第10話 次のターゲットは…

機械と生物の融合と言うべき新たな改造兵士との激闘を制したカツミと光明寺。

光明寺はすぐさま公安と警察へ応援を要請し、現場の捜査等を行うのだった。


「それで、どうでした?」

「えぇ、タチアナの使ってたアパートの部屋を捜索したのですが…パソコンのデータはもちろん、家具に至るまでありとあらゆる物がされてましたね」

「どのみち生かすつもりは無かったという事か…」


光明寺とシャオロンは、この立川の寂れた商店街に何か残ってないかを調査したものの、既に何者かが証拠を消し去ってしまったらしく何も見つかる事はなかったようだ。

苦渋の表情を浮かべつつ、光明寺はシャオロンへ再び質問をする。


「それで、タチアナの方は…」

「とりあえず別の車両に縛り付けてますヨ。いやはや驚きましたヨ、まさかあの状態でまだ生きているとはね」


タチアナはカツミの一撃によって上半身と下半身を吹き飛ばされた。

しかし、驚く事にそんな状態になっても彼は生きており、万が一暴れ出さないよう上半身だけになった彼の体を硬質ワイヤーで公安が持ち出したバンの後部に載せてあるストレッチャーに縛り付け、尋問を受けているのだが…


「相変わらず黙秘を?」

「えぇ、困ったものです…それともう一点、驚く事がありまして」

「? 何です?」


シャオロンの意味ありげな言葉に光明寺は食い気味になる。

そしてシャオロンはその黒いコートの下から、タブレット端末を取り出してその画面を光明寺へ見せると、彼の表情は一変する事になる。


「こ、こいつは…!」

「えぇ、彼の体内のありとあらゆる機械と遺伝子を優秀な鑑識の調査で明らかになったのですが…彼の腕の武器や胸の機関砲、あれら全て液体金属によって形成されてる可能性があります」


光明寺はこの調査結果を見て驚愕するしかなかった。

彼がここまで驚くのにも理由があった。


「液体金属って…あれはまだまで言っていない技術のハズでは!?」


液体金属、それは常温付近で液体状になる金属。

様々な用途に用いられるそれは、この近未来において更にその用途を広げるべく改良が加えられる事となる。

だがその技術は、いつの間にか歪んだ形で用いられるようになる。

というのも、いくら強力な兵器を開発してもその体に内蔵したり、携行させたりするのには限界がある。

そこで各国は液体金属に着目し、電気信号によって様々な武器を瞬時に形成すればいくらでも持ち運びや装備させる事が出来ると考えたのだが、その当時は形成できる武器に限界があった事、武器よりも対ウイルス感染に特化した改造プランが優先された事等の要因によって、一時その研は止まってしまったのだが…


「まさか、ビッグコンツェルンがその技術を独自で…?」

「としか考えられないでしょう…どう見ても彼、その技術のテストに使われたとしか思えませんから…」


光明寺は歯を食いしばってじっとタブレット端末を見つめ、ただ静かに怒る事しか出来なかった。

するとそこへ、


「よう、何かわかったのか?」


カツミが簡単な治療を終え、光明寺とシャオロンの元へとやって来た。

何も知らないカツミに、シャオロン達は改めて今回分かった事を事細かに話し始めた…


───────────────────────


「…チッ! 胸糞悪い!! あいつはあいつで捨て駒にされただけかよ!」


カツミは彼が新たな改造技術の試験体にされた事を知り、ビッグコンツェルンへの怒りを更に募らせた。

恐らくこの先彼らの犠牲者がどんどん出てくるだろうと考えると、カツミはやるせない気持ちになる。

もちろん、それはシャオロンも光明寺も同じだ。

なんとも言えない雰囲気になる中、そこへ別の隊員が血相を変えてやって来た。


「光明寺隊長! タチアナが意識を取り戻しました!」


それを聞いた三人は、すぐさまタチアナがいるバンへと向かおうとするのだが…


「ば、バンから出火しているぞ!!」


タチアナが乗るバンから火が出たと、その付近にいた者達は大騒ぎしていた。

何やらただならぬ雰囲気に、三人は急いでバンへと向かうと、そこには炎に包まれたバンがあった。


「なんじゃあこりゃあ!」

「おい! 何があったんだ!」

「そ、それが…バンの後部がまるで爆発するように発火して…」


カツミはこの発火現象に心当たりがあった為、すぐさま炎の中へと一直線に向かった。


「お、おいカツミ! 一体何を…!」


カツミは光明寺の言葉に耳を貸さず、黙って炎の中へと手を突っ込んでバンの後部の扉を開けた。

そこには、炎に包まれながらも満面の笑みを浮かべるタチアナがいた。


「タチアナ…!! まだやるつもりか!!」

「へ、へへ…ちげぇよ…俺ぁ今…されてんだよ」

「何…?」

「俺は負けた…だから…俺みたいな負け犬は死んで詫びなきゃならねぇ、一人でも道連れにしてよ…」


そこまで聞いてカツミはただただ冷や汗をかくしかなかったものの、今バンには人もおらず、彼一人が乗っている状態で誰かを巻き込む意思は感じられなかったのである。


「お前…」

「へへ、せめて奴らに逆らいたかったから、敢えて一人で死んでやったのさ…別に罪滅ぼしじゃねぇ…」


どんどん火の勢いが強まり、いよいよタチアナが燃え尽きようとしていたその時。

彼は最後に力を振り絞った。


「大山…大山信彦だ、あいつはコンツェルンに液体金属の技術を横流ししてる、ヤツを見つけろ…コンツェルンに始末される前に…」


最後の最後に反旗を翻し、彼はコンツェルンに繋がりのある者の名前を呟いて燃え尽きた。

カツミは燃え盛るバンから離れ、只々それを見つめているのだった。






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