第6話 ファビオと接近遭遇 ~二人でおめかし

「なっ!?」


 ダンジョン最下層、エスペランザが作ったポータルを通って地上へと戻った、俺とレリア。


 ポータル出入口は、エスペランザが泊っている一等客室の片隅に設置してある。

 なのでそこには当然、ファビオたちが居て、驚きの声をあげた。


「だ、誰だてめえら!? ガキが二人?」


「一体、どうやって? うちらにしか使えないポータルを」


「あなた方は一体……!」


 当然、俺はこのことを予測していた。

 なのでレリアの目をふさぎ、さっそくスキルを発動させる。


「【強く、可愛く、頼もしく】! そしてライト!」


 ぴっかーん!


 太陽が爆発したかのような閃光が、部屋いっぱいに広がる。

 ささやかな明かり程度の魔法が、とんでもなく増幅された結果だ。


 ……しかし、なんか妙な効果音が鳴ったな。

 そのうえ、周囲には『☆彡』みたいな星がきらめいている。


 火球魔法の時は子供のようなフェニックスが現れたが、今回はそういう要素で『可愛く』なってるのか……


 それはともかく。


「うわああっ!?」


 俺たちを除いた全員、視界を奪われた。

 その隙に、ポータルをちょいといじくる。


「こっち!」


 そしてレリアの手を引いて、部屋の扉まで走った。

 たまたま、出口のそばにファビオが居たため、


「邪魔だ!」


 と股間を蹴り上げ、


「があっ!?」


 唸って前のめりになるファビオを押しのけて、扉を開き部屋を後にした。




「はあ、はあ……」


 宿から脱出し、とりあえず近くの路地裏まで走って一応身を隠す。


「はあ、はあ。くっ、この身体、体力ねえ!」


 奴隷である証拠の鉄の足枷は、奈落を出る時に魔法を使って焼き切って外してある。

 それでも、元々あまり鍛えられてないためか、この身体は走るのに向いてなかった。


 ファビオの股間を蹴り上げた足先もけっこう痛い。


「と、とりあえず、はあ、地上まで戻れたことを、良しとしよう。


 ……レリア?」


 振り返ると、レリアが裏路地から首を出し、周囲の様子をきらきらした目で見まわしている。


「ここが、地上の街なんだねー! 


 空が青いよ!? きれいー! 空気も美味しい! 


 人がたくさん居るよー!」


 ……この子は初めて地上の街に来たんだ。当然の反応かな。


 レリアは奈落育ちで鍛えられてるのか、息も切らしていない。

 たっぷり周囲を観察しては「あれはなに?」「あれは?」と質問攻めしてくるのだった。




「……ところで。さっきの、宿屋の人たちは?」


 アルニタクのダンジョンは、ここ王都レジアスの城下町中心部に入口があること。

 この国の名前はバレルビアであること。

 街や、街の人、そして地上についての全般的なこと。


 などなど、レリアの質問に答えていると、興味が宿屋の三人に向いたようだ。


「ああ……あいつらか。俺が元居たエスペランザっていう、冒険者パーティだ。


 俺はあいつらに裏切られて……奈落に、落ちたんだ」


「ええー!? なんてひどい人たちなの! 


 そして、人を奈落に落としたのに、あんないい部屋に住んでるのー!?」


 レリアが憤る。


「とりあえずファビオの急所を蹴り上げて、ほんのちょっとだけスカッとしたかな」


 だが貸し借りポイント的には、ほとんど動きはないようなものだ。

 いずれキッチリ、借りは返す。


「とりあえず……俺もレリアも、ボロボロの服をなんとかしよう。怪しまれる」


「あたし! もしくは、わたし!」


 な、なに?


「『俺』じゃないでしょー!


 そういう一人称の子もいるけど、あなたけっこう高貴な顔立ちしてるんだから。


 あらためなさい!」


「はい……」


 なんか怒られた。


「じゃあ、お、わ、私……とレリアは服屋に行こう」


「服屋さん! やった! おめかしするのー!?」


「そうだな」


「嬉しい! いつも同じような服だったし、パンツもないし!」


 そうなのだ。

 俺もまだスース―している。


 ということで、俺たちは街の服屋に向かうのだった。




「わあ! この服もかわいい! こっちも!」


 レリアは服屋で、くるくる回るように、色んな服を吟味している。


 俺はさっさと適当なのを選んで、冒険者ギルドに行ってカードの再登録をしたかったところだが。

 シルヴァンで登録してるカードは、性別は女になるわ、新スキルが刻まれてるわ、全魔法がLV1になってるわ。

 

(ギルドによる、なりすまし防止の抜き打ち検査などやられたら……


 絶対、根掘り葉掘り聞いてくるに違いない。それは面倒だ)


 ファビオの事、奈落の事、それらはいったん後回しにしたい。

 まずは病気の妹の件が最優先だ。

 

 また最初から稼ぎなおしと思うと気が重いが……それでもやるしかない。

 なので、服は最低限で済ませて、冒険者稼業を再開したかったのだが。


「だめー! しっかり選ばないと! 女の子なんだから!」


「いや、その俺は」


「んー!?」


「わ、私は。服とか、どうでもいいっていうか……」


「じゃ、あたしが選んであげる!」


 ということで、レリアに丸投げしたのだった。



 その後は、レリアに体に服を合わせられて「んー?」「いいかも?」「これじゃないなあ」とかコメントを頂きつつ。

 さんざん時間がかかったが、二人とも新品の装いで身を包んだのだった。


 一応、冒険者として動きやすい服装というリクエストは、レリアに求めておいたのだが。


 ちゃんとそれを考慮された上で、なかなか可愛らしい格好になったのだった……俺も……



「すっごい爽やかな気分! 新しいパンツをはいたばかりの朝っていいね!」


 レリアは上から下まで新しい装いに身を包み、実に上機嫌だ。

 だが実際はもう昼過ぎである。

 お腹もすいたし、その辺の露天で適当に食べ物を買って、ギルドへ行こう……

 

 しかし。


「この、いかにも女の子って服で出歩くのか……」

 

 レリアセレクションの女子服に身を包んだ己を見下ろしながらつぶやく。

 ボロの服の時もそうだったけど、すげえ恥ずかしい!


「胸元出すぎてない?」


 思わずむにむにしてしまう。

 やっぱやわらけー……いや、いかんいかん!


「そしてまたスカートだし! 下半身が心もとない!

 

 パンツも、女物だよ!?」


 変態の所業ではないのかこれ!?


「だいじょうぶ、そのうち慣れるよー。


 それにとっても可愛いんだから、自信をもって!」


「男は可愛いと言われても、違和感しか……」


「あなたは今は女の子なのー!


 ちゃんと『らしく』しないと、その体の持ち主の子にもめいわくでしょ!」


 うう。

 魂は男のものだっていうのに。


 レリアはとにかく、俺を女の子に馴染ませようとしている気がする。


 そのうち、身も心も女の子になっちまわないだろうか?

 妙な想像に、俺はちょっと怖さを覚えた……

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