第10話 エリクサーの効果 ~快気祝い

「……と、言う訳なんだ」


 俺がどうして女の子の体になってしまったのか。

 その経緯を、妹に説明したところだ。


 もちろん、エウねーさんも加えて。

 一度俺が死んでしまった事には、妹もねーさんもショックを受けた様子だった。

 張本人のファビオたちに対しても、


「ふざけた輩だね。

 

 非道な事をしでかしておいて、当人たちはのうのうと英雄顔して生きてるとか……


 アタシが一番嫌いなタイプだよ」


「……ゆるせない。非道。


 わたしに無敵の断罪者(インヴィンシブル・パニッシャー)が使えたら……」


 ねーさんも妹も怒りを表明した。あと黒歴史引きずるのやめて。


「それについては、今は後回しだ」


「しかし、ネクロマンサーねえ……


 存在は知ってたけど、その秘術の成果を目の当たりにするなんて思わなかったね。


 世間では禁忌だろうが、おかげでオマエの命が助かったなら」


 良かったな、とエウねーさんは肩を叩いた。


「おにいちゃん」


 マティがそっと抱き着いてきた。


 頭を撫でてやる。以前よくやったような撫で方で。

 妹も分かったようで、ぎゅっと力を込めてきた。


 そして一言。


「おにいちゃん……おっぱい大きい」


 やめて!?





「じゃ、そろそろアンタの成果とやら。見せてもらおうじゃないの」


「これだ。レリアの風邪薬を強化して作った、エリクサー」


 机の上にファンシーな入れ物を置く。


「かわいい物使ってんな! ほんとにオマエ、身も心も女の子なんだな!」


 またエウねーさんが爆笑した。


「ち、違う! これは副産物みたいなもんで!」


「だーっははは!……てか、エリクサーだって? 


 つい入れ物に気を取られちまったが、本物なのかい?」


「一級鑑定士のお墨付きだ。間違いないよ」


 エリクサーを手に取り、いろんな角度から眺めるエウねーさん。


「あと、風邪薬がどうとか……どういうこった?」


「それについては、おれ……あたし……のスキルの説明を、だな」


 一人称について、レリアに睨まれるしエウねーさんには笑われるし、どうすりゃいいんだ!?



「……言葉の組み合わせで、色んな効果が発動する固有スキルねえ。


 アタシも固有スキルの持ち主には、数えるほどしか会った事ないし、専門外だが」


 こほんと咳ばらいを一つ。そして改めてニヤリと顔をゆがめて、


「【強く、可愛く、頼もしく】? だははは! 愉快なスキル名だねまったく!


 今日はほんとに笑いが絶えない、良い日だよ!」


 うるせー!


「ったく……ともかく。そのスキルで、風邪薬をエリクサーにしたんだ。


 これを飲めば、どんな病気でも治る。マティのだって」


「! ほんと!? おにいちゃん!」


 マティの目が輝いた。


「本当さ。さあ、飲んでみてくれ」


 マティが恐る恐る、エリクサーを手に取って、蓋を外し飲み干す。


 その体が一瞬光り輝き……

 そしてそこには、青白い顔色、痩せてかさかさの体だった妹はいなかった。


「おお!」


 顔に、赤みがさしている。こけた頬もふっくらなめらか肌に。

 髪もつややか、瞳にも力が戻って……

 元気だったころのマティに、完全に戻っていた……!

 

「……気分が良い。とても晴れやか。だるさも頭の重さも。何もない!」


「こりゃ、驚いた。本当にエリクサーなんだね……」


 エウねーさんが、軽くマティの体を触ったり目をのぞき込む。


「アタシが見た限り、病状は完全になくなってるよ」


 と宣言した。 


「良かった……本当に……!」


「おにいちゃん!」


 ふたたび、抱き着いてくるマティ。

 その腕には、力が蘇っていた。


 妹は、助かった。助かったんだ!


「ありがとう。おにいちゃん。こわかった。とてもこわかったよ……!」


 涙をぼろぼろ流して、抱き着く腕に力を込めてくる。

 この2年、死の恐怖に囚われ続けていたのだ。


「ごめんな。そんな時、一人にしちまって」


「いいの。出て行ったおにいちゃんを恨んだこともあった。寂しいと思った。


 でも。いつだっておにいちゃんは正しかった。信じてた」

 

 妹にしては饒舌だ。それだけ、想いが溜まっていたんだ……


 出来れば、元の男の体で妹を抱きしめてやりたかったが。

 今は、これでいい。


「今日はほんとに、良い日だよ」


 今度は、魔女の言葉に俺も頷くしかなかった。





「さあ、今日は快気祝いだ! どんどん食っとくれ!」


 机の上には、エウねーさん手作りの料理が所狭しと並んでいる。

 あんな性格なのに、彼女が作る料理は絶品なのだ。


 机の上に置いてあった書物は、全部床に散らばっている。

 料理を並べる前に、全部エウねーさんが手でまとめて払い落としたのだ。


「いっぺん、こういうのやってみたかった」


 とか言って。

 

「美味しい。これも。あれも」


 色んな皿の色んな料理に手を出しながら、美味しいを連呼するマティ。

 妹は表情が乏しいながらも、いつもより喜びを感じさせる色を浮かべている。


「ほんとおいしい魔女さん素敵すごすぎです」


「そうだろうそうだろう! 食え食え!」


 レリアもひたすら真顔になって(これが最高の喜び方なのだ)、多彩な料理を満喫している。

 俺も、久しぶりに心から食べるものが美味しいと感じていた。


 ……しかし、ちょっと以前より辛い物が苦手になってる気がする。

 この体のせいか。

 

 それをエウねーさんに気づかれ、


「オマエ子供舌になったな!」


 とかいじられた。くそう。


「地上ってすごい! 奈落じゃ体験できないことばっかり!」


「ああ? レリアちゃん、奈落から来たのかい!?」


 そうしてレリアの出身についてや、奈落の実態、俺の冒険者としての2年間のことなどが話題に上がり……

 食事の時間は過ぎていくのだった。




「メシ食ってしばらく休んだら、みんなで風呂だよ!」


 後片づけを皆でやった後、魔女が宣言した。

 そういや風呂、宿屋にはなかったもんな。そろそろスッキリしたい……

 

 ……風呂!? みんなで!?


「やった。病気の間。軽く濡れタオルで拭く程度だったから」


「わーい、みんなでお風呂ー!」


 マティもレリアも嬉しそうだ。


「魔女の大浴場、たっぷり味わっておくれ!」


 ここでぽんと俺の肩を叩くエウねーさん。


「え……俺も!?」


「んーー!?」


 即座にレリアのツッコミが入る。


「わ、私、も? 一緒に? 風呂ぉおお!?」


 中身は男なんですけどお!?

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