漆黒の殺人者※
ここは、とある洋館の一室。
探偵と警察、そして殺人事件の容疑者たちが一堂に会していた。
数人の容疑者の中に、犯人はいた。
犯人の姿はまだ、全身が真っ黒に覆われている。例えるなら、名探偵コ〇ンや金〇一少年に出てくるような全身黒タイツ姿で、その正体は隠されている。
警部「では、探偵くん。犯人はやはりこの中にいると…?」
探偵「はい。その通りです」
容疑者たちの間に、緊張が走る。
犯人は探偵に視線を向けながら、独白する。
(この男…
名探偵だか何だか知らないが、私の完全な計画が見破られるわけがない…!)
男A「オイオイ、ふざけんなよ!
俺たちの中に、犯人がいるだと!?」
ロン毛の青年が叫ぶ。
女B「事件があった時、私たち全員にはアリバイがあったはずよ!!」
おさげの若い女も続く。
男C「そうですよぉ…我々に犯行は不可能です…!!」
と、白髪の中年男。
警部「確かに…彼らは全員、この本館の食堂に集まっていた。
一人、気分が悪いと言って、別館の寝室に籠っていた被害者を殺すのは不可能だ」
警視「やれやれ…一体、どう説明するつもりだい、名探偵くん?」
探偵「いえ…厳密にはあの時、停電が起き、互いの行動が確認できない『空白の5分間』がありました。犯人はその間に、犯行を行ったのです」
全身が黒く覆われた犯人は、ぎくりとした。
そして、独白する。
(こいつ…!
まさか、見抜いているというのか…?)
男C「まさか、そんなぁ!?」
男A「たった5分で、殺害現場までを行き来するなんざ、無理に決まってんだろーが!!」
警部「考えられるのは、先ほど探偵くんが言っていた、本館の2階のベランダから、中庭の木を伝って別館に渡る方法だが…」
警視「言うは易し、行うは難し…
そんな危険な方法を使って、まして5分の間に殺人を行い…戻って何事もなかったように振舞うというのは、無理があるんじゃないかい?」
探偵「確かに。時間的にも、体力的にも…
厳しい条件です。危険も伴う。
間に合わないかも…もし失敗したら…
ですが、犯人は決して諦めませんでした。
どうしても、この計画をやり遂げたい。
そのために、犯人は──
頑張ったんです」
警部「が……っ、
頑張った……!???」
警視「なるほどね」
警部「警視!?」
警視「確かに、どんなに厳しい条件でも、頑張ればクリアできるかもしれないね」
警部「いやいやいやいや…
そんな、頑張ったからできましたとか…
全然、論理的じゃない…」
探偵「もちろん、ただ単に頑張ったというわけじゃありません」
警部「えっ」
探偵「一生懸命、頑張ったんです」
警部「」
探偵「時間がないから、体力がないから、どうせ自分なんて──
そうやって、できない理由を並べ、諦めてしまう人間には、何も成し遂げる事はできません。
『何が何でもやるんだ』、そう強い気持ちを持って、一生懸命頑張れば。
人間できない事はないのです」
警視「確かに…
何事も、一生懸命頑張る事が、大切だね」
探偵「そうです。一生懸命頑張っている人を笑う人間もいますが、そういう人間には、凡庸な人生しか待っていません。
決して諦める事なく…一生懸命頑張れば!
不可能を可能にできるのです」
警部「でも殺人はやってはいけないよ!!」
そのやり取りを黙って見ていた、犯人は独白する。
(まさか…
私が一生懸命頑張って、この計画をやり遂げた事を分かってくれているとは…
だが!!
だからといって、私が犯人だと見破る事はできないはず…!!)
女B「だったら、聞かせてもらおうじゃないの!!」
男A「そうだ!!一体、誰が犯人だってんだ!?」
男C「わ、わたしは違いますよぉ!!」
探偵「犯人は──」
犯人(バレるはずがない!バレるはずが……!!)
探偵は、犯人を指をさした。
探偵「さっきからそこで、黙って突っ立っている、全身黒タイツを着たあなたです。
なぜなら、どう見ても怪しいからです」
犯人「……っ!!」
全員の視線がそこにいる、全身黒タイツを着た犯人に注がれる。
男A「やっぱな」
女B「でしょうね」
男C「そうだと思いました」
警部「逮捕だ!!」
警視「観念したまえ!!」
犯人は、なすすべなく取り押さえられた。
犯人「くそおおおおおおおおお!!!!!!」
犯人は黒いマスクを脱ぎ去り、その下から男Dの顔が露わになった。
男D「私は!!
彼女の事を愛していたんだ!!
これは、私から愛する彼女を奪った…
あの男への復讐だったんだよ!!!
教えてやるよ…
私の血塗られた過去を!!
そう!!あれは今から13年前──」
警部「そんな話は、署で聞く!!」
警視「さっさと来い!!」
犯人は手錠を掛けられ、首根っこを掴まれて、連れていかれた。
その様子を探偵は黙って見送り、事件は解決したのだった。
【終】
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