探偵SS【ミステリーギャグ短編集】
原田一耕一
犯人はこの中にいる
そこは、とある洋館の大広間。探偵が、事件関係者を一堂に集めた。そこにいる全員を見渡し、探偵は宣言する。
探偵「今回の、一連の殺人事件…
犯人はこの中にいます!」
男A「!」
女B「!」
男C「!」
女D「!」
男E「!」
男F「!」
男G「!」
女H「!」
女I「!」
男J「!」
男K「!」
警部「いや、多いな」
そんな警部の声を無視し、探偵は慣れた調子で、推理を語り始める。
探偵「それでは、まず第一の事件から
振り返りましょう」
男A「おい」
探偵「死体発見時、事件現場の部屋は入り口のドアも、そして窓も、すべて内側から鍵が掛かっており…」
男A「おい!」
男Aが、怒りのこもった声を上げる。
探偵「何でしょう?」
男A「まさか、そんな事で呼び出したのか?」
探偵「いや…そんな事って」
男A「犯人が分かったなら、犯人だけ呼べばいいだろ。何で、私たちも聞かなきゃならないんだ」
探偵「え。だって…
皆さんも事件の関係者ですし、気になってるかなーって…」
男A「私は、仕事が忙しいんだ!
犯人、分かってるんだろ!?だったら、私が犯人じゃない事も分かってるよな?
帰っていいか」
そう言って男Aは、探偵に詰め寄る。
探偵「いや…でも…こっちも、徐々に追い詰めていく段取りとかがあって…」
男A「私は、これから5億の商談があるんだ!
遅れてもし、破談になったら責任とれるのか!?」
探偵「えっ…いえ…」
男A「5億だぞ5億!!
もう、行かせてもらうからな!!」
探偵「あ、はい。
えっと、じゃあ真相の方は、後ほどメールでご連絡させていただきますので…」
男「ふん!」
バタン!と扉の音を響かせ、男Aは部屋を出ていった。
探偵「ふー…」
探偵は、ひとつ息をつき。
探偵「では、気を取り直して。
つまりは、事件現場は完全な密室だったわけで─」
女B「あのう…」
今度は、女Bがおずおずと声を掛けた。
探偵「…はい」
女B「私も、犯人じゃないですよね?
帰らせてもらっても、いいでしょうか」
探偵「いや…できれば、いてもらいたいかなーって…」
女Bは、目に涙を浮かべていた。
女B「実は、先ほど病院から連絡があって…
父が危篤だと…!!」
探偵「わかりました!早く行ってあげてください!」
駆け足で出ていく女Bの背中に向かって、探偵は謝った。
探偵「すいませんでした!」
その後も、次々と関係者が声を上げる。
男C「僕も、帰っていいですか?
今日は大事なデートで、彼女にプロポーズする予定なんです」
探偵「…行ってください」
女D「幼稚園に子供を迎えに行かなきゃ。早く行かないと、あの子寂しがるわ」
探偵「どうぞ」
次々と、帰っていく関係者たち。
男E「バイトのシフトが、どうしても外せなくて」
探偵「はい」
男F「………」
そんな中、男Fは一人黙っている。
男G「今日は、英会話教室がありましてな」
女H「犬の散歩に行かなきゃ」
男F「………」
汗を浮かべ、一人黙っている男F。
女I「友達と飲みなんで~」
男J「アニメ見るんで帰ります」
男F「………」
震えながら、黙っている男F。
男K「じゃあ、オレもパチンコ行かなきゃいけないんで、帰るねー」
とうとう、一人だけ取り残される男F。
その時─
探偵「ちょっと、待ってください」
探偵は、男Kを呼び止めた。
男K「ああ?」
探偵「あなたは、ダメです」
男K「何でぇ!?」
男Kは、イライラした声で聞き返す。
探偵「だって、あなた犯人ですもん」
男K「………」
探偵「何、しれっと帰ろうとしてるんですか。ダメですよ、犯人なのに」
警部「お前か!!!!」
刑事たちが一斉に、男Kを拘束する。
男K「くそおおおおおお!!!!!
オレは…オレは!!こんな所で終わる人間じゃねえんだ!!いつかネットビジネスとかで成功して!!億万長者に─」
警部「知るか!!
夢の続きは、鉄格子の中で見ろ!!」
手錠を掛けられた男Kは、首根っこを掴まれて連れていかれた。
バタン!と扉が閉まり、大広間に残ったのは探偵と男Fの2人だけだった。
探偵「ありがとうございました。
あなただけですよ。
最後まで、残ってくれたのは…」
そこで男Fは、初めて口を開いた。
男F「…だって僕…
仕事もしてないし…
家族からも、見放されてるし…
恋人や友達だって、誰もいないし…
やりたい事とか、好きな事とか何もなくて…
帰りたかったけど!!
何も、理由がなくて!!!!」
男Fは膝から崩れ落ち、そして涙をこぼした。
男F「だから…!!だから……!!!!」
そうして泣き崩れる男Fを、探偵は、黙って見ている事しかできなかった。
【終】
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