第72話 星の舟始動 ~突入
「遺跡入り口に、つきました! はぁ、はぁ!」
アルカディーが息を切らしている。
ブースト俊敏は早く動けるが、疲労は普通にたまる。
宮殿からここまではそれなりの道のりだったし、リナを背負っているアルカディーはなおさらだろう。
「ふう、疲労回復の薬だよー!」
レリアがカバンからエナジー飲み薬を取り出して、配る。
「でも飲み薬はもう打ち止め―……」
「なら、ここからは二手に分かれよう。俺とレリアは星の舟に突入する。
アルカディーたちは、地下に居るエルフの人たちを避難させてくれ」
と俺がアルカディーに指示をだすと、彼はうなずいた。
「わかりました! 王を、止めてください!」
俺もうなずき、そしてあらためて四人で地下への階段に急いだ。
「星の舟に、光がともってるー!」
発掘所の空間までたどり着くと、レリアが開口一番、そんな事を言った。
確かに、星の舟のあちこちに光が点灯していた。
そのうえ、ズズズ……というような音が地下空間に響いている。
何事かと休憩室から出て来たらしい女性エルフと、その警護の男が数人うろついていた。
「みなさん! 星の舟が出港準備に入ったようです!
地下から、避難してください! 地上は、ほぼ制圧しました! 安全です!」
アルカディーが指揮し、地下に残っていたエルフをまとめて、避難行動にうつさせた。
それを確認し、俺は最上級火炎魔法を星の舟にぶち込む。
が、表面が焦げ付いただけだった。
「さすがに無理か。なら、空間ごと削り取ろう。
【強く、可愛く、切り開く】! 『グラビティバレット』!」
強化された重力魔法弾は、星の舟の外壁に丸く穴をうがった。
「よし、突入だ!」
▼
――星の舟のブリッジ。
突然、ブリッジ内の赤ランプがつき、警報がけたたましく鳴り響いた。
「な、なにごと!?」
リュドミール王が座席から腰を浮かせる。
「落ち着いてください。王は、この舟のマスターに登録されたのでしょう。
この舟の人工知能とやらに、答えを聞いてみては?」
「そ、そうだった。おい、システム・セルシエル。何が起こったのだ」
レオーンの言葉に落ち着きを取り戻した王が、天井に向かって叫ぶ。
すると、天井から言葉が返って来た。
<第903セクター・Aブロックに、穴があいています>
(システム・セルシエル……この舟を管理している者だというが……
実際には肉体はなく、この声も作り物だという。不気味な存在だ)
レオーンが天井からの声に、心の中でつぶやいた。
<このままでは宇宙に出た際に、空気が抜けてしまいます。
そうなれば、舟の中にいる生命体は窒息死してしまうでしょう>
「なんだと!? どうすればいい?」
王がさらに慌てふためき、天井に問いかけた。
<速やかに、隔壁閉鎖を行う必要があります>
「ならば、それをすぐしろ!」
<実行しています>
ふう、と王が胸をなでおろし、座席に座り直した。
レオーンの方を振り向いて、
「どうも、これには自動的な安全装置が組み込まれているらしい。
多少のことでは、人の手をわずらわす必要はないようだ。
出港準備も、マスター命令ですべて自動でやってくれる。
三十分後には、すべての準備が整うようだ」
「はあ」
特に興味もなさそうにレオーンが答えた。
<舟内部に、未登録の人物が侵入しています>
「なんだと!?」
だがシステムの次の言葉に、再び腰をうかす王。
<正面モニターに映します>
ぶん、と音を立てて、正面のガラスのようなものに映像が浮かび上がった。
そこには、二人の女が映っている。
「こやつら……
ドローンの映像でも見た、エルフたちを指揮している者たちのようです」
映像には、二人が閉まりかけている隔壁の隙間を、素早くすり抜ける様子が映っていた。
そして、その先の通路で立ち止まり、周囲を見回しているようだった。
「そ、阻止しろ! そやつらはただの劣等民族だ!
この舟にはふさわしくない者どもだ! ネズミは駆除しろ! 二匹ともだ!」
王がそう命令したが、
<この舟には、警備ドローンが配備されていません>
「くそ、警備兵は居ないということか!?
なら、ヴァルキリー部隊を……ってまだ、来ないのか、あの者たちは!」
彼女らにも当然、転送装置の使い方は教えてある。
人間の雑魚数名など、秒で全滅させたはず。
もう扉をくぐって、こちらに来ていてもおかしくない……
王は焦り、青くなっていた。
「やつらは思った以上の戦力だったのか……?」
(宇宙への旅のために、王の持ちうる権力を全て使い……
ヴァルキリー部隊を選別、編成したのだ。
美しさと強さを兼ね備え、古代文明の武器も持たせた最強の特殊部隊。
彼女らだけで、人間の国の王都だって簡単に落とせる戦力がある。
の、はずだったというのに!)
両手を組み、足を踏み鳴らす王。
いらつきを隠そうともしていない。
「これは……」
そんな王とは裏腹に、落ち着いて監視ドローンからの映像をチェックしていたレオーン。
ある映像を見て、小さいが驚きの声をあげた。
「ドローンからの映像によると、舟に穴を空けたのは、あの黒髪の少女のようです。
ぜひ、俺にあの少女の阻止をさせていただきたい」
と、モニターを指さし、珍しくレオーンが王に意見を申し立てた。
今では、二人の少女はどこかを目指してか、通路を走っている。
「ま、待て待て! 貴様がここを離れたら、わしの身を守るものが誰もおらん!」
「ほどなくヴァルキリー部隊が戻るかと」
「な、ならん! 貴様はここをうごくな、うっ……!?」
王が恐怖に身をすくめた。
レオーンの目には炎がともり、王を射抜くかのように睨み据えていたのだ。
「黒髪の少女は、俺が生涯求めていたものを持っているかもしれないのだ。
誰にも邪魔はさせん……俺は、あの少女の元へ行く。
王も、例の剣はお持ちのはず。
あの剣を使いこなせれば、なに、ネズミ退治など。簡単でしょう」
そう言いのこし、ブリッジから出る扉に向かって歩き出す。
その背中に、王は言葉をかけることが出来なかった。
星の舟の廊下を走り抜けながら、レオーンは高揚していた。
王の言葉に逆らって行動するほど、衝撃の事実がドローン映像に映っていたのだ。
(古代文明の舟に、穴を空けただと……? これは、強者の予感がする。
ぜひとも、手合わせをしなければならない……!)
レオーンは知らず知らずのうちに、薄い笑いを浮かべていた。
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