第12話 パジャマパーティ女子会 ~キマイラとの戦闘

 皆で風呂をいただいた後。


 これまた、魔女の小屋のどこにあるんだっていう大部屋に俺たちはいた。

 布団をいっぱいに敷いて、寝間着に着替えてそれぞれ寝転がっている。


「んじゃ、パジャマパーティ女子会と行こうじゃないか」


 とのエウねーさんの宣言に、


「女子……?」


 俺はレリア、妹の順に見渡し、最後にエウねーさんを可能な限りけげんな表情で見た。


「……言いたいことは伝わったよ。


 オマエが寝静まったら、アタシの最新の実験薬でも投入してみようかね」


「冗談だって」


 実際のところ、エウねーさんは年齢不詳だ。

 エルフでもないのに、100年以上生きているようなことも以前ほのめかしていた。

 

 ここでやってる怪しげな研究も、結局何なのか教えてもらっていない。

 色々と謎の多い人物だ。


「あとな。女子の中に、完全にオマエを入れてただろう。今の態度だと」


「あっ……!」


 し、しまった。

 ついうっかり、俺が女子会に混ざる事に疑問を抱かなかった!

 

「ち、違う! 俺の目的は、男の体に戻ることなんだ!」


「んー!? おれ、じゃないでしょー!」


 即レリアのツッコミ。


 うう、ち、違う。

 俺の目的はブレてない。俺はブレてない!


「今のおにいちゃんも。あたし嫌いじゃない」


 妹が寄って来て、そっと手を重ねてくる。

 こ、これは兄妹百合……?とか言ってる場合じゃない!


「つか、この身体は別にちゃんと持ち主がいるからな!」


 今は使わせてもらってる身。

 貸し借りをキッチリする男として、そこはちゃんとしなければならない。


「それはそれとして、今は女子の体だろ。しっかり堪能しておくんだね」


 ニヤニヤ魔女が笑う。


「堪能ってなんだよ……俺は戻る、戻るんだ」


「こらー! また俺って言った!」


「うう、わ、私は……」


「だーっははは!」


 くそう。

 これ以上、いじられる前に何か、他の話題を展開してターゲットをそらしたい。


「そういや、オマエのスキルだがな。出来たのはエリクサーだけかい?」


 案外、魔女の方から違う話題を振って来てくれた。ありがたい。

 俺は他にも、メガエーテルやらマルチメディスンなどが作成できたことを伝えた。


「とんでもないね。


 それ全部、レリアが作った、普通の風邪薬とかから出来たんだろ?」


「そうなのー! シルヴィアちゃんってほんとすごくて!」


 レリアが嬉しそうに言う。


「そういえば。この魔女の家にある、薬とか薬草とかもすごいよねー?」


「おや、分かるのかい?」


 続くレリアの言葉に、エウねーさんがピクリと反応した。


「うん。家に入ってすぐ右の棚にあったの、カエル薬でしょ。


 人をカエルにしちゃうの」


 何気に、とんでもない薬が雑に置いてあるんだなこの家!?


「奈落でもねー、ときどきカエル化ブレスを吐くモンスターが出るもんだから、


 あたしが治す薬作ってたんだ」


 奈落のモンスターも物騒すぎる。


「おいおい、この子。実はそうとう優秀な薬師なんじゃないかい?」


 エウねーさんが驚いた顔をしている。

 確かに……地上に出たてなのに、割と短期間で色んな薬を作ってくれたけど。


「そりゃ、凄いことだよ。地上と奈落じゃ、生態系もだいぶ違うだろうに」


「へえ。レリアってすごいんだ。さすがおにいちゃんが組んでる人だね」


「まあ、なんとなく感覚で、出来ちゃったり」


 褒められ慣れてないのか、耳まで真っ赤になるレリア。


 むう、レリアって割と天才肌だったのか。

 つか理屈じゃなく、感覚で風邪薬やらを作ったというのか……


「案外、アタシの研究を一歩進める事が出来るのは、この子かもしれないね……」


 ぼそりとエウねーさんが呟いたのが聞こえた。


「え、何を?」


「なんでもない、気にするでないよ。


 しかし、レリアの薬師っぷりもすごいが……エリクサーをも作ると言う、オマエのスキルも非常に気になるね!


