第21話 再び、奈落へ ~村人救出

「じゃ、後はお任せください。英雄ティエルナの方々!」


 駆けつけた警吏の人が、上気した顔で敬礼をした。


 ギルドでは冒険者同士の私闘は禁止されており、両者に刑罰が下される。

 が、正当防衛が認められればその限りではない。


 今回は御者の人が、ファビオたちが一方的に奇襲した事を証言してくれた。

 

 てことでこちらにお咎めはなし。

 全ては予定通り……万全だ。

 

「国の英雄、ティエルナの方々に襲いかかったってだけで、極刑ものです!」


 警吏の人は興奮した口調でそうまくしたてた。

 あまり過剰に持ち上げられるのも、むずがゆいな。

 


 こうして、俺たちはファビオたち三人を警吏に引き渡し……

 専用馬車で王都へと連行されていくのを見送ったのだった。

 

(そういやパリスってのがいなかったな。

 

 さすがに、俺たちを襲撃する動機もメリットも無いか)


 何か油断のならない人物に感じたが……

 ま、それはともかく。


「一件落着、だね!」


「おにいちゃん。お疲れ様」


「ああ、みんなもな」


 すごい開放感がある。

 うーんと伸びをすると、二人も真似をしてうーんと空に手を伸ばす。


「ははは、何真似してんの」


 自然と笑いがこぼれる。


「これから。どうするの?」


「そうだなあ、もう日が暮れたし……とりあえずは宿だな」


「また、みんなでパジャマパーティ女子会しよ! 今日は三人で!」


 ふむ、それも良いな。

 全てを終わらせたんだ。語りたいことが山のように……

 

 ……


 ……って待て!

 

 俺の体を取り戻す、という大目的は、まだ終わってない!

 あぶねえ!うっかり、この女子の体で人生を送る勢いがあったぞ、今!


「どうしたの? おにいちゃん」


「い、いや。男に戻らなくてはという意識をギリギリで今、取り戻したところだ」


「いいんじゃない? そのままで。もうシルヴィアちゃんは、シルヴィアちゃんだよ!」


「わたしも。慣れた。そのおにいちゃんにも」


 よくない!

 体、ファニーに返さなきゃでしょ!



 古代魔法が眠るとされているダンジョンは、あと二つ。

 伝承では古代魔法のダンジョンは三つあると言われているが、発見されているのはそのうち二つ。

 最後の一つは全く情報もない状態だ。


(魂を扱う古代魔法は今回見つからなかったが、チャンスはあと二回……)


 何としてでも男の体を取り戻すのだ。

 なんか、もう女子の体で良いじゃないか、と思う妙な気持ちを断固振り払わなければ!



「……そうだ。今日はもう宿に戻るけど、明日はまた行きたいところがあるんだ」


「え? どこー?」


 レリアがかわいらしく首をかしげてくるのに対し、


「奈落だよ」


 俺は地面を指さして答えた。




 ▽




 ――次の朝。

 

 俺たちは、再びアルニタクのダンジョンに潜り、最下層の『レリアルート』から奈落に来ていた。


「ただいま! おかーさん!」


「あらあら。お帰り、レリア! 元気そうでなによりだわ」


 久々の母娘の再会。といっても10日ほどの間だけど。

 ニーナさん宅へ行った俺たちは、今までの経緯を話して聞かせた。


 レリアに助けられているかを話すと、ニーナさんも喜んでくれた。

 レリアは耳まで真っ赤だ。


「しかし、古代魔法が魂の秘術じゃなくて、残念でしたね……


 では、今回の訪問の件はなんでしょう?」


「はい。奈落の方々を、地上に戻してあげたいなと」


 ここの人たちは、基本的に居たくてここに居ついてるわけではない。

 大抵がグールにされ、地上で暮らせない体になってしまったのが理由だ。


「レリアの薬と、俺のスキルで、その体を治療すれば……」 


「出来るのですか!? グールの治療!」


「おかーさん、シルヴィアちゃんはあたしの薬から、エリクサーが作れるんだよ!

