第66話 グリゴリー戦 ~究極の剣

「グリゴリー、起きてくるの昼前くらいなんだ。


 働かされてる人たち、めちゃめちゃ早朝からなのに」


「やな現場監督だな……」


 そしてリナの言う通り、昼の一時間ほど前にグリゴリーは姿を現した。

 リュドミールが来た方向の階段を降りてきたようだ。


「あれが、グリゴリーか」


 グリゴリーは背が高く、痩せ気味の若いエルフの男だった。

 鋭い眼光を光らせ、手には鞭を持っている。


 剣の使い手らしいが、それっぽいものは装備してないようだが……?


「そういや、リュドミール王たち、ブリッジってのから出てこないな?」


「ブリッジに入って、けっこう経つのにねー?」

 

 いまはグリゴリーの一人だけが目標だが、全員揃ってるとやり辛くなる。

 

 とか言ってたら、ちょうど王たちが出てきた。 

 そして、王と将軍と現場監督は三人顔を合わせ、しばらく言葉を交わす。


 その後、王と将軍は階段を登って去って行った。


「残ったグリゴリーはしばらく、一定の巡回ルートをぐるぐるするよ。


 そして、鞭をふるいたいだけふるうんだ。気まぐれに……」


 実際、労働者の周囲を歩き回っていたかと思うと、突然一人を選んで鞭で叩きのめしだした。


「手、抜いてんじゃないぞ! 何だそのへっぴり腰は! おらぁ! うはは!」


 打たれている男が鞭から逃れようと身をよじる様を、グリゴリーは笑っていた。


「……ひどい男ですね」


 エリーザが拳を血が出るんじゃないかってほどに握りしめている。


「いつも以上にひどいよ。


 でも、止めに入ったら自分もやられるから、周りの人もなかなか動けない」


 リナも、悔しそうに身を震わせた。

 と、その時。

 

 打たれて地面でもがいている男とグリゴリーの間に、一人の男が入って来た。


「もうやめてくれ! 


 こいつは、昨日もあんたに意味もなく打たれて、片目を失ったんだ!」


「アルカディーお兄ちゃん!?」


 リナが叫んで柵から乗り出そうとしたところを危うく抑えた。

 あれが、リナの大事な人か。


 見た目もイケメンだが、行動もイケメンだな……むう。


「ちょっと、あれはリナのだからね! 色目使わないでね!」


 ち、ちがっ……!


「女どもの回復で、また見えるようになってるだろ? なら問題ない。


 いま俺は、豚の教育をしているんだ。そこをどきなよ。お前もやられたいかい?」


 グリゴリーが鞭をひゅんと軽く振る。

 だがアルカディーは両手を広げ、言い切った。


「どくわけにはいかない」


「ああ、そいつはお前の親友だったな。


 親友の代わりに、俺の鞭で教育されたいっていうのかい。


 ならお望みどおりにしてやる、どうせ最後なんだしな!」


 グリゴリーはおもうさま鞭をふるい始めた。

 ビシ、ビシと肉を叩く音が続き、アルカディーはみるみるうちにボロボロにされていく。


「お、お兄ちゃんが! や、やめて……!」


「早く、やつを確保しましょう! これ以上、見ていられません!」


 エリーザの鼻息が荒い。確かに、このまま黙ってるつもりはない。

 一番、やつをぶん殴ってやりたい感が出ているので、やつはエリーザに任せよう。


「ありがたき幸せ!」


「俺とマティは、グレゴリー以外の監視員を全員仕留めてこよう」


 うなずくマティ。

 二手に分かれ、それぞれ柵に身を潜ませながら高台を巡る。

 レリアはリナと一緒に、エリーザのサポートに回ってもらった。


 エリーザがグリゴリー近くまで接近、柵を乗り越えて真上から飛び掛かる。


「おっ!?」


 しかしグリゴリーはそれを察知し、すばやくその場から飛びのいた。  

 ドゴンと地面にエリーザの拳が突き立つ。エリーザが舌打ちした。


「勘のいいやつ!」


 突然のことに、周囲の労働者たちがざわつきだした。


 その間に、俺は追尾雷撃を監視員たちに食らわせる。

 動きが止まってる間に、マティが風のように駆け抜けて一人一人気絶させていった。


「何者だい? いきなり殴りかかるなんて、しつけの悪いヤツだな?


