み、舟の中に入った途端、通路のあちこちから壁がせりだしてきたのだ。
このままでは閉じ込められる、と直感した俺たちはすばやく隙間に入り込み、事なきをえた。
「それで。どこに向かえばいいの?」
周囲を見回し、レリアが聞いてきた。
「まったく分からん! なので、【広く、可愛く、奥深く】……『探知』!」
例によってたくさんの妖精さんが「わー!」とか言いながら飛び出していった。
しばらくして、一人の妖精さんが戻って来る。
「王がいる場所が分かった。ブリッジという場所だ。そこまでの道案内を頼む」
妖精さんが「こっちー!」と指さしながら飛んでいく。
俺たちは、妖精さんの後を追って走り出した。
通路内も、星の舟外壁と似たような、銀色というか光沢のある灰色をしている。
床はやや赤っぽい。
「舟って、こんななんだね! おかーさんに聞いた話とは、全然違うなー!」
レリアが走りながらきょろきょろしている。
「いや、私もこんな舟は見た事も聞いた事もないよ」
(たいていの舟は木製です。
こんな、鉄のような素材の舟は、わたしも見た事も聞いた事もありません)
ファニーが出てきてそんな事を言った。
星の舟、さすがに古代文明由来だけあって、彼女の目にも未知のもののようだった。
「……んっ!?」
先を行っていた妖精さんが、ふと何かに気づいたそぶりを見せ、俺の所に戻って来て耳打ちした。
俺はピタリと足を止める。レリアが振り向き、
「どうしたの?」
「探知妖精さんが、『探知された!』って。
どうやら、誰かが魔法でこちらを探知したらしい。
私たちの場所を特定した、ということは……」
「誰かが、やってくる?」
俺はうなずいた。たぶん、レオーン将軍だ……
そしてその予想通り、通路の向こう側から姿を現したのは、まさにレオーンだった。
「……よくぞ来た。用があるのは、そっちの黒髪のほうだ。
一対一を、希望する」
レオーンは真正面から俺を見て、そんな事を言いだした。
「金髪のほうには用はない。
この舟には、もうあとはブリッジの王しかおらん。可能であれば、討つもよし。
好きにしていい」
なんだって?
こいつ、王の警備を放棄した!?
「どういうことだ? 何かの罠か?」
「弱き者に生きる資格はない。
そやつに討たれるようであれば、王とてそれまでの存在。
俺が興味があるのは、強き者だけだ」
そう言って、レオーンは口の端に笑いを浮かべた。
「黒髪のほう、」
「私の名前はシルヴィア」
「あたしはレリア!」
いちいち髪の色で言われるのもなんなので、名を名乗った。
「……そうか。シルヴィアとやら、俺についてこい。
レリアとやらはどうせブリッジへと向かうのだろう。
止めはせん。しかし、この舟はあと二十五分ほどで、出港準備を整えるそうだぞ。
何かするなら、急ぐことだな」
「なぜそこまで? 王に従っているんじゃないのか?」
俺は疑いの目で、じっとレオーンを見すえた。
「……言っただろう。俺が興味があるのは強者のみ。
宇宙の旅も、そこへ行けば未知の強者が居るかもという、可能性に賭けただけだ。
この地上には、俺と並び立つものはもう居ない、と思っていたのだが……」
ここで俺の方を見て、
「まさかお前のような少女が、そうだとはな。だが、嬉しいぞ。
お前と俺は……ここで相まみえる運命だったようだ」
つまるところ、こいつはとにかく強いヤツと戦いたい、っていうだけなのか……?
武人タイプの魔法使いね……強者との出会いを、運命って言っちゃうような。
こいつの言葉は、信じても良さそうな気がしてきた。
とか思ってたら……
「ちょ、ちょっと!? シルヴィアちゃんが運命の人!? 結婚の申し込み!?
だ、だめー! シルヴィアちゃん、あんな人についてっちゃだめだよー!」
何を勘違いしたのか、レリアが俺の腕を取って引っ張った。
「違うって、レオーン将軍は私と二人きりで、魔法の勝負を」
「ふふふ二人きりー!?」
あっ言葉の選び方間違えたかも。
「シルヴィアちゃん、いつの間に男の人のほうが良くなったの?!
あんな、ごつくてガッチガチなおっぱいが良くなったの!? だめだよ!
シルヴィアちゃんはいつだって、隙あらば女の人のおっぱいを見ちゃう人じゃないと!」
俺、そんな風に思われてたのか!?
(ほんとそうですよ!
風呂に入るたび、わたしのおっ……胸を見下ろしてくるし!)
ああ、ファニーまで同意してる! でもそれはごめんなさい!
「シルヴィアちゃんは、女の人がすきじゃないと……あたし困る!」
と言って、レリアは俺の手を取ったかと思うと、自分の胸に当てさせた。
小ぶりだけど、ふわふわして温かみが伝わる……
「ってちょ! 何を!?」
あと困るって何!?
「こ、こっちのほうが良いでしょ! 戻って来てー!」
レリアが必死になって叫ぶ。
戻って来るもなにも、そういうつもりはないんだって!
「だ、大丈夫! レオーン、戦うだけ! 私女の子好き! 大好き!」
なぜかカタコトで言ってしまう俺。
「ほんとに!?」
「ほんとだって!」
「そ、そう!? よかったー……あっ!」
そしてレリアは、やっと自分のしでかした事に気づき、身を離した。
真っ赤になって胸を手で覆いながら、
「……えっち!」
いやいやいや……自分で触らせておいて……
「えーと。もう良いだろうか?」
ほらー、レオーン将軍も戸惑ってる!
目の前で、痴話げんかみたいなのを展開されて、戸惑ってる!
「あ、あー。ごほん。レリアは、妖精さんについていってくれ。王を、頼む」
咳ばらいを一つして、なんとか態勢を立て直す。
「分かったー! シルヴィアちゃん、気を付けて!」
レリアはブリッジ方面と思われる通路を走って行った。
変な事で時間を浪費してしまった……
まあしかし、あと二十分ちょっとあれば、じゅうぶんか。
「……こっちだ」
レオーンがぼそりとつぶやき、歩きだした。
俺はその後ろからついていく。
レオーンの背中を見ながら、
(ほんとごついな……しかし、男ならこういう筋肉にも憧れるもんだ。
……っていやいや、変な意味じゃないからな?)
レリアのさっきの妄言にやや影響され、自分の思考に自分で突っ込む俺だった……
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