第27話 一時帰還 ~ファニーの選択

 ミンタカのダンジョン、地下六階。


 とりあえず今回の探索はここまでとし、ポータルを作成、地上へと戻った。



「では! さっそく、ブレシーナ王国の復活を宣言いたしましょう!

 

 各地に散らばった我が王国民の元へ、密使を走らせ、集結するよう呼びかけるのです!」


「待って待って!」

 

 気が早えぇ!

 エリーザは一度決めたら突っ走る人のようだが、ここはいったん落ち着いてもらわないと。

 まず俺の中のファニーと話をする必要がある。

 

 そのためには夢の世界に行なければならない。つまり寝るのだ。


「今日は皆、疲れたので宿屋に落ち着こう。その話は明日ゆっくりと」


「は! これはうかつ! ファニー様の体調を気遣えなくて何が親衛隊長か!


 命にかえてお詫びを、」


「一番いい宿屋に頼む」


 俺は近くの辻馬車を捕まえ、この市で最も評判の良い宿へ運んでくれるよう頼んだ。



 ……何かにつけて命にかえたがるエリーザは、確かに相手してて疲れる。



 その夜。


 高級旅館ならではの温泉施設、豪華な料理、広々とした客室を堪能するのもそこそこに。

 俺はファニーに会うために早々と床についた。


 ファニーは昼に出てこれなくもないみたいだけど、会話できる時間が短いんだよな。

 夢の世界でも毎回会えるとは限らないが、今回は何とか頑張ってもらおう。



 …… 


(シルヴァンさん)


 おっと。


 もう夢の世界か。無事、出て来てもらえたみたいだ。


「こんばんわ、シルヴァンさん」


 こんばんわ。

 この世界は白く明るいんでやや違和感のある挨拶だが、今は夜なんだよな。 


「エリーザがご迷惑を」


 いえいえ。猪突猛進型なのが玉に瑕なだけです。


「でも、彼女が生きていてくれて本当に良かった……」


 ファニーが目元をぬぐう。


 王国民は今は散り散りになっているらしい。

 そんな状況で、同郷の者と再会できたんだ、喜びもひとしおだろう。


「エリーザも、あなたが生きている事を大変喜んでたね」


「しかし……あなたの魂がわたしの体に入っている事は、エリーザには秘密の方が良いでしょうね。

 

 わたしが奴隷に身を落としていたころの話を、黙っていてくれてありがとうございます。


 それと同じに、秘密にしておきましょう」


 うーん、そうなるかな。

 確かに説明は面倒だが……


「説明したところで、理解してもらえるかどうかというのもありますし」


 やっぱり脳筋タイプなんだろうか。


「そもそも、ネクロマンサーが関わっている事を聞けば。


 あの正義感の塊がどういう行動にでるか……」


 ……確かに。

 世間一般的に、ネクロマンサーの評判はよろしくない。


 そのうえ、入ってる魂が問題だ。



「わが姫の神聖なる体に、邪な男の魂が入り込んでいるだと!?

 

 速やかに退散させなければ! 滅せよ、悪霊!」



 などと言って、退魔師だか祈祷師だかを使って俺の魂を排除しにかかりそうだ。

 

「それは困るな……」


 退魔とかの効果はないだろうけどな。

 ずっと拘束されて、延々と時間を費やされてしまうかも。


「でしょう。当分、このことは秘密にしておきましょう」


 了解だ。今、この体を離れるわけにはいかない。

 ファニーを元の姿に戻す方法は、確立してあるし。


 魂の秘術を手に入れるまでは、なんとかこのままで……


「であるなら、あなたにはより、わたしらしく振る舞っていただかないと」


「高貴な人の振る舞いとか、分からないけどなあ」


 あの人そういうのにも厳しそうだし。

 あと思い出話とかされたら、どう反応すればいいのやら。


「その時はなんとか出ていって、アドバイスします。


 あなたが起きている時に出ていくのは、消耗するし短い時間しか無理なのですが……


 なんとかしましょう。その代わり、夜のこの時間はないものと」


 仕方がない。また頭の中で話しかけてもらおう。


「ところで、ファニー。王国の復活宣言についてだけど……」


 今回の本題はこれだ。


 ファニーの考えをしっかり、聞いておかないと……




 次の朝。


「おはようございます! 皆さま! ファニー様!


