豚まん

探偵の推理が、クライマックスに差し掛かっていた。


探偵「犯人は、の棒を使ったんです」


警視「なるほどね。確かにの棒を使えば、このトリックは完成するかもしれないね」


警部「そ、そういう事か。つまり、このアイスキャン…」


警部は、探偵と警視をちらりと見やる。


探偵「です」


警視「いや、だろ」


警部「どっちでもいいですよ!」


こうしてトリックが解明し、満を持して探偵が犯人を指さす。


探偵「犯人は、女Aさんあなたです!」


女A「……!!」


ついに明らかになる、犯人の正体。

しかしミステリーの物語において、本当のクライマックスはこの後。それは…


である。


警部「まさか、被害者と同棲していた彼女が犯人だったとは…一体なぜ」


本来、動機は取り調べで語る事だろうが、その場で語るのがミステリーのお決まりである。


女A「あの男はねえ…!


毎日働きもせず、パチンコ三昧…!


どうしようもない、クズだった!!


あの日は、珍しくパチンコで勝ったからって…


あの男、何をしたと思う?


上機嫌に、をおみやげに、買って帰ってきたのよ!!


だから殺したの」


探偵「……」


警視「……」


警部「…え?


豚まん??え?どういう事?」


女A「豚まんよ!豚まん!!」


警部「つ、つまり、彼氏が豚まん買ってきたのが気に入らなくて殺したと…そ、そんな事で…!?」


探偵「分かっていませんね、警部」


そこで、探偵が警部に向かって言った。


探偵「彼女は普段から、彼に対して不満を募らせていた。それが些細な事で、爆発したという事です。豚まんはきっかけにすぎません。そうですよね?」


探偵はそう言って、女Aの方を見る。


女A「違う!!!!!!」


探偵「あ、違うんだ」


女A「私はねえ…!


ホント、ただただ…


豚まんが、気に入らなかったのよ!!」


警部「ぶ、豚まんの何が…君をそこまで…」


犯人の心の闇。

豚まんにまつわる悲しき過去を、女は語り出した。


女A「私の生まれ育った家庭は、どうしようもなく、冷え切った家庭だった…


家族といても、会話も笑顔もない…暗く淀んだ家庭…息が詰まりそうだった。


でも、たまに父がおみやげに豚まんを買ってくる事があって…


その時だけは、家族に笑顔が戻ったの」


女Aはうつむき、震えている。

そして、叫んだ。


女A「豚まんが!!!!」


警部「豚まんが?」


女A「ある時!!!!」


【回想】


母「ははははは…」


父「ハハハハハ…」


弟「アハハハハ…」



女A「ない時」


【回想】


父「…………」


弟「…………」


母「……………」



女A「ある時!!!!!」


【回想】


弟「ハハハハハハ!!」


母「ハハハハハハ!!!」


父「ハーッハッハッハッ!!!!」



女A「ない時……」


【回想】


父「……………………」


母「………………………

……………………………」


弟「…………………………

………………………………

………………………………」



女A「ある時!!!!!!」 


【回想】


弟「アーッハッハッハッ!!!!」


母「ヒャーッハッハッハッハッ!!!!!!」


父「ファーーーーーーーーーwwwwwwwwwwwwwwwww」



女A「あーーー!!!!


もう、あんな生活、気が狂いそうだったのよ!!!!」


警部「そりゃね…」


探偵「彼が豚まんを買ってきた事で、常軌を逸した家庭の記憶が甦り、今回の凶行を…」


警視「なるほどね…」


女Aは、涙を流していた。


女A「もっと…たまには…」


そして、膝から崩れ落ちる。


女A「ピザまんとかが、食べたかった…!!!!」


警部「あ、そこなんだ?」


【終】

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る