第70話 強化、安物の剣 ~奪還作戦開始

 ふたたび拘束されるグリゴリー。

 当分、目を覚ますことはないだろう。


「グリゴリー、武器庫があるって言ってたな」


「ええ、確かにあります。当然、立ち入り禁止でしたが。


 中の武器、持ってこさせましょうか?」


 エルフの一人が聞いてきたので、うなずくと数人のエルフがその場所へと向かって行った。

 武器はあって困る事はないだろう。


 白熱剣が残ってるなら、試したいこともある。


「あと……そうだ。


 休憩室で休んでる女の人たちにも、これからやる事を伝えたほうが良いんじゃ?


 気づいたら男の人たちが皆いない、ってなったら困るでしょ」 


 アルカディーに話しかける。


「そうでしたね! ちょっと、頭に血が上り過ぎていたようです。


 彼女らにも、話しておきます」


「その人たちに、分けてあげたいものがあるんだ」


 俺はレリアを呼んで、カバンから数本の小瓶を取り出してもらった。


「メガエーテルだ。少量でも、かなり魔力は回復する」


「消耗してる人たちにあげてねー!」


 レリアが小瓶を惜しげもなく差し出す。


「おお! ありがとうございます、何から何まで……!


 あなたは、ティエルナの方々はエルフの英雄です!

 

 全てが終わった時には、全エルフ総出であなた方を歓待するでしょう」


 アルカディーがそう言って、また頭を下げてきた。


「そういうのは本当に終わってからね。


 こんな時、先の話をすると良くないって言うでしょ」


「そうなのですか?」


 ジンクスみたいなものだよ、と俺は肩をすくめた。

 と、リナがアルカディーに向かって、もじもじしながら言い出した。


「リナも、ぜんぶ終わったら……アルカディーお兄ちゃんに、話があるの! 


 だ、大事な!」


 そういうのがダメー!



 いったん、宮殿への突撃は中止。

 女エルフたちへの補給と、情報伝達に少し時間を割くことになった。



 ここで、様子をうかがっていた『人間の』冒険者たちが話しかけてきた。

 過去に行方不明になった人たちだ。全員、無事のようだった。


「同業者がここまで乗り込んで来て、解放してくれるとは。ほんとうに助かった!」 


 と何度も礼を言って、彼らも「エルフ王との戦いに参加する」との意思を示してくれた。

 

「これでエルフの里での目的の一つが、達成されたわけですね!」


「あとは。全員無事に帰還出来れば。完璧」


 彼らも『伝説級』こん棒を装備している。冒険者らしく、活躍してくれるだろう。




 武器庫に行ったエルフたちが戻って来たが、置いてあった武器は全部、白熱剣らしい。

 といっても数本だったが。


 そしてエルフは「これも鉄製品」として、使う意思はなさそうだった。


「まあ、そりゃそうか」


「でもこれ、シルヴィアちゃんの強化武器、溶かすなんて思わなかったよねー!」


 レリアの言う通り、あの時はさすがに驚いた。


 でも、だからってここにある武器を、自分たちで使えるようにして対抗するのは……

 なんか、負けな気がする。これに対抗できる、武器を作りたい。


「でも、マティちゃんもエリーザさんも、手持ちの武器がないよー?」


「予備の剣。いちおうある」


 マティがアイテムボックスを開いて、そこから剣をいくつか取り出した。


 どれもこれも、打ち損じや安物、廃品、失敗作。

 適当な武器屋で、適当に貰ってきたものばかりだ。


「ショートソードもありますね! 


