死神
とある洋館で起きた連続殺人事件…
その洋館に、偶然にも雨宿りのため立ち寄った探偵により事件は無事解決された。
警部「今回も、お手柄だったな探偵くん」
探偵「ええ。この事件は実に周到に計画されたものでした。犯人にとって、たった一つの誤算は、偶然にもこの名探偵が事件の場に居合わせた事でした」
こうして探偵が事件の場に居合わせたのは、今回が初めてではない。これまでも数々の事件に遭遇し解決している。
そして、その事に疑問を持つ人間もいた。
警視「偶然?果たして、そうかな?」
警部「警視!?」
警察きっての知性派、エリート警視はそう口を挟む。
警視「殺人事件の場に偶然居合わせる…
そんな多くの人間が一生に一度も体験しないような事に君はこれまで何度も遭遇している…そんな事が、果たしてありえるだろうか?」
探偵「……」
探偵は無言で警視に視線を返した。
警部「そ、それはどういう意味です警視!?
探偵くんのおかげでいくつもの事件が解決できたというのに…」
警視「確かに、その功績は認める所だよ。
しかし探偵くんが現れて以降、トリックなどを仕掛けた手の込んだ殺人事件が頻発するようになった。
彼の行く先々で、次々死体が現れる。
こうした状況に、警察内には彼の事を死神と噂する者もいる」
探偵「……」
依然と無言の探偵に、警視は続ける。
警視「さらには、そもそもこれは偶然ではないと疑う声だってある。これまでの数々の事件…そこに、探偵くんが何らかの形で関わっているのではないか?
本当は君は、そこで事件が起きる事をあらかじめ知っていたんじゃないか?とね…」
警視の声が鋭くなる。
警視「どうなんだい、探偵くん?」
警部「た、探偵くん…」
警視の追及を黙って聞いていた探偵は、そこでようやく口を開いた。
探偵「確かに…僕のような探偵が、何度も偶然事件に遭遇する。
いつの間にか当たり前になって慣れてしまいがちですが、冷静に考えれば異常です。死神と揶揄されるだけならまだマシで、ここまで来ると何らかの形で事件に関与してるのではないか?と疑われない方が不思議なくらいです。
ですが、言わせてください。
そんな事を言うのは──」
警視と警部は、息をのんで次の言葉を待った。
探偵「野暮です」
警部「……」
警視「……」
警部「……野暮!?!?」
探偵「古今東西、数々のミステリーやサスペンスの主人公が偶然事件に遭遇しています。シリーズものであれば、それが何度も続くのは仕方がない事ですし、そうでないとお話になりません。
そんな事にいちいち疑問を挟んだり、つっこみを入れるなんてのは無粋の極みです」
警部「主人公…?シリーズもの…?一体、何を言っているんだ探偵くん!?」
警部が困惑していると、警視は大きく頷いた。
警視「なるほどね。
確かに、そこに疑問を持つ事は野暮かもしれないね。何、私だって本気で疑ったわけじゃない。君が論理的解答を返せるか試したんだよ。さすが、私が見込んだ男だ。はっはっは!」
探偵「これくらい答えられなければ、探偵は務まりませんよ。はっはっは!」
そう笑い合って、探偵と警視は意気投合し肩を組みながら去っていった。
警部「えぇ…」
【終】
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