第13話 夢で本体の人と会う ~名前判明

 キマイラとの戦闘を終えて、ようやく俺たちは床についた。


 俺以外女性、という環境で寝るというのは妙な緊張感がある……

 良い香りで満たされてるし……


 しかし結局、俺の体もそうなんだし、もう誰も魂は男だとか気にしてない雰囲気。

 なので、最初はやや寝付けなかったが、そのうち俺も深い眠りに落ちていった。


 ……



(……ん)


(……ヴァンさん……)


(シルヴァンさん……)



「……ん? なんだ?」


 俺はいつの間にか、知らない空間にいた。

 周囲は全て真っ白で、どこに立っているのかも分からない。


「なんだここは?」


 俺は、魔女の小屋で寝たはずなんだが……

 それに、何か呼びかける声が聞こえていたような。


「シルヴァンさん」


「えっ!?」


 いつのまにか目の前に、見覚えのある美少女が立っていた。


 どこで見たんだったか……そうだ。奈落の、レリアの家。鏡で見た……


「そうです。あなたの魂が入っている、本体の人です」


 本体の人って……この体の持ち主さんか。


 改めて正面から見ると、すごい綺麗な人だ。

 その高貴なたたずまい。俺なんかが中に入ってて良いのかという気分にもなる。


「ああ。この体、すまないが勝手に使わせてもらってるよ」


「お気になさらず。わたしは呪いで眠りっぱなしですので。


 わたしの体を使うことで、あなたが生きながらえる事が出来るなら、幸いです。


 スキルも立派に使いこなされてるようで」


「ありがとう」


 やっぱり、あの時の声はこの子だった。


 しかしここは夢の世界か、精神世界ってやつなのか?

 こういう形で会うことになるとはね。

 ここでは俺は元の姿を取ってるようだ。


「いつか、俺自身の体を取り戻して、きみの呪いも解き……全て元に戻るよう頑張るよ。

 

 そして、きみを奈落に落としたやつらにも、必ず相応の報いをうけさせる」


「ありがとうございます。その時をお待ちしております」


 ……そうだ。

 レリアに気付け薬を作ってもらって、それを俺が強化したらどうだろう。


 【清く、可愛く、取り除く】で、解呪の薬が作れるはず。


「しかし、それをわたしが飲めば……


 わたしが自我と、体の主導権を取り戻すことになります」


「すると、今度は俺があんたみたいな、ふわふわした存在になるわけか」


 この体の持ち主に、語り掛けるしかできない声のみの存在に。

 

「そうなると、スキルも使えなくなり……


 今はあなたが主導権を握っておられた方がよいでしょう」


 そうなるのか。ではこのまま、行くとしますか……


 スキルと言えば『可愛く』の制限、なんとかなりませんかね?

 と問うと、


「わたしが課したわけではないので……スキルが開花した時からそうなのです」


 むう……じゃあ一体誰の意図が……


「シルヴァンさん、あなたが望んだのではないのですか?


 可愛いものに囲まれたい、可愛くなりたい、という願望が実は心の底に」


 ない! 絶対ない!!


「と、ともかく。あんたの体、当分は使わせてもらうことになる。


 この借り、キッチリ返させてもらうから」


「わかっています。あなたの行動は、把握していますから」


 むう……全部見られてると思うと、ちょっと恥ずかしい真似は出来ないな。


「いえ。あなたが死にかけた時に、最後の力でアニマートの花を助けた話……


 聞きました。とっても、素敵な心をお持ちだと思います!」


「そ、そうかな」


「ええ、だから、わたしはあなたに好意を、んんっ! 


 信じられると思ったのです!」


 何か言いかけて、咳払いをする本体の人。

 妙に顔を赤らめている。


「えっと。そういうことで。自信をお持ちになって良いかと。


 それと今回は……その……大事なお願いを、しにまいりました」


「な、なんだろう」


 さらに顔を真っ赤にしている。


 何か怒らせるような事、したのかもしれない。


「その。ですね。


 ええと、要するにですね……


 わたしの、おっ、いえ、む……胸を揉まないでください!」


「ごめんなさい」


 それは、ひたすら謝るしかありません。


 はい。





「あと、足を開きすぎです。スカートで激しく動かないでください。


 し、下着が見えてしまいます。そして、言葉遣いもあらっぽすぎます。


 あとですね、……聞いてますか!?


 呪いの影響下から抜け出して、コンタクト取るのってすごい大変なんですから!」 



 ……本体の人の要求は続いていた。

 

 結局のところ、「らしくしろ」って事なんだろうけど……

 

 それじゃ、ほんとに俺が女性化していくみたいで、ちょっと怖いんだよ!

 エウねーさんにも、もう素の言葉遣いがそれっぽいって言われたし!


 でも、確かに……この体を使って好き勝手した結果、元に戻った時に

 俺の行動のツケを負わされるのはこの子なのだ。

 

「うう、わかりました。気を付けます」


「いいですね、お願いしますよ。


 これでも、その……それなりの立場の者、でしたので」


 ん。立場?この子は奴隷だったはずだが。

 奴隷落ちした没落貴族の子とかだったりするのだろうか?


 そういえば、本体の人の名前をいまだに知らない。

 この機会に、聞いておくか。


「ファニー・オージェ・ブレシーナと、申します」


 ファニーさんね。


「ん、ブレシーナ? どこかで聞き覚えが」


 ……確か、何年か前にゴブリンキングに滅ぼされた国の名前が、そうだったような?

 まさか?


「それでは、今回はここまでです。今後のあなたの活躍に期待します」


「あ、ちょっと!」


「いつでも、あなたのそばにいます。


 それではまた……すやぁ」




「ファニーさん!」

 

 がばっと跳ね起きた。

 ……もう朝か。


「誰? ファニーさんて。ねえ。おにいちゃん。誰?」


 既に起きて、布団の片づけをしていたマティが寄ってきた。

 なんか、妙に不機嫌だな? 


「ああ、夢で、この体の持ち主に会った。その人の名前」


「……へえ。そんな事があるんだ」


「色々言われたな……もっと、言葉遣いをきちんとしろって」

 

 あと胸を揉むなとか……


 そしてまさかの王女様だったとは。元、だろうけど。

 それなら、俺がこの体であまり品を下げるような事はやるべきじゃない、のかな。


 俺に出来るのか……そんなこと。


「まあ、可能な限り、やるしかないか……」


 見回すと、ものすごい寝相で寝ているエウねーさんとレリアが目に入った。


 エウねーさんはひたすら大の字で、掛布団はどこかに吹っ飛ばし。

 寝間着は思いっきりはだけて、ほぼ全裸だ。


 窓からさす光で、危ない所はしっかり隠れているのは、魔女の魔法によるものか!?

 

 レリアも、体全体で何かの文字を表しているようだ。

 不思議なよじれ方をした掛布団が、レリアの周りを囲んでいる。

 どう寝たらそうなるのか……



「……これに比べたら、お、私のほうがまだ女の子らしい寝相してなかった?」


「おにいちゃんは。かわいいよ」


 よしかわいい。

 ……なんか違くね!?

 


 しかし、寝相までは気を使わなくて良いよね?ファニーさん?

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