 目の前で見せてくれないかい?」


「嫌だ」


「なんでさ!」


 絶対笑うからだよ!



 しかし、その後めちゃくちゃしつこく「見せろ見せろ」と迫り、あげくに俺の胸を掴んで好き放題し始めたので「絶対笑わない事」を約束させ、結局見せることになった。


 ……ちくしょう。変な声出ちまった。


「ふむ。しかしテストも無しに、ウチの薬品を強化させるわけにもいかないな」


 確かに、カエル薬なんかを強化でもしたら、何が出来るのか想像もつかない。


「じゃ、ウチの実験生物でもひとつ、ぶっ倒してもらうか」


「は!?」


「ちょっと、こっちに来てくれないかい」 

 

 何やら物騒な言葉が聞こえたが、エウねーさんには逆らい難い。

 仕方なくついて行くと……四方を壁に囲まれた、無機質なだだっ広い場所に招かれた。


「ちょっとやそっと暴れても大丈夫な、隔離空間だよ。


 ここでちょっと、こいつの相手をしてみせてくれ」


 エウねーさんが指先で何らかの魔術的しぐさをすると、大きな穴が壁に空いてそこから何かが飛び出してきた。

 獅子の頭に、山羊の胴体、蛇の尻尾が生えた巨大な生物……


「キマイラ!?」


 数年前に、こいつと同類の合成生物の群れが突然発生したことがあった。


 キマイラたちは、この国の隣に位置するゴブリンキングが治めるゴブリック国を一夜にして滅ぼしたという。

 その後は、キマイラたちは自然にその体は溶け崩れ、勝手に全滅したらしい。

 

「当時はモンスターの国が滅んで、平和になってめでたい扱いだったけど……


 もしかして。エウねーさんの……仕業?」


「いやあ。あんなに急速に繁殖するとは、思ってもみなくてね」


 ほんとに犯人だった!


「今回のは繁殖能力を取り除いてある、安全種だよ!


 戦闘力は強化して小型のドラゴン並みだし、思う存分やっとくれ」


「それのどこが安全だ!」


 とかやってるうちにキマイラが吠え、こちらに向かってきた。

 ええい仕方ないな!


「【強く、可愛く、頼もしく】! アイスミサイル!」


 初級の氷魔法が、とてつもなく大きい氷柱と化す。

 氷柱は、同じ氷で造形された『リボン』が結ばれたデザインになっていた。


 キマイラに向かって飛び、その体を貫く……と思われたが、合成生物は思ったより素早く、それをかわした。

 

 そしてキマイラはこちらに向かって突進してくる。

 早すぎて攻撃を避けようがない……なら!


「【固く、可愛く、メタリック】! シールド!」


 自身の防御力をアップする魔法を強化する。

 

 ガチン!

 

 キマイラの振るった爪は、いともあっさりと弾かれるどころか、根元から折れ飛んだ。

 その痛みで悶絶するキマイラ。


「おやおや!」


「かわいい……」


「わあ! シルヴィアちゃん、変身した!」


 エウねーさんたちが妙に騒いでいるのは、俺の姿に対してだろう。

 その体は強固な金属と化しているが、見た目は二頭身にデフォルメされた美少女の姿だ。 

 

 【可愛く】の要素は女子受けはいいのかもしれない……


 気を取り直し、動きのにぶったキマイラに止めだ。


「【強く、可愛く、食らいつく】! ライトニング!」


 同じく初級の雷魔法。だが稲妻はとてつもなく大きくなり、動き回るキマイラをどこまでも追いすがる。

 そしてついにその体を捕らえ、全身を黒焦げにした。


 雷が動き回る間、どこからともなく「ごろごろ! びしゃーん!」とかいう、可愛い叫び声?が聞こえてきた。

 今回はそういう方向で可愛さを表現するのか……




「こりゃすごいね……初級魔法の威力とは思えないよ。


 追尾機能とか、初めて聞く概念だ」


 エウねーさんが心底感心した様子でつぶやいた。


「『可愛い』に妙にこだわるのが、女の子らしい」


「スキルの謎制限なんだよ、そこは無視してくれ……わ、笑うなっての」


 エウねーさんはいつものように大笑いはしなかった。

 が、肩は小刻みに震えていた……まあ、努力は認めるとするか……

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