第22話 パリスの暗躍 ~エウねーさんと再会

第二十二話 パリスの暗躍 ~エウねーさんと再会



 ガタガタ、ゴトゴト……


「う……」


 走る馬車の振動で、ファビオは目覚めた。


「こ、ここ、は……」


 確か、自分は……

 ファニーの姿をしたシルヴァンに、やられて……

 

 王都警吏隊に、引き渡されて王都への街道の途上、だったはず。

 そこで急に記憶が途切れて……


「まだ、馬車が走っている?」


 自分が気絶したか、眠ったかしている間じゅう走り続けていたのか?

 王都の刑務所には、とっくに着いていておかしくないはず。


「いったい、何がどうなって……」


「おう、目が覚めたかい。ファビオさんよ」


 その声は、……パリスか?

 声のほうを向こうとしたが、手足の拘束具に邪魔をされ、思うように動けない。


 どうやら自分は、馬車の荷台に寝転がされているようだ。

 パリスが御者として、この馬車を走らせてるのか。


 警吏はいったい、どうしたのだ?


「まさか、助けてくれたとでも、言うのですか……?」


 半信半疑で、ファビオがパリスに問う。


「まあ、そうだな。お前さんの牢獄送りを阻止した、ってんならそういうことだ」

 

「礼を言った方がいいのでしょうね」


「要らないね」


 パリスは笑って言った。


「……レオンスと、シャンタルはどうしました」


「残念ながら、彼らは置いてきたぜ。


 街道の途中に放置されてるんで、夜が来れば……


 夜行性のモンスターにやられちまうだろうなあ」


 あっさりと言い放つパリス。しかしファビオも、


「助けられなかったのですか。まあいいでしょう。彼らのことなど、どうでもいい」


 と、さっきまで仲間だったことなど嘘のように切り捨てた。


「良いのです、自分さえ助かれば……! 


 まだ、終わってはいない! 家の再興は、まだ!


 そして、シルヴァン! 奴を、今度こそ始末しなければ……!」


 馬車の荷台で、唸るように声を絞り出すファビオ。

 そのときガタンと荷台が大きく揺れ、ファビオが荷台の床で思い切り顔を打ち、痛みに声をあげた。


「ぐ、う! と、ところで。この拘束具を取ってはくれませんか。


 この姿勢も、苦しくてたまりません」


 拘束具には、魔力発動を阻害する宝珠が仕込まれているため、魔法もスキルも一切使えない。

 

 これさえ取れれば、パリスを打ち倒して馬車を頂いてやる。

 何か、こいつには胡散臭いものを感じる。


 ファビオは密かに考えを巡らせた。が。


「それは、断るわ」


 パリスの声が一気に冷たくなった。


「なぜです?!」


「お前は、大事な大事な……生贄なんだな」


 生贄と聞き、一気にファビオの顔が青ざめる。


「生贄、ですって!? じ、自分をいったいどうするつもりなんです!?」


 身をよじるが、拘束具のせいで身動きが取れない。

 馬車の荷台から飛び降りて、逃れることも出来ない……!

 

「これから俺たちが向かうのは、ミンタカのダンジョンってんだ。


 古代魔法が眠るとされる、もう一つのダンジョン。


 別名、……吸血ダンジョン」


「きゅ、吸血……!?」


 パリスがうすら笑いを浮かべながら、


「それがなあ、そのダンジョン。


 深く潜ると時々、人間の血を要求してくる扉があるんだわ。


 それも大量に。おかげでダンジョンがある街の、行方不明者が増える一方でね。


 俺もなかなか、血が確保できなくて困ってたんだ」


 わざとらしくため息をつくパリス。

 ファビオはなおももがき、拘束具から逃れようとするが、がっちり食い込んでいて外れる気配もない。


「そ、そのために自分を! し、しかし。だったら何故、」


「レオンスとシャンタルを見捨てたかって?