 しかし白熱剣と斬り合えば、強化しても、また切断されてしまうのでは?」


 グリゴリーはあの白熱剣を『宇宙規模』の性能、とか言っていた。

 なら……


「【強く、可愛く、コズミック】! 『強化』!」


 安物の剣を、『宇宙的強化』してみた。刃がやや白く発光している。

 一見、魔法剣のようになったが……そしてやはり柄が可愛い絵柄。


 試しに白熱剣を起動、その刃と触れ合わせてみた。


「あっ! 溶けないよー!」


 レリアが喜びの声を上げた。


 『宇宙的』安物の剣は、見事に白熱剣に耐えている。

 マティに白熱剣を持ってもらい、軽くつばぜり合いをしてみた。


 バチンバチンと、なんか弾かれる感はあるが、普通に剣を合わせることが出来る。


「大丈夫みたい。さすがおねいちゃん」


 マティは俺の呼び方を「おにいちゃん」と「おねえちゃん」と、状況によって使い分けてきたが……

 ついに混ざってしまった。


 それはそれとして、これで普通に勝負になりそうだ。

 そして、俺たちが着ている衣装も『宇宙的強化』する。


 衣装の端っこを白熱剣でつついてみて、変化がなかったので軽く体の方にも打ち込んでみた。

 

「棒で叩かれたような感覚はありましたが、大丈夫みたいです!」


「これで攻撃も防御も『万全』だねー!」


 それ俺の口癖……最近使ってなかったかもだけど。


 ともかくこれで、やつらの古代文明由来の武器にも対抗できる。


「これ。不要?」


 残った白熱剣を指さし、マティが言った。


「ああ。全部置いて行こう」




「準備、整いました!」

 

 アルカディーが報告してきた。

 女エルフの魔力が戻ったおかげで、朝からの労働で疲れていた男たちを、回復させることも出来たようだ。


「よし。では、エルフの里の奪還作戦を開始する!


 目標、王の宮殿!」


 俺が宣言すると、おおーっ! と地下にエルフたちの叫びが響き渡った。



 ▼



 エルフの里、遺跡入り口付近。


 警備している老エルフの一人が、耳をすませた。


「ん? これは、地響きか?」


 他のエルフも、目をとじて聴覚に集中する。


「地震?」


「地下から、聞こえてくる気が……」

 

 言っている間にも、どどどどど、とはっきりとした音がどんどん登って来る。


「……これは、反乱だ!」


 気づいた時には、こん棒をもったエルフ労働者たちが、地下から次々と姿を現していた。



 ▽



「それー!」


 先頭のアルカディーにおんぶしてもらっているリナが、首輪解除装置のスイッチを押す。

 いきなり首輪が外れて戸惑う、老エルフの警備兵たち。


 そして首輪のない、王の計画に乗った一部の若エルフ警備兵たちへ、労働者エルフたちが殺到した。

 

「反乱者ども! まだ、抵抗するか!」


 そう言って剣を抜いた。


 エルフも帯剣することはあるが、その時は必ず木剣だった。

 魔力を流し込めば、鉄と同等の耐久力を持つため木製であっても十分だったのだ。


 だが彼らは、古い殻を破れという王に賛同しているため、鉄の剣を使うようになっている。


「多勢でも、こん棒ではな!」


 振り下ろされるこん棒を、若エルフが切断しようと剣をふるう。


「なに!?」


 バキンと音を立てて折れ飛んだのは、鉄の剣のほうだった。 

 遺跡入り口のそこかしこで同じ光景が繰り広げられ、武器を失った若エルフたちは囲まれ、両手を上げる。


「リュドミール派であっても同胞だ、命までは取らない」


 アルカディーが指示し、降伏した若エルフたちを拘束していくが、


「そこまでだ!」


 白熱剣を装備した三人の若エルフが、木の上から飛び降りてきた。


「【強く、可愛く、幅広く】! 『ライトニング』!」


 そいつらに向かって、俺が範囲を拡大した雷撃魔法を放った。

 二人は気絶したが、一人がかろうじて反応、白熱剣で雷撃を散らせることに成功した。


 しかし、マティがすかさずその一人に突進し、二合ほど斬り合って白熱剣を飛ばしてしまう。

 そしてみね打ちできっちり失神させたのだった。


「古代文明由来の武器を装備した連中は、私たちに任せて!」

 

 俺が叫ぶと、マティも宇宙的安物の剣を高く掲げて、その意思を示す。


 うおおおお! と、労働者エルフたちはまた士気が上がったように、雄たけびを上げた。

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