TS賢者は魔法を可愛く最強無敵化する～ 勇者パーティに始末されたはずが何故か女の子になった俺、スキル【強く、可愛く、頼もしく】を使って無双しちゃいます

第67話 決着 ～グリゴリー尋問

「【強く、可愛く、頼もしく】！　ファイアーボール！」

「おっ！？　今度は魔法かい！？」

　俺は柵から乗り出し、強化した火炎魔法をグリゴリーに放った。

　だが、それすらもグリゴリーの振るう白熱剣で散らされてしまった。

「ああっ、かわいそう！　可愛いフェニックスちゃんが！」

　リナがやや緊張感のない悲鳴を上げた。

「【強く、可愛く、食らいつく】！　ライトニング！」

　だが追尾雷撃も、次に放った岩パンチも、白熱剣で全て消滅させられてしまう。

　……こいつ、反応速度も尋常じゃないな。

　魔力で肉体を強化している。しかもその魔力量は、黒ローブの襲撃者たちの比ではない。

　しかし、ブーストした魔法もことごとく無効化されるとは……

「分からないかい？　魔法文明と科学文明の、究極の到達点なんだぞ！

　古代シュイロークァ文明は！　その技術が作り出したものに、お前ら程度の！

　劣等種族の魔法やらなにやらが、効くわけないだろう！」

「つ、つよいー！　シルヴィアちゃんの魔法も効かないの？

　ど、どうしよう、シルヴィアちゃん！？」

　レリアがしがみついてきた。

「確かに、強いな」

　しかし、今使ったものを越えるブースト魔法は、実はある。

　ただ……それを使った場合、白熱剣は消し飛ぶだろうが、グリゴリーも消し飛ぶ。

　そして、この地下空間もどうなるか分からない……

　そもそも今回は、グリゴリーの身の確保が最優先なのだ。

「さあ、次は何をやるんだい？　全て切り裂いてみせるよ！」

　グリゴリーが白熱剣を振り回しながら、ニヤリと笑った。

　物理的なものも魔法も、攻撃は全て通用しなかった。

　確かに、あの白熱剣は究極の剣かもしれない。

　だが、それを使うグリゴリーは、別に究極のエルフってわけではないのだ。

「なので、そこをつくけど……

　マティ、エリーザ、周りの人たちも、ちょっとごめんな」

　と前もって謝っておく。

　そして、すっと手をグリゴリーに向け、

「【強く、可愛く、頼もしく】！　ライト！」

　久々の、点灯魔法を使った。　

　瞬間、俺とグリゴリーの間の空間に、爆発的な閃光が発生する。

「うああっ！」

「きゃあ！？」

「まぶしっ！」

　グリゴリーを含めた、この空間に居る者全員が叫び声をあげる。

　猛烈な輝きに、完全に視界を奪われたのだ。

「いくら素早くても、あらゆるものを切り裂けても。

　『光』はどうしようもないだろ？」

「く、くそお！」

　涙目になりながら、やみくもに白熱剣を振り回すグリゴリー。

　しかしそのうち、動きがどんどんと鈍っていった。

「な、なんだ？　この、感覚は……」

　からん、と白熱剣を取り落とす。

　光の刃は、地面に落ちると同時に消えた。　

「なぜ、落とすんだ……？　これは、一体……」

　そしてグリゴリー自身も座り込み、ついには地面に突っ伏してしまった。

　そのまま、いびきをかきだす。

「【ゆるく、可愛く、たどり着く】。そしてウィンド。

　おまえの元にふわっと届く、風を起こした。

　その風に、レリアの眠り香水の香りを乗せてみた」

　俺はレリアの香水瓶を振ってみせた。

　グリゴリーは高いびき中なので、見る事はできないが。

　起こした風には、例によって『可愛く』効果でキラキラなエフェクトが発生していた。

　ライトで視界を奪ったのは、それをグリゴリーに気づかれないようにするためでもあった。

「うまくいったねー！」

　俺とレリアでハイタッチ。

