第7話 冒険者ギルドへ ~スキルの真価

「おいしい……!」


 ギルドへの道すがら。

 露店で買った食べ物を一口かぶりついたレリアは固まった。

 

 ひたすら真顔だ。


「おいしい……よのなかにこんなおいしいものがあったなんて……」


 この子は心底感動すると、感情が抜け落ちてしまうのかもしれない。

 普段は表情がくるくる変わるだけに、落差がすごい。


 奈落だと食つなぐだけで精いっぱいで、美味しく調理したものを食べる機会なんてなかったのかもな。

 俺も、お気に入りの店の串焼き肉を頬張りながら、レリアの様子を微笑ましく思うのだった。





「――では、この登録紙に名前の記入と、手のひらをつけて。


 魔力紋を登録してください」


 冒険者ギルドにて。

 俺たちは、新しく冒険者としての登録作業を行っていた。


 レリアも、俺と一緒に行動するなら、登録しておいた方が都合がいいだろうと思ってのことだ。


「……審査の結果、シルヴィアさんは賢者の適性があるようです。


 それで登録しますか?」


「ああ、それで頼む」


「……?」


 妙に慣れた態度と言葉遣いに、やや不審がる受付嬢。


(しまった、もっと見た目に合ったふるまいをすべきだった)


 しかし、特に何か言われる事も無く、冒険者カードは無事発行された。



 だが、俺が最初から攻撃・補助系の魔法が全て使えるということが判明。

 そのうえ、謎の固有スキルまでカードに刻印されている。


 ギルド中が大騒ぎになり、俺の周りに人だかりが発生してしまった。


 やれ「天才が生まれた」だの「ギルド始まって以来の事態」だの……

 

 俺がかなりの美少女であることも、話題性を高める結果になっているようだ。


(元々俺が取得した魔法が使えるだけだし、スキルは強いけど宣言は恥ずかしいし)


 などと言うわけにもいかず。


「うーん、よく分かりません」


「あははは、ありがとうございますー」


「ええと、がんばります!」


 とか適当に、とはいえ怪しまれない程度に女の子っぽく振る舞い……


 小一時間ほどして、ようやく騒ぎは収まってくれた。



「……はあ。結局、ちょっとした面倒が起きちまったな」


 あいつら、二言目には「かわいい」と言って来やがるし。

 なんだかむずむずする、けど少し、嬉しい気も……いやいや!

 

 しかし「以前、攻撃・補助系を全て使えるシルヴァンという奴がいて……」と俺の話が出た時は、ややヒヤッとしたな。



「シルヴィアちゃん!」


 レリアが手を振りながらぱたぱたと駆け寄ってきた。


「お、レリア、無事カードは出来たか?」


 初めての地上での手続きで、手こずったみたいだが一応登録は成功したらしい。


「すまん、ほんとは俺がもっとしっかりついておくべきだった」


「ううん! ちゃんと一人で出来たし! 


 これから地上で生きていくんだもん、これくらいは!」

 

 レリアは首から下げたカードを誇らしげに手に取り、見せてくれた。


「なになに、レリアの適性職は薬師、なのか」


 そういや、奈落でも薬を作ってたし、確かに適してるみたいだな。


 薬。

 薬か……。いや、まてよ……?


「おうおう、お嬢ちゃんがた。二人で、冒険者ごっこかい?」


 ……また面倒ごとがやってきた。


 ニヤついた笑顔で見下ろしてくる禿頭の巨漢は、冒険者の間でも評判の悪い、"流れ斧の"ロブだ。

 斧の名手だが、キレると暴走して敵味方構わず切り付ける、はた迷惑な輩。


「何やら天才少女だってな? だが、ここじゃそんなのは珍しくない。


 持ち上げられ、意気揚々と迷宮に入ったが二度と帰ってこなかった……


 って例はいくらでもあるぜえ?」


 肩に手を置いてきた。

 ぞわっと嫌悪感で鳥肌が立つ。


「俺のところにくるなら、長生きさせてやれるんだがな?」


 こいつ、これでも口説いているつもりか?

 しかも目線が、俺の胸に向いているのがもろバレだ。

 

 なんか、分かってしまった。

 これが女性が言うところの「生理的に無理」ってやつか!


「レリア、目をつむれ」


「あ、はーい」


「【強く、可愛く、頼もしく】! ライト!」


「うおっまぶし……ぐほお!?」


 またしてもその場を閃光で満たし、ロブの股間を蹴り上げ、俺たちは逃走したのだった。





 俺たちがその後向かったのは、草原。

 薬草を採りにいくためだ。


「でも、ギルドじゃそんなクエスト、受けなかったよねー?」


「提出するためじゃなく、俺……あたしが使うため、なんだ」


 レリアは首をかしげる。


「レリアは、薬師だ。それも花や草から薬を作る……


 それで、なんでもいいから飲み薬を作ってほしいんだ」


「なんでもいいの? 


 うーん、奈落と地上では草の種類が違うかもだから、自信ないけど」


「とにかく、頼む。出来そうなものを、片っ端から」


「うん! わかった!」



 そうして、俺たちは草原をうろつきまわること数時間。

 レリアが分かる範囲で薬草を集めまくり……

 日が傾き始めたので、街に戻り、薬作成に必要な道具を買いそろえる。

  

 そして適当な宿をとり、今日はおやすみとあいなった。




「できた!」


 そして次の日、半日ほどかけて。 


 机の上にならんだのは、試験管に入れられた、各種飲み薬。

 それぞれ、2~3本程度余計に作ってもらった。


「これが風邪薬、これが栄養剤、これが解毒剤。


 解毒剤は対応する毒の種類で違って……」


「ありがとう、レリア! 万全だよ、助かる!」


「えへへ」


 そしてここから、俺のスキルの出番である……!


 レリアが薬を作っている間、俺はスキルについて調べていた。

 俺の中の誰かによると、スキル発動に必要な宣言の『言葉の組み合わせ』で可能性は広がる、と言っていた。


「つまり、『強く、可愛く、頼もしく』だけではないってことだ」


 どういうわけか『可愛く』は外せないらしいが……


 なので、俺も半日かけて、言葉の組み合わせを色々試していた。

 実験に使う魔法は、攻撃魔法だったり、補助魔法だったり。


 危険のないよう、町はずれの荒れ地で人に見られないように。



 実験の結果、いくつかの要素が判明した。


 『強く』は魔法威力を増幅。『頼もしく』は見栄えがよくなる。


 『鈍(のろ)く』『早く』などで、魔法の速度の調整。

 

 『食らいつく』で誘導性能がつく。などなど……



 そして今。


 俺が求めるものを獲得できると思われる、言葉でスキルを発動し……


 ブーストした補助魔法『強化』で、レリアの薬をパワーアップさせる!



「【清く、可愛く、元気よく】! 強化!」

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