第68話 エルフ解放 ~衝撃
尋問を進めた結果、とりあえず首輪爆破用スイッチは、グリゴリーの一人しか持っていないようだ。
予備も、同じような機能を持つ違うなにかも、存在しない。
その辺りは念入りに確認した。
「くそっ、洗いざらい、しゃべっちまったい! それはそうと、おまえも可愛いな!
胸もデカい、正直好みだ……人間のくせに! もみたい!」
と俺を見つめてグリゴリーがわめく。これまた気持ち悪い。
というか素直になると、欲望もダダ洩れになるわけか……
「煽情的な格好しやがって、実にいい!
おまえだけは劣等種族でも、特別に愛でてやろう!」
エルフの目からしても、この服はそう映るのかよ、伝統衣装だろう!?
なんか恥ずかしくなってくるじゃないか……
「余計な事は言わなくていいから。質問だけに答えてくれ」
「命令するな、劣等種族が! でも分かった! んぐっ!?」
一応、素直に従ってくれるグリゴリー。
「じゃあ、次は首輪の、安全な解除方法だが……」
「じ、じゃあ、いくよ……押すよ、スイッチ……」
リナが、緊張しながら、グリゴリーから奪った首輪の制御装置を握りしめる。
労働者のエルフたちも、ごくりと唾を飲み込んだり、手を合わせて何かに祈る者もいたり。
もし、スイッチを押したとたん、一斉に爆発でもしたら……
そんな想像が、皆の頭によぎっているのだろう。
「せ、せえの! 押した!」
カチッ。
リナの手元の装置の一部が緑に光り、同時にエルフたちの首輪からピーッと音が鳴った。
「……首輪が、ゆ、ゆるんだ!」
「外れるぞ……これ!」
「や、やった……!」
労働者たちが、次々と自分につけられた首輪を外し、地面に投げ捨てた。
天に向かって両手を掲げる者、二人で抱き合って泣きだす者、雄たけびを上げる者。
皆、死の恐怖から解放された喜びに浸っていた。
そして、
「ありがとう! 本当にありがとう!」
「助かった……! もう、あの王に従わなくていいんだな!」
リナに向かって、次々に感謝の言葉をかけてくる。
「あたしじゃない! あなたたちを助けたのは、ティエルナの人たち!
あなたたちの言う、よそ者だよ! 人間だよ!」
うっ、と一瞬ひるむエルフたち。
だがアルカディーが率先して彼らの前に立ち、
「そうだ、俺たちを助けてくれたのは、あの人間たちだ。ありがとう。本当に。
そして、頭ではいけないと分かっていても……
いまだに偏見の目が残っていた俺を、許してくれ」
と俺たちに向かって頭を下げた。
それに習うかのように、他のエルフたちも感謝の言葉を口にした。
「すまない。ありがとう……!」
「命の恩人に、エルフが失礼な態度をとるわけにいかない」
「ありがとう、ありがとう。本当に、助かった」
ふかぶかと、頭を下げてきた。
「お嬢ちゃんにも、感謝と謝罪を。
さっき、ハーフエルフをさげすむような言葉を口にしてしまった。
ほんとうに、悪かった……」
「い、いえいえ! そんな! だいじょうぶだよー!」
何人かに頭を下げられて、ちょっと慌てるレリア。
「あなたが、ティエルナという、パーティのリーダーですか。
我々エルフは、あなたのとった行動を、一生忘れないでしょう。
リナも、お世話になったみたいで。心からの感謝をささげます」
リナと一緒に、アルカディーがやってきて二人そろって頭を下げてきた。
「もういいって。感謝の言葉は十分いただいたよ。
そして、まだ王と将軍が残っている。エルフ解放作戦は、これからが本番だよ」
俺は頭をかきながら、二人にそう言った。
「ぐ……んぐ……!」
さっき言っておいた「さわぐな」という言葉にいちおう素直にしたがって、静かにうなっているグリゴリー。
しかし拘束からは抜け出そうと、じたばたあがいてるようだ。
「それじゃ、尋問を再開しようか。次は、王と将軍の情報について、色々聞くかな。
詳しく、話してもらおう」
「この可愛い子ちゃんが……! 豚どもを解放しやがって、許さない! もみたい!
しかし王と将軍ね……王は見ての通りの、保守的なエルフの殻を破ってくれる賢王だ。
将軍は全ての魔法を極めつくした、唯一無二の存在なのはエルフなら皆知ってるだろう。
そういや、その二人なら明日にはまた、ここへ戻って来るみたいだぜ」
どういうことだ?
視察はたまに、という事だったが。
「なにせ準備が出来たみたいだからな。星の舟は、もう動ける。
そして、舟全体を、掘り出す必要はなくなったらしい。
舟の出力なら、埋まってる地面を割って飛び立てるのが、今日判明したんだ」
グリゴリーの周囲に集まっていたエルフたちがざわめいた。
「じゃあ、俺たちは一体なんのために!?」
「どれだけ、あれを掘り出すのに、こき使われてきたと思ってるんだ!」
と口々にわめきたてている。
「うははは、おまえらは一応は役に立ってるぞ。
星の舟のブリッジを掘り出せなきゃ、判明しなかったことだしな」
グリゴリーがバカにしたような笑い声を立てる。
そんなグリゴリーに掴みかかろうとしたエルフを、アルカディーが止めた。
「王は、将軍を筆頭に、自分に従う数人の親衛隊たちと、明日宇宙に発つつもりさ。
俺も当然含まれてるがな! このことは一部の王一派しか知らない。
ここを監視しているやつらも、ほとんど切り捨てさ!」
グリゴリーが周囲に集まってきているエルフたちを見回して叫んだ。
「だから、豚の教育は今日が最後だった。
思い切り、教育してやるつもりだったのを……!
可愛い子ちゃんに邪魔されるなんて! すきだ!
明日の今頃は、飛び立つ星の舟から、吹っ飛ぶ豚どもを見下ろしてるはずだったってのに!」
吹っ飛ぶ!?
何を言っているんだ?
「そりゃ、そうだろう。必要な人員を星の舟に乗せたら、王はすぐにでも飛び立つ。
そうすりゃこの遺跡、その飛び立つエネルギーで吹っ飛ぶってさ。豚ごとな。
この下には、さらにデカい本体が埋まってんだ。
それを浮かばせるエネルギー、相当とんでもないらしいぜ」
確かに、空を越えて、宇宙にまで飛んでいく舟なんて……
どれだけの力を秘めているのか、想像もつかない。
「エルフという種族が、選ばれし民だとぬかしておいて、それか!」
アルカディーが、怒りを込めてグリゴリーに叫んだ。
「豚どもを働かせる方便さ。豚どもも、多少はいい気分だっただろう?
選ばれし民と言われてな!
まあたしかに、選ばれし民ではある。エルフはほかの種族とは違う。
が、王はその中でも、さらに厳選したエリートと宇宙に行くつもりなのさ!
古代文明に追いつくには、有象無象は必要ないってな!」
グリゴリーの高笑いが、エルフたちの耳に不快に響いた。
「明日には、ここが、崩壊する……」
その事実は、衝撃となってエルフたちを襲った。
「リュドミールめ、俺たちの命を何だと思っているんだ!」
「働かせるだけ働かせて、最後はあっさりと切り捨てるのか……!」
怒りに震えるエルフたち。
いまこそ王を討つべし、俺たちは自由だ!と叫ぶ者もあらわれた。
「そうだ! やつを王の座から、引きずり下ろすんだ!」
「俺たちが全員でかかれば、いける!」
アルカディーも声を上げる。
「王の支配から、エルフの里を解放するんだ!」
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