名探偵、苦戦する

探偵「犯人は、あなたです」


犯人「は?」


探偵に指さされた犯人は、そう反応した。


探偵「意外そうな反応ですね。まさか、見破られると思いませんでしたか?ですが、先ほど説明した『氷』を使ったトリック…それが可能だったのは、あなただけです」


警視「なるほどね。確かに『氷』を使えば、この犯行は可能だね」


探偵「その通り。古今東西、数々の事件のトリックに『氷』が使われています。水を固体化させる事で、様々な仕掛けに使ったり、凶器として使用する事もできます。そして、時間の経過とともに解けるので、証拠も残りにくいし、時限装置にもできる。要するに、めちゃくちゃ便利なので『氷』さえ使っとけば、大体のトリックは説明がつくという事です」


警視「うむ。筋が通っている」


探偵の説明に警視が納得したのを見て、警部は犯人に向かって言った。


警部「さあ、何か反論はあるかね?」


犯人「は?」


警部「は?じゃないんだよ」


探偵「やれやれ、まだ観念しませんか。ならば、あなたが犯人である証拠を見せましょう」


犯人「は?」


探偵「そんな物あるわけがない…そう思いますか?」


そう言って、探偵はポケットからある物を取り出した。


警部「それは…」


探偵「はい。氷スコップです」


警部「氷スコップ!?」


探偵「製氷機で作った氷をザックザックすくう小さなスコップ。これが殺害現場にあったという事は、この人が犯人である確かな証拠です」


警視「確かに。製氷機で作った氷をザックザックすくう小さなスコップが現場にあったという事は、この男が犯人である、確かな証拠だね」


警視の同意を得て、探偵は犯人に向き直る。


探偵「さあ、どうです。犯行を認めますか?」


犯人「は?」


警部「だから、は?じゃないんだよ」


探偵「…まったく、それは私の推理に納得がいかないという事ですか?それとも単純に聞き取れなくて、聞き返してるんですか?」


犯人「は?」


探偵「あのねぇ…それじゃ、話が前に進まないんですよ。認めるなら認める。反論があるなら反論するなりしてもらわないと」


犯人「は?」


探偵「やりにくいな、この人…」


犯人「は?」


探偵「その、は?って言うのやめてください。それしか言えないんですか?」


犯人「は?」


探偵「やりづらい…」


警視「はっはっはっ!

珍しく、手こずっているね。名探偵くん」


警視が、そう言って笑う。


探偵「だって、肯定も否定もせず、延々聞き返すだけなんですもん」


犯人「は?」


探偵「やめてください、それ。はらたつ」


犯人「は?」


探偵「もー!」


探偵は地団太を踏む。


探偵「とにかく!!反論がないという事は、認めたという事でいいですね!?」


犯人「は?」


探偵「どっちなんだよ…

イエスかノーかすらなかったら、話のしようがない。やりづらいわー」


犯人「は?」


探偵「うるさい!」


その時、探偵はひらめいた。


探偵「そうだ!


いいですか、よく聞いてください。



さあ、どうなんです!」


犯人「は?」


探偵「やった!!」


警部「おお!さすが探偵くん、素晴らしい機転だ!」


探偵「私の、頭脳にかかればこんなものです!


そんな、一辺倒な返答で私の推理を免れようなんて甘いですよ!!


あなたは私の問いに『は?』と返した!


それは、つまり自分の犯行を認めたという事でいいですね!?」


犯人「は?」


探偵「……」


警部「あー、元に戻っちゃったよ」


【終】

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