第16話 ダンジョン初体験 ~ファビオの衝撃

 時は少し戻り……

 


 アルニタクのダンジョン、地下一階。


 いよいよ俺たちティエルナの、初探索だ。


 一階に降り立つと、さっそく雑魚代表といったモンスターたちがじわりと寄って来た。

 スライムやら、スケルトンやら、大量だ。


「お。おにいちゃん……」


「シルヴィアちゃん、どう、しよう?」


 さすがに緊張したか、二人とも固まってしまう。なにせ初の戦闘だしな。


 そこで景気づけに、俺が強化した火炎魔法をぶっ放す。例の可愛いフェニックスだ。

 轟音と共に、モンスターは9割がた蒸発した。


「大丈夫、俺がついてる。二人とも落ち着けば、この程度のやつらなんて」


 そして二人に【強く、可愛く、変わりなく】を付与した『強化』をかけてやる。

 これで身体能力が相当強化された上、精神的にも落ち着けるのだ。


 ちなみに、二人の周囲に花やキラキラしたエフェクトがかかっている、

 今回の『可愛い』要素のようだ。


「マティは自分を信じろ。勇者である自分を信じろ」


「レリアもだ。薬師は非戦闘員なんて、常識はぶっ飛ばせ」


 そう言って、二人の肩を叩いてやる。


「うん。わかった。やってみる」 


「よ、よーし! いっくぞー!」


 そうしてマティはスケルトンへ、レリアはスライムに向かって行った。


 

 俺たちが装備品は、全て町の武具屋で買った安物だ。

 Eクラスの冒険者でも遠慮するような、低品質のものばかり。


 しかし、それらには【強く、可愛く、素晴らしく】を付与した『強化』をかけてある。


 それにより、粗悪品は伝説の武具なみの性能に変化した。

 ただの打ち損じロングソードが、もう値段すらつけられないレベルだ。



「えーい! この!」


 声に緊張が感じられるが、剣をふるい続けるマティ。

 もう数体ものスケルトンがバラバラにされ、床に散らばっている。


 マティの【高速成長】のスキルのおかげで、剣を一振りするたび、学び成長していくのだ。

 最初の一振りは完全初心者でも、既にそろそろ中級者くらいの腕前になりつつあった。 



「とりゃー!」


 レリアがスライムに試験管を投げつける。

 その中には大抵のものを溶かしてしまう、劇薬が入っているのだ。


 魔女のエウねーさんの家で色々見て回った結果、なんとも危ない攻撃方法を身に着けてしまった。

 

「これならサポートだけじゃなく、あたしも前に出て戦える!」


 とレリアは喜んでいたが……床が穴ぼこだらけになるのが、難点かも。

 スライムたちも、見事に皆どろどろに溶かされた。元々水っぽいやつらだが。




「やった。やった! おにいちゃん!」


「わーい、勝った勝った!」


 というわけで、二人の初戦闘は大勝利に終わった。

   

「お疲れ!」


 二人を抱きしめ、ねぎらってやる。


「いいぞ、二人とも。この調子で、どんどん行こう!」


「「おー!」」




 ▼




 ダンジョン地下二階。

 そして、地下三階。四階。五階、六階……


 ファビオ一行が深く潜るたびに、ダンジョンの荒れ具合は酷くなっていった。


「何を、どうすれば、こんな跡が残る?」


 レオンスが途方に暮れている。

 もうダンジョンの壁も、床も……以前のマップが役に立たないほど、ほとんど崩壊していた。 

 

「完全に、地形が変わってるね……訳がわからないよ……」


 シャンタルも理解不能といった表情。


 斬撃跡は、階層を潜るほどに大きく深くなっていっている。


 内壁は、何層も貫通した穴が開いており。

 床は、一つ下の階が見えているくらい、深い穴が穿たれていた。


「あっはっは。


 あの、ギルド番付トップのエスペランザでも、不可能な事をしでかす奴らがいるんですな。


 こりゃ、古代魔法争奪戦はそいつらの勝利かなあ!?」


 パリスが笑い声をあげた。

 それをファビオはきっと睨み、


「……うるさいですよ。そんな事は、絶対にさせません! 我々も進むだけです」


「しかしよお。床がこんなんじゃ、歩きにくくて仕方ないぜ。


 まあ、敵さんが一匹も居ないのは楽で良いが。その点は先行パーティに感謝ってなもんだ」


「……ちっ」


 パリスの軽口に、舌打ちをするファビオ。


(なんなんだこの男は。


 今まで何の役に立ってないくせに。まあ、敵が居ないからではあるのだが……)


 それに、古代魔法への執着が一切見られない気がする。

 こいつは、それを求めてこのパーティに参加したんじゃないのか……?


 まあどっちみち、古代魔法を手に入れたらこの男も奈落行き。

 そう考え、ファビオは落ち着きを取り戻した。


「ともかく、進もう。ほんとに先を越されちまうぜ」


「そうなりゃ、うちらが何年もかけて積み重ねてきた事が、台無しだよ!」


 そうだ。


 我々はもう引き返せないところまで、やってきているのです。

 汚い事にも手を染めた。始末した冒険者や奴隷は一人二人ではない。


 ギルドの番付でエスペランサを追い抜こうとしたパーティを、闇討ちした事もある。、


 絶対に、絶対に古代魔法が誰かに手に渡るなど!

 許すことは、出来ない!


「そうです。進みましょう……!」





 地下七階。八階。九階、そして最下層である、十階……


 エスペランサは、驚くべきハイペースでダンジョンを潜っていった。

 一度もモンスターに遭遇することなく、無人の荒野を行くがごとく……


「あ、あそこは」


「以前ポータルを作った、小部屋ですね……」

 

 小部屋を通り過ぎ、ようやく、その先の未踏の領域に到達した。


 柱の立ち並ぶ大広間。

 奥には、複雑な模様が刻まれた、とてつもなく大きな扉がある。



「なんて広い空間だ。もしかして、ここが。おい、ファビオ」


「ここです。あの扉、その先に! 古代魔法が……! っ!」


 その扉の前には、入口で会った少女たち三人が居た。


 床にシートを敷き、寝っ転がっている。

 リラックスした様子で、持ち込んだらしい果物やお菓子を食べていた。


 黒髪の少女がむくりと起き上がり、のんびりした口調で衝撃の事実を告げた。


「遅かったね、エスペランサの人たち。


 古代魔法、もう手に入れちゃったよ?」

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