第69話 強化、木の棒 ~グリゴリー戦決着

「王の支配から、エルフの里を解放するんだ!」


 そうだ、そうだ! と地下空間に居るエルフたちが賛同し、声を上げ始める。

 なんか今すぐにでも、ここから王の元へと攻め上がりそうな勢いだ。


「でも……どうするの、武器は?」


 リナが、アルカディーを見上げて聞いた。


「それは……」


 当然、地下の労働者が武装を許されているはずもない。


「魔法が使えるものもいる。彼らを前面に押し立てて、」


「それにしたって相手は正規兵だろう、数で押すには分が悪い。


 土を掘るための、スコップやツルハシは武器にならない?」


 俺は地面に置いてあるそれらを指さして言った。

 しかし、アルカディーは首をふった。


「……これはエルフのこだわりというか……鉄製品は使わない風習なのです。


 この発掘自体、鉄の部品のあるスコップやツルハシを使わされる事に、抵抗感があるのです。


 それもかなり強力な……なので、皆のストレスも相当なものでした」


「そういえば、エルフは自然と共に生きる民族だと、聞いた事がある……」


 自然のものを分け与えてもらい、自然に感謝を捧げながら生活していると。

 だから、武器も木製の弓矢を使う。

 

 俺たちが着ている民族衣装も、カイコとかいう虫が吐く糸を元に作られているらしい。

 自然由来の装備ってわけだ。


「……じゃあ、木であれば良いんだね?」


 と、俺はエリーザに手伝ってもらってツルハシから鉄の部分を抜き取り、木の棒状態にした。

 その棒に、


「【強く、可愛く、素晴らしく】! 『強化』!」

 

 とスキルによるブースト強化をかける。


「これで、鉄より強い、木のこん棒が出来た」


「!?」


 意味が分からない、といった様子のエルフたち。


 エリーザにこん棒を手渡し、抜き取った鉄部分を、こん棒で思い切りぶん殴らせてみた。

 ひん曲がったのは、棒ではなく鉄のほうだった。


「おおおおお!?」


 とエルフたちがどよめいた。


「てことで皆、ツルハシから木の棒を調達してくれ。


 どんどん強化して、この『伝説級』こん棒を作って行こう。


 これなら、大丈夫だよな? 木である事には変わりないし」


「は、はい! ありがとうございます! シルヴィアさん!


 みんな、ありったけのツルハシを持ってきてくれ!」


 アルカディーとエルフたちが頭を下げて感謝を示した。

 そして、ツルハシを確保に走って行く。


 しかし。この、こん棒……

 マティの『伝説級』打ち損じロングソード同様、可愛い絵柄がプリントされるんだよね……



「集まったよ! ツルハシ!」


 リナが報告してきた。


 というわけで、あるだけのツルハシから『伝説級』こん棒を作りまくる。

 そして、エルフたちに一人一本、配布していった。



「みんな、こん棒は持ったな!?」


 アルカディーが確認する。


「おお!」


 可愛い絵柄の『伝説級』こん棒を振り回す、大勢のエルフたち。


「よし……王の宮殿まで、突撃だ! 行くぞォ!」


 うおおおお、と盛り上がるエルフたちに、水をかける者が一人いた。


「おーっと、そこまでだ、豚ども!」


 声の方を振り向くと、いつの間にか拘束を解いたグリゴリーが白熱剣を構え、立っていた。


「グリゴリー!? あれー? どうして?」


 レリアが驚きの声を上げた。


「驚いたかい? 皆が反乱の準備に気を取られている隙に、やってやった!


 この剣は精神の呼びかけに応じて、自力で手元に戻ってくることが出来るんだ!」


 その剣、自分で動くことすらできるのか!

 さすが古代文明の遺産、まったく想像を超えてくる。

 

「この剣の性能は、宇宙規模だからな!


 剣にマスターとして登録すれば、誰だって出来るようになる! 


 登録のやり方は、黄色いボタンを押して、音声案内に従うと良い!」


 素直になってるせいで、べらべらと手口を明かしてくれるグリゴリー。

 頭の悪い、悪役みたいだ。いや、実際そうだけど。


「そして、これさえ手元に戻れば、俺は無敵さ!


 もうさっきの手には引っかからないぞ、皆、ぶった切ってやる!


 可愛い子ちゃんだけは、残してな! 愛人にしてやる! そしてもむ!」


 うう、気持ち悪い。

 エリーザさん、任せていいかなあ、こいつの処遇。


「任されました!」


 ずいと前に出るエリーザ。


「またそいつか? 今度は素手でかかってくるつもりかい?」


「さっきは、剣をも溶かす光の剣に、腰が引けてしまいました。ふがいない……


 しかし、私はその恐れを克服します。今までもそうやってきました!」


 おばけの恐怖は乗り越えられてないので、けっこうハッタリかましてるなこの人。


「ふん、かかってくるといい。拳は剣よりも強し、なんてありえないからさあ!」


 グリゴリーが剣を持ってない方の手で、ちょいちょいと挑発する。

 エリーザが、両拳を胸の前に構えて、突進した。


 そこへ、グリゴリーが真っ向から白熱剣を振り下ろす。

 

「あぶな……!」


 リナが悲鳴を上げかけるが、エリーザは剣を紙一重でかわしていた。


「おっ!?」


 そしてかわしざま、グリゴリーの伸びた手に、手刀を入れる。

 グリゴリーは呻き声をあげ、白熱剣をぽろりと落としてしまった。


「すごい!」


「真剣白刃取りすら出来るエリーザ。剣筋を一度見切れば。避けるくらい簡単」


 リナの肩に手をかけて、マティがそう言った。


「いってえええええ! 手首が砕けた! しゅ、手刀一発で……!?」


 グリゴリーが手首をおさえ、わめきたてる。


「終わりですね。あっさりですが」


「う……うるさい、まだ……終わりじゃない! 来い! 剣よ!」


 砕かれてない方の手をかざし、地面に落ちた白熱剣に呼びかける。

 すると白熱剣はふわっと浮かび上がり、グリゴリーの手に向かって行った。


「うわあ、なにあれー!?」


 不思議な光景にレリアが驚きの声を上げた。

 しかし、


「ふん!」


 とエリーザがそれを空中で掴み、地面に叩きつけ、踏みにじった。

 バチバチと火花をはじけさせた後、光の刃は消えてしまった。


「うおおい!? 何てことを……! 


 予備はいくつか、地下別室の武器庫にあるけども!


 おれたちには新しく作れない、貴重品だぞ……ぐぼおっ!」


 最後は、腹にパンチを食らって出したグリゴリーのうめき声だ。

 指をボキボキならしながら、エリーザが言う。


「最後に言い残すことは?」


「や、やめろ! 助けて! お、お前も良く見たらデカいな、可愛い子ちゃんより!


 も、もみたぐわああああああああ!?」

 

 エリーザの拳の連撃をうけ、ぶっ飛んでいったグリゴリーは星の舟にぶつかり、動かなくなった。


「……ふう。やっと、思う存分ぶん殴ってやれました」

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