　レリアの目は、ブーストしたライトを使った瞬間に俺が手でふさいだ。

　そしてグリゴリーが動きを止めている間に、香水を準備してもらったのだ。

「これで、グリゴリーは確保した。

　ちょっと周囲の人たちにまぶしい思いをさせたのは申し訳ないけど」

　▽

「アルカディーお兄ちゃん！」

「リナ！？　ど、どうしてここに！？」

　驚愕に目を見開き、地面に膝をついていたアルカディーがリナを見上げた。

「たすけにきたの！　はい、ポーション！　そっちの人にも！」

　リナがレリアから受け取ったポーション瓶を、アルカディーに渡す。

　戸惑いながらも、ぐっとそれを飲み干したアルカディーの傷は、みるみるうちに回復していった。

「すごい効果だ！　

　こんな高級ポーション、どうしたんだ？　それに、その人たちは？

　……人間？　なのか？」

　周囲のエルフ労働者も、ティエルナの面々を眺めてひそひそと言葉をかわしあう。

　その目には、疑念の色が濃かった。

「人間？　エルフの民族衣装を着てはいるが、人間……？」

「どういうことだ……？　しかもあの子はハーフエルフか？　

　人間の血の混ざった……」

　レリアがその言葉に少しうつむく。

「あ、お兄ちゃんも！　みんなも！　

　ティエルナの、あの人たちを変な目でみるの？」

　リナが腰に手を当て、アルカディーを睨みつけ、周りのエルフたちをぐるっと見回す。

　そしてまたアルカディーに視線を戻して、

「前にお兄ちゃん、言ったよね？　

　『自分たちとなにかが違うからって、下に見たり攻撃したりする人たちは、悲しい人たちだ。

　そんな人たちの言う事を気にすることは無い。リナは堂々としてればいい。

　リナも、見た目や種族で優劣を決めるような人には、なって欲しくないな。

　そして自分を誇るなら、他の人たちの誇りも認めてあげれる人になろうね』って！」

　他民族を見下しがちなエルフだが、若い人々の中には偏見を抱かないものも増えている。

　その中にあって、アルカディーは特別その傾向が強かった。

　その点でも、リナは好きになったともいえる。

「う……そ、その通り、だ」

「どうして、そんな事を言ったんだっけ？」

　リナがぐいっとアルカディーに顔を近づけた。

「リナの、容姿をバカにする子供たちが、いたから……」

「リナのためだけの言葉なの？　

　あの人たちを変な目で見るなら、王の言葉に毒されかけてるんじゃないの？」

　アルカディーは恥じるようにうつむいた。

「あの人たち、アルカディーお兄ちゃんたちを助けにきたんだよ！　

　これから、首輪を外してあげるんだから！」

　リナのその言葉に、エルフたちは大いにどよめいた。

　▽

「う……」

　グリゴリーが気が付いたようだ。

　既に手足はぐるぐる巻き、完璧に拘束されている。

「お、おまえら！　こんなことをして、タダで済むと思うのかい？

　人間ども！　劣等種族のくせに！　早く解放しろよ！　

　特別に、鞭打ち百回で済ませてやらなくもない！」

「この状態でもその虚勢、大したもんじゃあるかも。……レリア、よろしく」

「はーい！　それーシュっとね！」　

　グリゴリーの鼻先に、例の香水をひと吹き。

「がっ！　何をしたんだい！？　毒ガス！？　……う、良い香りじゃないかい！

　そして、おまえ可愛いな！　んあっ！？」

　とつぜん素直になるグリゴリーがちょっと気持ち悪い。

　レリアも褒められて困惑している。

「じゃあ、さっそく首輪について聞かせてもらおうかな。

　どこにある？　誰が持ってる？」

「教えるわけないだろ、バカか！　おれが持ってるに決まってる！　あれっ？」

　いちいち素直になってる自分に驚くグリゴリー。

　うっとおしいが、このまま尋問を進めよう。