第26話 いったんおいといて ~頼もしいタンクトップ

『ブレシーナ王国の復活宣言』。



 それを?俺に?やれって?


 そんなお題目をエリーザが唱えた時は、ちょっと戸惑ったが……


「と、とりあえず! 


あと一階ダンジョンを先に進んで、そして地上に戻ってから話の続きを!」


 ……という事で落ち着いた。

 あまりにも急な話だしな。


 滅んだ国の生き延びた王族が、王国を再建するサーガとか読み物であるけど。

 まさか俺が、その当事者になろうとしつつあるというのか?


 しかし本体の人、ファニーにも話をしなければ安易に返答は出来ない。


(本当にそんな事になってしまったら……


 俺は一生ファニー王女として暮らすことになるのか?)

 

 豪華な城で、綺麗なドレスを着て。

 たくさんの人にかしずかれながら、キラキラした人生を過ごす……(あくまでイメージ)


 お、乙女のあこがれかもしれないが。さすがに無理がある。

 一瞬、良いかもとか……思ってない!


「シルヴィアちゃん、お姫様になるのー?」


 な、ならない!ぜったい!

 

 乱れた思考を頭を振って消し去った。


「さあ、行くぞ! どんどん!」


 率先してダンジョンを進む。

 そして目の前に現れた例の扉を、いつもの戦法で突破。


 すると、


「おお! ファニー様、いつの間にそのような魔法技術を!?」


 エリーザが目を丸くして驚いた。

 ファニーが当時どういう人となりだったかは知らないが、こんな力は当然持ってなかったわけで。

 

「はあ、【強く、可愛く、頼もしく】という、固有スキルですか……」


 説明したら、笑われるかと思ったが……さすがに親衛隊長。

 全く動じなく、むしろ感極まっているようだった。

 

「ファニー様が冒険者に身をやつしていると知った時は、生存の嬉しさと同時に涙が出る思いでしたが。


 勇者様とパーティをお組みになり、ご自身までそのようなスキルを身に着けておられるとは!

 

 私はもう、安心と感動で胸がいっぱいであります! (特にスキルの『可愛い』、というの最高)」


 ん、最後にボソッとなんか言った?

 しかし基本的にはいい人だよな。エリーザ。


「エリーザは今までどうしてたの?」


 王国が滅ぼされても生きている、ってことは上手く逃げ延びたんだろうけど。

 なんで冒険者になってるんだ。


「はっ。王国がゴブリンどもに滅ぼされた時……

 

 親衛隊長でありながら、敵の不意打ちで川に落ちてしまい……


 下流のとある港町で助けられるという始末。


 その後は冒険者として路銀を稼ぎながら、ファニー様の情報を集めておりました」


「そしてここ、カディア市まで流れ着いたのか」


「情けない親衛隊長で、恥ずかしい限り! 


 このエリーザ、命をもってお詫びしたく!」


 剣を抜き放ち、またさっきの「命を取ってくれ」のポーズ。


「それはもういい……」



 流れを整理すると。


 エリーザが冒険者をやっている間、ファニーはうまく逃げ延びたものの……奴隷商人に捕まったんだな。

 そしてエンペランサに荷物持ちとして使われ、挙句に奈落へ落とされた。


 この話は、エリーザにはしない方が良いかな……

 怒りのあまり、憤死しそうだ。


 もう、エスペランサの連中は牢獄送りだし、全ては終わった話だ。余計な心配をさせる必要もない。



「私とは真逆に、ファニー様はお強くお綺麗になられ……私、私はもうっ!」


 しかしこの人。堅苦しい上に、暑苦しい。

 なんとなくファニーの苦笑が伝わってきた気がした。


「おにいちゃん。危ない」


「おっと」


 また壁から触手が数本、伸びてきたところをマティが剣で薙ぎ払った。

 この階は触手エリアなんだろうか?


「……おにいちゃん?」

 

 エリーザが怪訝な表情をした。


「っと! そうだ、エリーザ、いつまでもそんな恰好では、防御力に不安があるでしょう?」


 慌てて話題をそらす俺。

 女騎士は自分のタンクトップ姿を見下ろし、


「はあ、そうですね。


 何故か触手は攻撃するというより、私の装備を引っぺがしにかかる事が多くて。


 他のパーティメンバーにはそういう事はしなかったのですが。


 私が唯一の女性だから、舐められていたのでしょうか」


 ……このダンジョン、実はすけべ男子の魂が封じられているとかじゃないだろうな。

 もしそうなら、ここの古代魔法は『魂の秘術』の可能性が高く……ってそれは都合良すぎかな?

 

 まあそれはともかく。


「私のスキルで、とりあえずその上半身の防御力を上げよう」


 そして例によって、【強く、可愛く、素晴らしく】でブーストした『強化』をエリーザのタンクトップにかける。

 これで、やたら頼もしいタンクトップになったはず。


 ただ『可愛い』効果で、フリルとリボンがたくさんあしらわれたタンクトップになってしまったが。


「おお……可愛い! い、いや! このようなものは私には似合わないです!」


 女騎士は顔を赤らめ、脱ごうとしたので慌てて止める。

 

 この人、その下に何も着けて無さそうだし!

 似合ってる!似合ってるから!


「そ、そうですか? 


 そこまで言われるなら、仕方ありませんね……仕方ないです……」


 ちょっとニヤニヤしてるな。

 この人、堅物そうで実は可愛い物好きだろ。

 

 しばらくタンクトップを見下ろしてご満悦の様子だったが、


「ん? こ……これはオリハルコンの輝き!? 


 光が当たると虹色の反射と光彩が見られます!


 それは、オリハルコン以外に考えられない!」


 などと騒ぎだした。


 オリハルコンといや、ミスリルを超える伝説の金属だ。

 この強化を武器防具に使った時、やたらと頼もしくなったなー、程度の認識だったけど。


 そこまで強くなってたとは、気づかなかった。

 基本的に、敵の攻撃を受ける機会がないんだよね……さっさと殲滅しちゃうから……


「あたしたちの装備も、そうなってるかな?」


 レリアとマティが、自分たちの来ているものをアピールした。


「失礼ながら、どう見ても安っぽい皮鎧。


 妙に可愛い模様が入ってるのは評価しますが……ごほん!


 む! やはりこれらもオリハルコンの輝き! 


 ファニー様! あなたのスキルは、とてつもないものです!」

 

 いやまあ、オリハルコンの性能がある事が分かったのは、エリーザの知識のおかげだ。

 そういや金も入ったことだし……こんなみすぼらしい皮鎧より、もっと見栄えの良い防具を買って強化しようかな?


 今のままだとおしゃれじゃないもんな。

 せっかくだし、可愛くなりたい……と思うのは、不自然じゃないよな?


「このエリーザ、感動の涙で前が見えませぬ!」


 女騎士はまだ感動に打ち震えていた。


 って、見てくれ、前を!また触手が来てるぞ!?

 先端の爪を開いた触手が、エリーザのタンクトップを掴もうとしていた。


 が、爪は弾かれ……その爪も徐々に先から消滅していく。

 

「オリハルコンは弱い魔物なら触れるだけで、消滅してしまう力があるのです。


 確かにこのタンクトップはその性能があるようですね」


 そうだったのか。つくづく便利なスキルだ。 


「危ない所で、上半身裸になるところでした。ファニー様、頼もし過ぎます!」


 また、ビシッと足先を揃えて最敬礼をするエリーザ。

 その勢いで、(疑似?)オリハルコン製タンクトップの胸部装甲がめっちゃ揺れた。


 危なかった。

 もう少しで、その凶悪なものがボロンと行くところだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る