 今日も良い日です! ブレシーナ王国の復活の日にふさわしい日差しが降り注いでおります!」


 お、おう……朝から元気だな……


 エリーザが客室のカーテンをシャッと開け放ち、大声で朝の挨拶を叫ぶ。

 まったく良い目覚めであることですよ。


「さあ、お着替えください! 民の皆も一日千秋の思いで、」


「待って。その件について、お話があります」


「は!」 


 エリーザがビシッと足元をそろえ、直立不動の姿勢を取る。

 そして俺は、昨晩夢の世界で聞いたファニーの考えを伝えるのだった。



「エリーザ。あなたの、国を思う気持ち……大変に嬉しく思います。


 しかしあの戦争で、ゴブリンは我が国のすべてを蹂躙しました。


 生き残り、逃げ延びた民はごく少数と聞きます」


 それを聞き、くっ、と涙をこらえるエリーザ。


「あれからもう月日も経ち。


 民は散り散りになって……彼らはもう、各々の土地で新しい生活を始めている事でしょう。


 国の復活のためと言って、民の方々に今の生活を捨てさせる。


 私には、そのような呼びかけをするわけにはまいりません」


「ふぁ、ファニー様! しかし!」


 言葉を返そうとするエリーザ。

 しかし俺はそれを目線で止める。


「我が国を滅ぼしたゴブリンの国も、もう今は無く……


 双方の土地はあの戦争で荒れ地となり、汚染され……


 再起を図るにはとてつもない困難がともなうでしょう。


 あなたは、もう数少なくなった民にそのような苦労を強いるのですか。


 あなたが冒険者をしている間、国の復活を望む民に、どのくらい会ったでしょうか」


「それは……いまだに……実は連絡すらつかぬ有様で……」


「私は、今は世界を見て回りたい。


 そしてその途上で、国の復活を望む人々が多く居る事がわかり……


 汚染された土地を回復させる手段を、もし手に入れられたなら。その時は、尽力しましょう。


 ささやかな、小さな我が国を作るために」


 ふう。

 言葉を伝え終えた俺は息をついた。


 これが、ファニーの選択だった。


「はっ……! わかりました。ファニー様の、お心のままに。


 どこまでも、お供します……命を懸けて」


 最敬礼をとるエリーザ。




 正直、夢でこの話をファニーから聞いた時は、俺に気を使ってない?と思ったものだ。




「良いのです。民の今の生活を乱したくない、というのは本当ですし。


 今は、あなたが一番なんです。あ! ええと! 


 あ、あなたの目的を一番に! ということですよ!?」


 耳まで赤くし、焦っている。

 そこまで言い間違いで慌てなくても……


「それにあなたが居なければ、あなたがあの花を助けなければ……


 私はいつまでもあの奈落で眠っていたでしょうし、エリーザも永遠に彷徨うだけだったでしょう。


 しかしあなたのおかげで、私は元に戻る手段を確保でき、エリーザとも再会できた。


 その借りを、こういう形で返すのだとでも思ってください」



 そう言って、ファニーはいたずらっぽく片目をつむった。



 全く。

 そういうのは、俺の十八番だっての。



 なら。古代魔法のダンジョンを制覇し、魂の秘術を手に入れ……元に戻れた時は。


 俺も、ファニーの国造りに手をかそう。


 そう決意するのだった。



「じゃ、話がまとまったところで……私たちの装備を、一新しに行こうか!」


「「おー!」」


 話の間、手持ちぶさただったマティとレリアが拳をかかげる。


「では! 護衛に同行いたします!」


「エリーザも可愛くなろうね」


「えっ!?!?」


 顔を赤くし、目を白黒させる女騎士。




「エリーザもおめかししてあげてね。あの子、堅物な感じだけど、人一倍可愛いもの好きだから」


 夢の中で、ファニーもそう言っていた。くすくす笑いながら……

 だろうと思いましたよ!


 うむ。

 一緒に可愛くなろうじゃないかエリーザ……!

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