長老

山奥の村で起きた、恐るべき怪事件。

意外な犯人の、正体とは…


探偵「犯人は、あなたです」


探偵が指さす先には、一人の老人。

この村の、長老だった。


村人A「そんな、まさか…!?

長老様が犯人だなんて…」

村人の少女が、驚きの声を上げる。


村人B「うそだ!長老様が、そんな事するわけねぇ!!」

村人の青年も、叫ぶ。


当の長老は、黙ったまま座っている。


警部「この村で起きた、数々の事件、怪現象、そして密室殺人…それら全てを、この老人がやったと言うのかね?」


探偵「はい。先ほど説明した、『糸』を使ったトリック…全ての事件で、それが可能だったのは、長老だけです」


警視「なるほどね。確かに『糸』を使えば、全ての犯行は可能になるね」


探偵「はい。古今東西、数々の事件のトリックに、『糸』が使用されています。

縫い糸、釣り糸、凧糸、アラミド繊維、etc…

糸はくくりつけたり、引っぱったり、張りめぐらしたり、それ自体を凶器にする事も可能です。

まあ、言ってしまえば『糸』さえ使っとけば、大体のトリックは説明がつくという事ですね」


警視「うむ。筋が通っている」


探偵の論理的な推理に対し、村人が反論する。


村人B「ちょっと待てよ!それ以前に、長老様は足が悪いんだぞ!!」


村人A「そうよ、あの足じゃ犯行は不可能だわ!!」


探偵「長老の足がすでに完治している事は、分かっています」

探偵は、依然と黙ったままの老人を見据え言う。


探偵「あなたの主治医を締め上げたら、全て吐きましたよ」


村人A「何て、乱暴な探偵なの…」


村人B「しょ、証拠はあるのか!?長老様が犯人だという、確かな物証は!!」


それを聞いた探偵は、ポケットから小さな筒状の金具を取り出した。


探偵「犯行現場に残されたこれが、長老が犯人だという動かぬ証拠です」


警部「探偵くん、それは…」


探偵「ボビンです」


警部「ボビン!?」


警視「なるほど。ミシンなどに使われる、糸を巻くための金具。それが犯行現場にあったという事は、犯人は長老以外に考えられないね」


村人B「くっ…確かにボビンがあったのなら、犯人は長老様という事になる…」


黙ったままの老人に、探偵は言う。

探偵「さあ、長老。何か反論はありますか?」


長老「……」


そこで、村人の少女が叫ぶ。

村人A「待って!!たとえボビンがあったとしても!私は、長老様が犯人だなんて信じられない!!」


村人の青年も続く。

村人B「そうだ!!村人みんなが尊敬する、長老様が犯人なわけがねぇ!!」


長老「お前たち」


そこで、初めて老人が口を開いた。


長老「もうよい」


村人A「で、でも長老様!!」


長老「もうよい、と言っておるのだ!!!!」


老人の叫びに、全員が静まり返る。

そして、再び声を落ち着け、老人は語り出した。


長老「刑事さん…


そして、探偵さん…


事件の謎とか…


犯人は誰かとか…


証拠だとか…


そういうのは…


もうよい…


ので………


お帰りください」


探偵「……」


警視「……」


村人A「……」


村人B「……」


警部「……


いや、ダメダメダメ!!

逮捕です、逮捕!!」


長老「やだあ~」

老人は嫌がったが、あえなく逮捕された。


【終】


※元々この次のエピソードに入っていた「犯人はこの中にいる」はイチオシ作品なので第1話に移動しました。

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