第17話 古代魔法獲得 ~借りを一つ返済

「なっ!? なん、ですって」


 ファビオが驚愕の表情になる。

 そりゃそうだろうな。

 

 どう見ても冒険者なり立て、どころか『ごっこ遊び』でもしてるのか?という見た目の俺たち。

 

 そんな俺たちが、いきなり前人未到の領域に到達。

 ここに集う冒険者全員の最終目的である、古代魔法を獲得してしまったのだ。


「そんな馬鹿な! お、お前らが、どうやって?」


「うそでしょ! そんな話、信じられると思って?」


 レオンスとシャンタルも動揺している。


「でも。ほんとだもんね」


「ねー」


 マティとレリアが声を合わせる。


「ドラゴン。迫力あったね」


「おっきかった! でも、あたしたちで倒したの!」


「はぁ!? ふ、ふざけるんじゃありませんよ!


 ドラゴンですって? 子供たちだけで、どうにか出来る相手ではありません!」


 ファビオが冷静さをついに失い、叫んだ。


「じゃ、しょーこ見せよ! マティちゃん」


「うん」


 マティが、その辺の空間に手を突っ込んだ。


 勇者は、他の職業にはない独特の基本スキルを持っている。

 【空間収納】もその一つ。


「えい」


 ずるっと。

 何もない空間から、ドラゴンの巨体が現れた。


 首元をざっくり斬られ、完全に息絶えている。


「まさか……! 勇者の、スキル!? 


 自分以外に、勇者が居たなど! しかもこんな子供が!?」


 だが同じ勇者のいる、エスペランサの面子なら分かるだろう。

 これが手品でも何でもないことが。


 そして勇者の力であることが。


「ど、ドラゴン。本物だ!」


「うちらだって、こんなの倒せるかどうか! うそでしょ!」


「……!」

 

 動揺が隠せないエスペランサの面々。

 無理も無い事ではあるが。




 ――ドラゴン。正しくはエンシェントドラゴン。

 古代魔法の守護モンスター。

 

 地上でも竜種はまれに出現するが、討伐にはA級冒険者パーティ数チームが必要とされる。



 当然、ここのドラゴンも強敵だった。おそらくだが地上のドラゴンよりさらに力は上だろう。


 しかし。

 

「【強く、可愛く、かみくだく】! ライトニング!」


 俺の強力な電撃魔法でダメージと共に防御力を低下させ、


「えーい! 『どろどろ』薬!」


 レリアの劇薬で足周りを鈍らせる。ドラゴンの爪が、音を立てて溶けていった。


「とどめ」


 最後は、マティの伝説級の元・打ち損じロングソードで、逆鱗を真横にかっさばく。


 竜の巨体は、そこで力尽き……

 地響きを立てながら倒れたのだった。




「そしたら扉が開いて、古代魔法が封じられたオーブを手に入れたってわけ」


 結構簡単だったね、と顔を見合わせて笑う俺たちティエルナの面々。


「う、嘘をつくのではありません! 何がオーブですか。ハッタリです!」

 

 ファビオがいきり立ってわめいた。


「どうせ、この先に居る本当の守護獣かなにか、そいつを我々にけしかけるつもりでしょう。


 その隙に、古代魔法をかすめ取ろうと!」


「マティ、見せてやろう」


「わかった。ほら。これが古代魔法のオーブ」


 マティがオーブを空間から取り出し、両手で頭の上に掲げてファビオに近づいていく。


「【鑑定】してみろよ。お前も持ってるだろ。『勇者』ファビオ」


「く、……」


 俺の言葉にファビオが睨み返してきたが、恐る恐る、オーブに対して【鑑定】をかける。

 

「か、鑑定結果。


 『時空のオーブ』……ほ、本物、です。封印された古代魔法の一つ。


 時間と空間を操る、時空魔法……それが、このオーブの、なかに……」


 ファビオの言葉に、レオンスとシャンタルが床に膝をついた。


「マジかよ、オイ……」


「なんて、こと……」


 ファビオの手がぶるぶると震え、オーブにそろそろと近づいていく。

 だが、そこでマティと目が合った。


「……!」


 マティに見上げられたファビオの動きが止まる。

 あわよくばオーブを奪い、ポータルを作成して地上へ脱出しようとでも思ったのだろう。


 だが。


(な、なぜです。この少女からオーブを奪えるという気が、全くしません!


 バカな、勇者である、この自分に!)

 

「それが、マティとお前の差だよ」


「な、なん……」


「それが分かるだけまあマシかな。じゃ、帰ろうぜ」


「わかった。おにいちゃん」


 マティがポータルを作成。

 既に地上で帰還ポイントを作っているので、ここをくぐれば直通だ。


「エスペランサの皆さんもどうぞ。


 もうモンスターも居ないけど、また10階戻るの、面倒でしょ?」


 手のひらで、おいでおいでをしてやる。

 レオンスとシャンタルが気の抜けた表情でやってきて、ポータルをくぐり消えた。


 そしてあと一人、ずっと静かだった男がやって来て、


「やるねえ。お嬢さんがた。大したもんだ、ははっ」


 と一言残してポータルへと消えた。そういや誰だ?


「ダンジョン入口で会った時から、影の薄いやつだと思ってたが……


 なんか性格は軽そうだな」


「【鑑定】した結果。魔法戦士パリスだって」


 マティが報告してきた。

 俺の代わりに入ったのは魔法戦士か。


「そいつには借りがあるわけじゃないが……


 ファビオの口車に乗ってパーティに加わったのが運の尽き。


 とでも思ってもらうしかないかな」


「ちょっと。気の毒かも」


「だな」


 ただ、なんとなく油断のならん奴、という印象もある。

 今後何かをしでかすような……


「……」


 ファビオが、無言でふらふらとポータルへと近づいてきた。

 この数分でげっそりとやつれたな。


 そこへ俺がそっとささやく。


「私を奈落に捨てた事、高くついたね」


「……! あ、あなたは、本当に、あの時の……!」


 ファビオの目が驚愕に見開いた。


「そう。奈落帰りのファニーが、借りを返しに来たよ……」


 俺の言葉に、ぞっとしたような表情のファビオ。


「ま、まさか……奈落から、戻ることなど……」


「それが戻れるんだなあ。ふふふ……


 ところであなた、他にもまだ、何かやらかしてる事があるんじゃなあい?」


「……し、知りませんね。身に覚えなど、一切」


 震える声でそう言い残し、ファビオもポータルへと消えた。


「これで、終わった? めでたし?」


 レリアが近づいて来て、そう聞いた。


「いやあ。まだだな」


 俺は首を振る。


「とりあえずはまあ、ファビオたちをぎゃふんと言わせる事には成功した。


 その点は、めでたくはあるけど」



 ファビオたちが奴隷を買い、奈落に捨てた事を追及することで、社会的に追い詰める……と言う手もあったが。

 

 今回は彼らの目標をかっさらい、徹底的に敗北感を植え付ける、という方面で借りを返すことにした。

 古代魔法の獲得は、俺の体を取り戻すことにも関係するしな。

 

 今回は、時空魔法ということで、ハズレだったが……



「これで、一つ。


 ファニーの分、借りを返したとしよう」



 もう一つは、俺の分。


 俺の予想が正しければ、ファビオは必ず、もう一度俺たちの前に現れる。

 その時に、キッチリ……返させてもらう。

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