第28話 みんなでおめかし ~パリスの暗躍2

 ということで。

 

 パーティ全員のみすぼらしい装備(疑似オリハルコンコーティング済みだが)を一新させるべく……

 カディア市の、服飾・装備品を扱う店巡りをすることになったのだが。


「私は遠慮いたします! 店の前で待機しておりますので!」


 などと強情を張って店に入ろうとしないエリーザ。

 だがこちらは、彼女が可愛いもの好きなのを知っているのだ。


 なんとか激カワコーデさせてあげたいのだが、てこでも動かない。

 仕方ないので、


「ファニーが王女として命令します」


 と必殺の切り札。

 ようやく女騎士も折れ、


「し、仕方ありませんね、仕方ない、うむ。仕方ないです!」

 

 などと不自然に繰り返し、ようやく店に入ったのだった。


 そして始まるショッピングの時間。

 女性のサガなのか、めちゃめちゃ時間をかけ……あちこちを巡り、あれこれ試着を繰り返し。



「かわいい!」


「似合ってる!」


「皆、素敵になった!」

 


 マティもレリアも(俺も)それぞれポーズを取って、褒めたたえあう。


 一流店で仕立ててもらったので、皆に似合うカラーリングの可愛い系コーデがばっちり決まっていた。


「……もう、はっきり言ってただの普段着だな」


 どうせ、この上に着ける軽装鎧にオリハルコンコーティングをすれば、無敵の防御力になるのだ。


 という事で開き直ってしまった。


「しかしさすが一流店。素材が違う。着心地も、肌触りもいい……」


「ね。お金あってよかった」


「なまなましい話だー」


 俺はここで、胸を詰め込まれ、寄せて上げる事を学んだ。

 元に戻った時、何の役にも立たない知識だが!

 正直ドキドキした!谷間ってこう作るのか!


 エリーザにも、超が付きそうなキラキラのフリフリコーデをあえて着せてみたが、


「これはさすがに! ぜーったい似合いません! 無理! むーりー!」


 と顔を真っ赤にして暴れた。ちょっとやり過ぎたか。


「やはり私は、これで十分です!」


 と結局、元のタンクトップに戻るのだった。

 上に何か羽織らない?と言ってみたが、このままが良いと言う。


 俺のスキルで強化してもらったのがインパクトあったようで……

 タンクトップに、妙に思い入れが出来てしまったらしい。そして、


「今まで、首回りや肩の防御力を重視して、重い鎧を付けていたのが間違いでした!


 この自由度! 素晴らしいものです! さらば、肩アーマー!」


 双剣使いとして、両肩の動きが阻害されないようになったのが何より重要なんだと。


 まあ、仕方ないか……疑似オリハルコン製なので、そのままでも防御力は完璧だしな。

 なので、せめて下半身はタンクトップに似合うコーデを仕立ててもらった。


「可愛いよりカッコイイ。ね」


「クール系だね! 良いよねー足も長いし!」


「あ、ありがとうございます! お金まで出して頂いて、恐縮です!」



 しかし。


 その後……さっきのフリフリコーデを自腹でこっそり買い直しているエリーザを、俺は見逃さなかったのだった。




 そして次は防具店。


 今の服のデザインラインに合うような、軽く着けられる鎧や簡単な小手、具足あたりを購入。

 ほかにも武器を吊るす帯や、小物入れ。不自然にならないなら、マントなども。


 それらをスキルでブースト強化して、疑似オリハルコン製にグレードアップ。

 これで今回のお買い物ツアー、終了!


「……この普段着を、そのまま強化すれば良いんじゃない? 


 エリーザさんのタンクトップみたいに」


 レリアの疑問ももっともだが、さすがに普段着だけでダンジョン攻略はちょっと。

 

 他の冒険者に良い顔されないだろうし、やっぱり多少は「らしい」装備が欲しいんだよ……

 剣なら、剣帯に吊るしたい!


「男のロマンかなー?」


「おにいちゃん女なのにね」


 良いだろ別に!

 ……あと、男だし!


 ちなみにエリーザも、機動力を損なわない程度に、膝あてやアンクレットなどを装備してもらっている。


「動きやすいのが、一番ですよ!」


 まあ、それが正解ではあるが。


 しかし、また俺はスカートだよ。そこそこ短い……

 マティは超ミニだが下はタイツだし、レリアとエリーザはシガレットパンツだ。


 賢者は飛んだり跳ねたりしない系ではあるけど。

 まあ、可愛いからいいか……

 とか思って、自分の服を見下ろしながらくるくる回っていたら、皆にニヤニヤした目で見られた。


 うぐっ。


 


 ▼





「あーららぁ。血、足りなくなっちまったかあ」


 ミンタカのダンジョン。

 地下、九階。


 頭をぼりぼりかきながら、パリスはひとりごちた。


「まさかだろ。勇者一人分、もう全部飲み込まれちまった。


 あと一階、降りるだけなのによおー」


 手に持った革袋……さっきまで血で満たされていたそれをブンブンと振ってみる。

 もう中身は空だ。床には既に、複数の革袋が捨ててあった。


 目の前には、血を要求する扉。

 紋章は半分だけ赤くなっており、開く様子はない。


「しゃあねえ。今回はここまでだな。帰るとしますかね……


 ファビオさん、お疲れーい」


 などとおどけた調子でつぶやいて、革袋を床に投げ捨てた。 


 そしてポータルを作成。

 パリスは地上へと戻った。

 


「お、お?」


 宿への帰り道。

 思いがけないものを見たように、パリスの目が見開かれた。


「うっそだろ。ありゃ、勇者マティちゃんじゃないの。


 予備があっちから来てくれるなんてな……こいつはついてるぜ。


 王都に戻って、探す手間が省けたってもんだ」


 目を細め、舌なめずりをする。


「また革袋、補充しなきゃなああ」

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