 

 グールの治療薬も、きっと作れるよ!」


 ニーナさんが驚きに目を見開く。


「まあ、まあ……それは凄いことですね……本当なら、皆も喜ぶでしょう」

 

 ニーナさんの言葉に、少しだけ歯切れの悪さがある。

 それは、ニーナさんだけはあえて、この地に身を隠す理由があるからだ。


 しかし、それも解決案を持ってきた。


「ニーナさん。魔女の、エウフェーミアという女性の元で暮らしませんか」


「えっ? 魔女の?」


「エウフェーミアさんもね! 


 地上で怪しい実験とかやってて、爪はじきされてる人なの!


 あの肩身の狭い人の小屋なら、おかーさんも太陽の光の下で暮らせると思うの!」


 レリアが熱心に訴えかける。

 言葉選びが地味にエウねーさんを刺してるような気がするけど。


「レリアの、薬知識を広げてくれた人ですね? はあ、まあ。


 レリアも信頼している方のようですが……」


「ね! あの偏屈な魔女の人の小屋なら、あたしも気軽に会いに行けるし! 


 こんな危険な場所にいなくても、世間からは引きこもれるよ!」


 レリア、もう少し、言葉選びをなんとかな?


「……わかりました。確かに、あれからまたワイバーンも来ました。


 なんとか避難してやり過ごせましたが……


 レリアの夢がかない、未来が開けたなら……


 わたしも、もっと生きられる場所に、出るべきなのかもしれません」


「おかーさん!」


 レリアが抱きついた。

 ちょっとはらはらしたが、説得できて良かった。


「しかし、あなたの体はどうされるのです?」


 ニーナさんが俺へ顔を向ける。


「エウねーさんのところに持っていきますよ。また借りを作る事になるけど」


 まあ、とりあえずこれでニーナさんを地上へ戻す算段はついた。

 あとは、村の皆だ。




「治る……治るのか? このグールの体が!?」


「本当かよ……」


「あの時の嬢ちゃんか。ほんとに、ほんとなのかい?」



 奈落村の皆に集まってもらい、今回の趣旨を説明した。

 はじめはざわつき、疑いの言葉ばかりをつぶやいていたが、



「俺にも、家族が居るんだ……」


「本当は、残してきた娘のもとに、帰りたい……!」


「出来るんだな!? 治療! 本当なら……ぜひとも、お願いしたい!」


 と、皆すがる様な目を向けてくる。


 村の全員が治療を求めていることを確認した俺は、


「治ります。そして、帰れます。地上まで、皆さんの安全は保障します」


 そう宣言し、


「【清く、可愛く、元気よく】! 強化!」


 スキルを使い、レリアの解毒薬を解呪薬に変えたものを皆に配り……


 村の人間全員を、グール化から完全に解き放ったのだった。


 


 ▽




「ありがとう! ありがとう!」


「これで、故郷へ帰れる! こんなに嬉しい事はない!」


「お嬢ちゃんは、命の恩人だ!」



 ポータルを使い、奈落村の全員を地上に戻した俺たち。

 故郷へと旅立って行く村人たちを見送った。


 ほとんど全員、王都のダンジョンへと出稼ぎに来ていた冒険者だった。

 これからは、故郷で落ち着いた暮らしをすることだろう。



「これで、奈落村も解散かあ。ちょっとだけ、名残おしいかも?」


 レリアが、村人たちの背中を見やりながらつぶやいた。


「確かに、レリアにとっては故郷、だもんな。勝手な事しちゃった……かな」


「ううん! だいじょーぶ! 


 悲しい村だったし、みんなが太陽の下で生きれるなら、それが一番だよー!」


 にぱっと笑う。レリアはいい子だな。


「さて、後はニーナさんと私の体を、エウねーさんとこに送り届けるだけだな……」


 ……妙な実験をしないよう、徹底的に釘を刺しておく必要があるが!


 目的を果たして帰ってきたら、俺の頭が生えてるキマイラが出来てたとか、絶対勘弁だからな!

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