ダイイングメッセージ

とある殺人事件の現場。


背中をナイフで刺された被害者は、

最後の力を振り絞りパソコンに文字を入力していた。


警部「パソコンに打ち込まれた謎の一文…

まるで暗号のような…

これには一体、どんな意味が?」


そこに残された文字、




『くぁwせdrftgyふじこlp』




警部「一体…」


そこで警察に協力し、難事件をいくつも解決している名探偵が口を開く。


探偵「これは…です」


警部「ダイイングメッセージ?」


警部は頷きながら、


警部「なるほど、聞いた事がある。

SNSなどで特定の相手に非公開にメッセージを送る…」


探偵「それは、です」


警部「郵便物に不審なものはないようだね。

保険会社とか健康食品メーカーからの…」


探偵「それは、です」


警部「しかし、事件現場となったこの部屋は…」


探偵「です」


警部がテレビをつける。

ちょうど野球の試合が映っており、


警部「おっ、ファインプレーだ」


探偵「です」


警部「アレ何だっけ?松明たいまつの火で山に大の字を描く…」


探偵「です」


警部「でっかい、アレが食べたいな~。

水で溶いた小麦粉と具材を鉄板で薄く広げて焼いた…」


探偵「です。

いいかげん、真面目にやりましょうか」

警部「はい」



探偵「ダイイングメッセージ…

被害者が死に際に残した、犯人を示すメッセージ。


しかし、一目で分かるようなメッセージでは、犯人に見つかった場合、消されてしまう。そのため、ちょっと難解な…

暗号めいたものにしてあるケースが多いのです。


そして、分りにくくしすぎて警察にも解けず、

僕のような名探偵の力を借りなければ解けなかったりするわけですね」


警部「な…なるほど。


では、この一見、意味不明な文字の羅列の中に、犯人を示すメッセージが隠されてるわけだ」


そう言って警部はもう一度、画面の文字を見る。



『くぁwせdrftgyふじこlp』



探偵「ええ。まず気になるのがここ」

探偵は『ふじこ』という箇所を指差した。


探偵「これは犯人が『ふじこ』という名の

おそらく女性である事を示しているのでは?」


警部「いや、苗字の可能性もないか?

ほら、藤子不二雄みたいな」


探偵「どうでしょう、かなり珍しい苗字ですからね。藤子不二雄もペンネームで本名じゃないんですよ」

警部「へぇ~」


探偵「とにかく、関係者に『ふじこ』という人物がいないか調べてください」


警視「水を差すようで悪いが…」

警部「警視!?」


そこに口をはさんできたのは、警察きっての知性派、エリート警視だった。


警視「それは『言葉にならない声』とか、

『意味不明な事を言っている』事を表現した、よくあるネットスラングの一種だよ」


探偵「は?」


警部「へ?」


警視「知らないかい?

結構有名なやつだよ。だから…あれじゃない?犯人のヒントとかじゃなく、被害者の断末魔の叫びをそれで表現したって事じゃ…」


警部「……」


探偵「……」


警部「いやいや!

そんなわけないでしょう!!」


探偵「やれやれ…

エリート警視が聞いて呆れますね!!」


警視の言葉を無視し、探偵と警部はメッセージの解読に戻った。


探偵「一応、他にもメッセージが隠れていないか検討しますか。例えばこの『くぁ…せ』の部分とか」


警部「うーむ、くぁせ、くあーせ…よく分からないな」


警視「ていうか君ら、

ひらがなにしか注目しないんだね」



【解 決 編】



その後、『不二子』という名の女が犯人と判明し、逮捕された。


『くぁwせdrftgyふじこlp』はローマ字入力でキーボードの『Q』と『A』を2本の指で押し、そのまま右にスライドさせる事によって入力できる。


Q W E R T Y U I O P

──────────→

A S D F G H J K L


被害者は犯人が『ふじこ』であると伝えるため、最後の力を振り絞って、このメッセージを残したのである。


【終】

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