第23話 二つ目のダンジョンへ ~マティ襲われる

「ミンタカの、ダンジョン」


 つか、古代魔法があるとされてる、二つ目のダンジョンじゃないか。

 都合が良いと言うか、自分らの次の目標だよ。


「タイミング的にはばっちりだな。ダンジョン攻略の合間に、拾って来るよ」


「ああ、頼むよ」


 これでエウねーさんに借りが返せるのなら、安いもんだ。


「ところで、どういう素材?」


「焼きバビビ石」


「……なんて?」

 

「焼きバビビ石」


 き、聞いた事のない素材だな。石?

 エウねーさんが、手でこのくらいの大きさ、というのを示しながら説明した。


「ダンジョン内で拾える、真っ白い石だ。


 ああ、錬金術に使う時には火であぶるから、焼きバビビ石。


 落ちてるものは、ただのバビビ石だ」


 知らんがな……

 とりあえず、白い石を拾ってくりゃ良いんだな。


「じゃ、ティエルナのみんな。準備は、いいか?」 


「大丈夫。おにいちゃん」


「いつでもいいよー!」


 それでは、ミンタカのダンジョンへ向かって出発!


 今度こそ、魂の秘術が手に入る事を祈って!




 ▽




 ――この国の南西部にあるミリア自治領、カディア市中心部。


 そこにミンタカのダンジョンはあった。

 多数の商人が行きかう、にぎやかな場所と聞いていたが……


「なんか、ずいぶんと静かなところだな」


「しーん、ってしてるね!」


「ここの人たち。皆びくびくしてるみたい」 

  

 マティの言う通り、行きかう人たちは皆きょろきょろと、油断なくあたりをうかがっている。

 早足で通りを駆け抜け、常に何かから襲われるのを警戒しているみたいだ。


 とか思ってたら、


「だーっ!」


 !?


 カキーン!


 一人の男が近づいてきたかと思うと、いきなり剣を抜き放ってマティに突進した。

 マティは冷静に剣を抜き、男の攻撃を弾く。


「ちっ! ガキかと思ったが、なんて反応の速さだ!」


「なんなんだ、あんた!?」


 俺が声をかけるが、男はくるっと向きを変えて逃げ出した。


「おいおい、そりゃないだろ。【強く、可愛く、食らいつく】。鈍化」


 キラキラとしたエフェクト付きの鈍化魔法が、走る男を追いかけて捕らえた。

 とたんに、男の動きがにぶくなる。


 俺たちは歩いて追いつき、男の前に立ちはだかった。


「な ん だ こ れ は ……」


「鈍化魔法だよ。


 わたしのスキルで強化したから、通常よりさらに効果がアップしてる」


 ゆっくり男に足払いをかけ、地面に転ばせる。

 

「い っ て え え 」


 楽々と取り押さえることができた。

 警吏が来る前に、理由を問いただしておこうかな。鈍化は解除して。


「何の理由で襲った?」


「……」


 女の子三人に囲まれても、何の威圧感もないからか男は無言だ。


 しかし、真っ昼間に女の子が襲われたってのに、周りの人たちは騒ぎもしないな……

 ここではよくある事……なのか。


「私たちがティエルナと知って、襲ったのか?」


「な!? あんたらが、あのティエルナ、だと!?」


 男は驚愕に目を見開いた。

 どうやら、アルニタクのダンジョンを制覇したパーティ名、ここまで鳴り響いているらしい。


「ま、まだ子供じゃないか! 


 しかし、さっきの剣さばき。素人のものじゃなかった」


「そうだよ、私たちがティエルナ。


 アルニタクに続いて、ミンタカも制覇しに来たよ」


「堂々と宣言しやがった。わかったよ、参った。


 とても俺がかなうような相手じゃなさそうだ。


 襲ったのは、……血が欲しかったからだ」


 はあ?あんた吸血鬼かなんかか?


「ここのダンジョンは、血を欲するんだ」



 男の説明によると。


 ミンタカのダンジョンは、ところどころに鍵穴のない扉があり、通行不能になっている。

 その先に行くためには、一定量の人間の血を、扉に捧げる必要があるという。


 ここカディア市では近年、行方不明者が続出している。

 ダンジョン攻略のため、冒険者が人の血を求めて夜な夜な人をさらっている……という話だった。



「以前は必要な血は少なくて済んだんで、冒険者が自らの血を流していたが……

 

 最近、要求される量がぐっと増えてきてな。


 とても自分たちで補えなくなってきたんだ」


 だから、人を襲って……

 ここの人たちがおびえているのも、そのためか。


「ひどい話だな」


「ここの偉いひとたちは、それでいいの? おかしいでしょ! こんなこと!」


 レリアもご立腹だ。


「ダンジョン攻略のためには、必要経費くらいに思ってるんだろうな。


 古代魔法さえ手に入れば、国から莫大な報酬が出る。この市の名前も売れる。


 そうなりゃ、人の流入も増え、活気も金もあふれると考えたんだろうよ」


 だがいつまで経ってもダンジョンが攻略できなきゃ、その真逆の現象が起きる。

 カディア市の現状は、そういうことか。 

 

 当初の予想以上に、血が必要になっていったんだろう。


「ダンジョンの扉の先に行けさえすれば、下の階層へ続く階段に近づけるんだ。


 冒険者たちは、扉を突破するごとにポータルを作って、少しずつ攻略していってるんだが……」


 進捗は良くないと。


「扉は、ときどき増えやがるんだ。だから突破しても突破しても……


 くそっ。これじゃ、いつまで経っても下層にたどり着けねえ! 


 俺たちにどうしろってんだ!」 

 

 男が地面を叩く。


 だからと言って、罪もない人をさらって血を頂く……とか鬼畜の所業だろ。

 こりゃ、なるべく早くここを攻略する必要がありそうだな……


「おにいちゃん。急ごう」


 マティも同じ意見のようだ。


「だな。情報、助かった」


「お役に立てて何よりだ。そ、それじゃ俺はこれで……」


 とそそくさと立ち去ろうとした男に、俺はまた足払いをかけた。


「それはそれ、これはこれ。ちゃんと捕まっとけ」


「ちくしょー!」

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