追いつめられた犯人 前編

探偵が、犯人を追いつめる。


探偵「犯人は、あなたです」


犯人「……」


押し黙る犯人に指を突きつけ、探偵は畳みかける。


探偵「あなたがやったんです。


人を殺したんです。


残忍な手段を使って…


一人の人間の尊い命を…


奪ったんです!


あなたと被害者との間に、何があったかまでは分かりません。


もしかしたら、あなたにも深い事情があってやった事かもしれませんが…


しかし、仮にどんなに同情すべき理由があろうとも…


だからといって、人を殺していい理由にはなりませんよ!!」


犯人「くっ…!」


探偵「なので言い訳とか一切、聞く耳持たないし、知ったこっちゃありません。


大人しく観念して、自ら犯した過ちを一生悔い詫び続けながら、惨めな生涯を送る事ですね!


人を殺したいほど憎んだ事もなければ、そこまで人生追い込まれた事もなく、のうのうと生きてきた僕に言わせれば…


あなたは、ただの血に飢えた殺人鬼なんですよ!


殺人鬼!!


最低ですね」


犯人「うわあああああああああああああああ!!!!!!」


そこで堪らず犯人は叫び声を上げ、隠し持っていたナイフを自らの喉元に突きつけた。


犯人「もう死んでやらああああああああああああああ!!!!!!!」


警部「早まるんじゃない!」


そこまで黙って聞いていた警部が、犯人を制止する。複数の警官が、犯人を取り囲んだ。


犯人「来るな!」


犯人は自らの命を盾にとり、牽制する。


警部「探偵くん」


警部が探偵の方を見やる。探偵は、冷静さを崩さず言った。


探偵「すいません、言いすぎました」


警部「ほら、謝ってるから!」


犯人は尚も、ナイフを喉元に突きつけながら言う。


犯人「確かに、その探偵の言う通りさ…

俺は人を殺した。その罪は、自らの命を持って償うしかねぇ!!」


警部「何を、馬鹿な事を!ちゃんと法の裁きを受けて、刑期を全うして人生をやり直すんだ!!」


犯人「そんな事、誰が望んでる!?

遺族は、俺が生き延びる事を望んでるのか!?更生して、ごめんなさいすれば許してもらえんのかよ!?


どんな理由があろうと、人間一人の尊い命を奪った罪は、償いきれねぇんだ!!」


警官「それが分かってるなら、やるなよ」


警部「しっ!!」


一人の警官の放つ火の玉ストレートに、警部は思わず人差し指を口に当てる。


犯人「それに…俺のために取り調べして、裁判して、刑務所で養って…

ここで死んだ方が、手間も費用も省けていいだろーが!!

アンタらも、仕事が減って助かるだろ!?」


警部「それは違うぞ!!!!」


警部の声が、その場に鳴り響いた。犯人が体をびくりと震わせる。警部も拳を握り締め、体を震わせながら言った。


警部「君をここで死なせたら…


そんな事になったら…


我々警察は…!!


めちゃくちゃ、怒られるんだよね」


犯人「そこはもっと、嘘でも綺麗事で返してくれよ!」


さらに、説得は続く。


警部「え~と…あれだ。君が死んだら、悲しむ人がいるだろう!」


犯人「残念でした!俺は天涯孤独の身だ!友達とかも1人もいないんで、そこんとこヨロシク!!」


警部「くそっ…!


探偵くん、君からも何とか言ってやってくれ」


ナイフの切っ先を自らに向け、死のうとしている犯人に、探偵から鋭い一言が飛ぶ。


探偵「やめなさい、そんな事をしたら──


痛いですよ?」


犯人「そういう次元の話じゃねぇんだよ!!!!生きるか死ぬかの極限状況なんだ、こっちは!!」


探偵の渾身の説得も通じず、このまま犯人の死を止める事はできないのか?


後編につづく。

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