 久々の反逆者か、たまにはそういう豚も出てこないとなあ!?」


 グリゴリーが鞭の先端をビシッと地面にたたきつける。他の監視員たちの様子には気づいていないようだ。

 が、エリーザの顔を見て、意外そうに口笛を吹いた。


「なんだ? まさかの人間かい? 


 首輪もない……外からの来訪者か! これはこれは」


 ニヤリと口元を歪ませ、


「新しい豚が、労働力が、向こうからやってきたってわけかい。歓迎、するよ!」

 

 グリゴリーはいきなりエリーザに向け、鞭をふるう。


「おっ!?」


 グリゴリーの顔色が変わった。

 すさまじい速度でエリーザの顔をはたくかに見えた鞭の先端は、彼女の手に捕まれている。


 そのままエリーザは力いっぱい引いて、グリゴリーから鞭を奪うと、両手で引きちぎってしまった。


「どういう馬鹿力だい……よそ者の、劣等種族が」


「命までは取らん、大人しくしていろ!」


 エリーザが両拳をかまえ、グリゴリーに走り寄る。

 しかし、グリゴリーはニヤリと笑うと、胸元から細長い筒のようなものを取り出し、構える。


 その筒の一端から、ビシューンという音とともに青白い光が伸び、まるで剣のようになった。


「それが話に聞いた光の剣か、魔法剣のようだな」


 エリーザも双剣を引き抜き、グリゴリーに斬りかかる。 

 光の剣で受けに回るグリゴリー。

 

 両者の剣が交錯した。


「なっ!?」


 驚愕の声を上げ、さっと後ろに飛びのいたのはエリーザだった。

 両手の剣は、どちらも中ほどから切断されていた。


「なに?」


 監視員たちを片付け、高台のレリアのところまで来た俺も、意外な展開に思わず声をあげる。


 エリーザのショートソードはごく普通のものだが、例の強化をほどこしてあった。

 なので『伝説級』ショートソードになっているのだ。


 それがあっさり、切断されるとは。

 

「なにあれ!? 魔法剣なの!?」


 リナが叫び声をあげた。リナも見た事はなかったらしい。


 グリゴリーが白熱剣を振り回し、エリーザに襲い掛かる。


 それをかろうじてかわすエリーザ。

 しかし、ひらひらとしたエルフの伝統衣装の一部が、白熱剣によって焼き切られていった。


「疑似オリハルコンの服も、一切おかまいなしか! 何だあの魔法剣、強すぎる」


「わたしが。行く」


 マティがロングソードを引き抜き、柵を越えて地面に降り立った。

 その剣はマティの魔法により、炎をまとっていた。


「今度は魔法剣かい。いいぜ、試してみな」


 普通、魔法剣同士がぶつかれば、その魔法に投入された魔力が強い方が勝つ。

 魔法剣と実体剣の場合は、剣圧、力で押し切れば実体剣が勝つこともある。

 

「エリーザの力とマティの魔力なら、マティの魔力が上のはず……」


 だがマティの魔法剣の一撃でも、グリゴリーの白熱剣を折る事はかなわなかった。

 そしてエリーザの時と同じように、刀身は溶けるようにあっさりと切断されてしまった。


「うそー!? マティちゃんの、伝説級打ち損じロングソードも!?」


 レリアも驚きの声を上げた。

 打ち損じと聞いて変な顔をするリナ。


「うはは! これこそ、古代シュイロークァ文明が作り出した究極の剣なのさ!


 超強力な白熱の刃で、あらゆるものをバターのように切断する。


 正式名称は、ライト……なんて言ったっけな。ま、どうでもいいがな」


 グリゴリーが勝ち誇ったように笑う。

 この遺跡には、そんなシロモノまで埋まっていたのか。


「おれは防御に徹してるだけで、相手の剣は勝手に使用不能になり。


 おれが攻勢に転じれば、相手の剣も鎧も紙切れ同然、全ては切り裂かれる。


 あがくだけ無駄だ。豚は大人しく、選ばれし民のおれ達に従ってればいいんだ!」


 グリゴリーが白熱剣をふたたび振り回しながら、エリーザとマティに迫った。

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