 

 俺は発見したんだ。勇者の血が大量の人間の代わりになるってな。


 勇者の血一滴で、並みの人間の血、一リットル分の効果があるんだ。


 まさに選ばれし『勇者』だな!」


「な……」


「だから、三人持って行く必要はなかったんだ。

 

 ファビオさんよ。お前さんは、俺のダンジョン攻略のため、役に立ってもらうぜ。


 簡単なことさ。血を提供してくれるだけでいいんだ……楽なもんだろ?」


 くくっと笑うパリス。


「た……多少は提供しても構いませんが、痛いのはごめんですよ」


「なに。すぐに楽になる」


 その言葉でファビオは全てをさとった。


「ば、ばかな! まさか一気に!?」


「誰が少しずつ搾り取るなんて言った?

 

 全部提供してもらうぜ。お前ひとりで、吸血扉数十枚ぶんくらいかなあ? 


 それだけあれば、一息にダンジョンを突破できると俺は踏んでるんだ。


 死んで、俺のためになってくれや」


 パリスは目を細めて、舌なめずりをした。

 ファビオがわめき立てる。


「や、やめろ! 自分なんか、殺しても無駄だ! 無駄な事はやめろ!


 貴様程度の人間が、古代魔法のダンジョンをクリアできるはずがない!」


「んー? お前さん一人で血が足りない場合の事を考えてくれてるのか?


 大丈夫さ。ティエルナのガキが一人、勇者だろ。マティ? だったか?


 てなわけで、予備もあるから安心しなよ。……ファビオ」


「やめろ、やめろおおおおおお!」




 ▽




「頼ってくれとは言ったが、なかなか想定外の案件を持って来たね……」


「突然押しかけてしまって、申し訳ありません」


 ニーナさんがエウねーさんに頭を下げる。


 魔女の小屋にやってきた俺たち。

 エウねーさんに俺の体とニーナさんを預かってもらえないか、と頼み込んだところだ。


 俺の体は、マティの【空間収納】で風呂おけごと運んできた。


「エウフェーミアさん。お願いします。


 おかーさんも、あなたと同じで行くところがないの」


「アタシは行くところないってわけでもないけど……


 まあ、世間からは変人扱いはされてるがね。


 いいよ、言っちゃ悪いが似た者同士。


 小屋の中は広いから、好きな部屋使っとくれ」


「ありがとう!」


「ありがとうございます。お世話になります」


 母娘そろって、頭を下げる。

 ふう、なんとかなったか。


 これで、奈落村の全員、新たな生活を始められることになる。


「私からも例を言うよ。ありがとうエウねーさん。また、借りが出来た」


 俺も頭を下げた。

 頼ってくれと言われたので頼ったが、ちょっと大きすぎる案件だとは思うんだよな。


 エウねーさんはふふんと笑い、


「いいさ。オマエの体も好き放題できるしね」


 それだけはやめてくれと、いま釘を刺すところだったんだ!


「この方、大臀筋の形がとても良くて」


 とニーナさん。大臀筋って……尻か!

 ちょっと!?


「ほうほう? それは後で、じっくり見させてもらおうじゃないの」


「触り心地も最高ですよ」


「ほうほうほうほう」


 やーめーてー!

 体を勝手に触られるファニーの気持ちが、今よくわかった!


「だはは! 


 オマエの体にも興味はあるが、ネクロマンサーの秘術のほうが大いに興味があるからね。


 いろいろ、聞かせてもらおうじゃないか」


「はい、私などの技術で良ければ……」


 エウねーさんとニーナさんが顔を見合わせ、お互いにやりと笑った。

 ……なんか、とんでもない人たちを引き合わせてしまったかもしれない。


 次に来た時、人間の魂を移植されたキマイラが作られてたりしませんように……


「そうだ。なんならこの借り、さっさと返してもらおうじゃないか」


 エウねーさんが俺を振り向いて言った。


「なんだ? いきなり」


「今、ちょっと研究に必要な素材が足りなくてね。


 それを持ってきてもらいたい。簡単な事さ」


 果たしてそれはこの人に渡して安全なものなのか、ちょっと疑問ではあるが……


「まあ、いいけど。何の素材だ? どこにあるか教えてくれれば、すぐにでも」


 エウねーさんは答えた。


「ミンタカ。それは、ミンタカのダンジョンにある」

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