第8話 薬の鑑定 ~故郷へ

「こ、これは!? 伝説の聖なる薬、エリクサーではないですか!?」



 俺たちは、この街にある鑑定士の店に来ていた。



 俺のスキルでの、言葉の組み合わせ例の一つ、【清く、可愛く、元気よく】。


 それでブーストした『強化』魔法を使い、レリアの薬をパワーアップしたものを持ってきたのだ。


 強化したのは、風邪薬と栄養剤、それに解毒剤。


 『清く』で神聖属性、『元気よく』で健康促進が付与された。

 

 ……『可愛く』の効果は、薬を入れておいた試験管が、妙にファンシーな入れ物に変化することで現れた。


 しかし、出来た薬を実際に俺らの体で試すわけにはいかない。

 薬師レリアにとってもエリクサーなどは未知の存在なので、保証が必要だ。


 なので、アイテムや薬などの効果・性能を分析してくれる『鑑定士』の店に持ってきたというわけだ。



「これは、魔力完全回復のメガエーテル! 


 それに、こっちはあらゆる状態異常を治すマルチメディスン!」


 鑑定士は、驚きのあまり手を震わせながら、薬の入ったファンシーな入れ物を机に置いた。メガエーテルは元栄養剤、マルチメディスンは元解毒剤だ。

 エリクサーは風邪薬が変化してできた。


 だが鑑定士はそんな事はつゆ知らず、


「ダンジョン下層でごくごく稀に手に入る、伝説級の薬ばかりじゃないですか!?


 わたしも長年鑑定士をやってきて、それぞれ一度、見た事があるだけの品物です!!


 まさか、あなた方は下層域に到達できる冒険者なのですか!?」


 愕然といった面持ちで俺たちを見る。

 まあ、下層域というか最下層まで行ったというか、そこから戻って来たというか。


 俺たちの首から下がっている冒険者カードには、まだまだ駆け出しの証のEの文字が刻まれている。

 普通なら上層がせいぜいの階級だ。怪しまれても困るので、


「知り合いのAクラス冒険者に、おつかいで頼まれたんですう」


 と、適当な事を言っておいた。

 女の子っぽいふるまいがまだ不自然なのには、目をつむってもらいたい。


「なるほど、Aクラスなら……」


 鑑定士は納得した模様。


「で、このエリクサー……効果をもう一度、言ってくれない、かな?」


 俺が鑑定士に催促する。


「え、ええ。エリクサーはですね。


 飲めばたちまち、全ての状態異常、病気を治し、体力も魔力も全回復。


 ダンジョンに挑む、全ての冒険者垂涎のシロモノです」


「全ての病気、なんだな!? いや、なのね!?」


 念押しする。


「はい。エリクサーで治らない病気は存在しません。


 一級鑑定士の名にかけて、保証いたします」


「それを聞いて安心した……わ」


 俺は胸をなでおろした。


「そーか! それで、妹さんの!


 さっすが、シルヴィアちゃん!」


 レリアが手を打ち合わせた。


「そうだ。冒険者稼業を再開して、またそれで稼ぎなおそうと思ったが……


 レリアの薬を、お、私のスキルで強化したなら、もしかしてと思ったんだ。


 そして、思い通り……すべてが、万全だ!」


 俺もぐっとこぶしを固く握る。

 これで、妹の病気を治せる!高額な治癒師を雇う事なく!


「だから、そいつを持ち逃げしようなんて考えたなら、全力で阻止するからね」


 そーっと、エリクサーに手を伸ばしかけていた鑑定士にくぎを刺す。


「め、めっそうもない!」


 エリクサー、どれだけ金を積んでも手に入れたいと思う冒険者はごまんといるからな。

 その金だけで、一等地に豪邸が建つ。


「と、ところで、そのA級冒険者とは誰なんです? 


 もしかして、ファビオさん一行、エスペランザなのでは?」


「……ええ、そうよ!」


「やはり……!」


 全くの嘘である。


 しかしあいつらの評判、さすがにギルド番付一位だけあって高いもんだ。

 実体は手段を選ばない、悪辣なやつらなのだが……

 

 そのうち、化けの皮をはがしてやろう。

 まずは、妹だ。




 ▽




 そうして、俺たちは俺の故郷……テリブリアに戻って来た。


 実に、二年ぶりだ……

 二年の稼ぎは、全部かっさらわれたが、それにも勝る成果を持ち帰る事が出来たのだ。

 凱旋といえるだろう。


「おやまあ、可愛い旅人さんだねえ、よう来なすった」


「姉妹かい? 違う? まあ、何もないとこだけどゆっくりしていきな」


 村人が、気さくに声をかけてくる。


「こんにちわー!」


「よろしくー!」


 レリアは明るく応対しているが、俺は村人に対しては目線を合わせないようにしていた。


 ……あいつらは、妹が余命3年となるゴルガの病にかかったとき、自分らに感染する事を恐れた。

 そして、俺たちを村から追い出したのだ。


 感染するというのは誤解によるものだが、偏見は根強く……

 俺たちは村を出るしかなかった。

 一応、俺たちの世話をしてくれると言う人を紹介してくれたので、恨みはない。

 

 ……だが、俺があまり村人に良い感情を持っていない、というのが正直なところだ。


「シルヴィアの妹さんは、家にいるの?」


「いや。村からちょっと離れた森の、魔女の家にいるんだ」


「魔女! 怖い人なのー!?」

 

「ある意味、そうだなあ……」


 その人も、村人からはあまり歓迎されてないため、一人森で生活している。


 錬金の魔女、エウフェーミア・ファルネティ。


 なげー名前なので、俺はエウねーさんと昔から呼んでいる。

 そしてちょっと、ちょっとだけ俺が苦手としている人物だ……

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