第9話 人機一体

ならず者達を蹴散らし続けるカツミの目の前に、ついにタチアナが現れた。

しかしタチアナは前任のシブダスが逮捕されてしまった責任を負わされてしまい、彼が稼ぐはずだった収益を自らの体を持って取り返す為、カツミと対峙するのだった…


(何だ!? 俺の変身とはワケが違う!!)


タチアナはカツミ同様、遺伝子改造を受け怪物へと変身を遂げたのだがその見た目は明らかに自分と異なっていた。

それもそのハズ、変身後のタチアナは虫のような丸みを帯びた殻に覆われつつ、機械が左右非対称になるように胸に生え、腕と脚も鈍い銀色が所々覗く、異様な姿をしているのである。


「ククク、驚いたかい…お前のような生体変身とは訳が違う…俺は今、人機一体となったのだ!!」


彼は理由の分からない事を叫ぶと、すぐに戦闘態勢を取る。

カツミは混乱しつつも、自身も敵がどんな攻撃をしてくるか備えた。


「さぁ行くぞッ!死ねッ!!時代遅れッ!!」


タチアナは絶叫しながら機械が覗くその両腕を前に突き出す。

すると腕から夥しい黒い液体を流しながら、中からチェーンソーが飛び出してくるではないか。

更に機械が埋め込まれた胸も変形し、中々機関砲が迫り出した。


「な、何ッ!?」


カツミは驚く間もなく、すぐ目の前にチェーンソーが迫る。

彼はこれを腕の甲殻で受け止め、何とか防御する。

凄まじい火花と共に耳をつんざくような嫌な音が鳴り響く。

しかしチェーンソーを受け止められたのを、タチアナは喜んだ。


「バカが!!」


すぐさま彼は胸の機関砲をカツミに撃ち、その弾丸を胸へとモロに受けてしまった。


「がッ…!」


至近距離からかなりの威力のある一撃を喰らい、カツミは大きく後ろへ吹っ飛ぶ。

胸は白煙を上げ、僅かだが出血もしているものの今回も自身の頑強さに助けられた。

しかしそこへ間髪入れず、タチアナは機関砲を撃ち続ける。


「クソがよッ!!」


流石のカツミもこれ以上喰らうとどうなるか分からないので必死に転がって避け続ける。

だが黙って避け続ける訳には行かないと、彼もまた

反撃のチャンスを伺う。

そしてその時は来る、突然機関砲の銃撃が止まったのだ。


「なっ、何だ!? どうしたんだ!?」


突然の事にタチアナは焦るが、これは弾切れだからではない。

彼は考え無しに撃ち続けた結果、機関砲がオーバーヒートして動作が止まってしまったのだ。

これをチャンスと見たカツミはすぐさま腕の手首側を切り、血を吹き出させてタチアナ目掛けて振り撒き、地面や本人にその血を付着させる。


「今度は何だよ!? てめぇ俺に何をぶっかけやがった!!」


怒るタチアナに対して、カツミは意地悪く答える。


「俺の爆発するほど熱いモノさ…!」


そしてカツミは素早い動きで地面に拳を叩き付ける。

するとそのカツミが叩きつけた拳を起点に爆発が連鎖し、地面を爆炎が駆け抜けた。


「う、うおおおッ!?」


その爆炎はついにタチアナの体についたカツミの血液にも誘爆し、彼もまた爆炎に包まれた。

しかし…


「おのれえええ!! こんなチンケな爆発で死んでたまるかァァァッ!!」


何と彼はまともに爆発を喰らったというのにダメージを負っても怯むこと無くカツミへと迫って来たのである。

炎に包まれ鬼のような表情でこちらへ向かって来るタチアナに、カツミは驚く間もなくその首を掴まれた。

幸いだったのは先程の爆発でチェーンソーを破壊出来ていたので、首を掻っ切られる心配はないがそれでも凄まじい力で首を絞められ、カツミは苦しんだ。


「が、がっ…がは……」

「死ねぇえええッ…お前が死ねば俺は殺されねぇんだ…俺の代わりに地獄へ行きやがれぇ…!!」


変身した状態のカツミは頑丈な体を持つが、それでも限界や構造上比較的柔らかい部位がある。

それは首、並大抵の刃物や銃撃は防げても、タチアナのような得体のしれないチェーンソーや光明寺のアームブレイドのような斬る事に特化した武器ではどうなるか分からないし、いくら頑丈と言っても長時間同じ部分を強い力で圧迫されたりすれば本人ですらどうなるか分からない。


(だ、駄目だ…こいつのパワー、まるで重機!! 腕の中の機械がすげぇ力を出してるって事なのか…!? こ、このままじゃ…死ぬ!!)


このまま絞め殺される訳には行かないと必死に腕や腹等に力を振り絞って蹴りを入れるカツミだが、どんな攻撃もタチアナには通じず、ますます力が強まって行くだけ。

血を活性化させようとしても先程自分で血を噴出させてしまった為に血の生成に時間が掛かるという有り様で絶体絶命のピンチに陥ってしまった。


(め、め…みえ──────)


ついに意識が朦朧とし、抵抗する力も無くなって行った…その時!


「離せッ! このフランケンッ!!」


何と高所から誰かが叫びながら飛び降り、タチアナの背中に飛び蹴りを炸裂させたのだ。

いくら凄まじい耐久力を持っていたとしても意識外からの攻撃は流石に対応できず、タチアナはバランスを崩してその手からカツミを離してしまった。


「うっ…げボッ…」


ようやく解放され、カツミは地面に力なく倒れた。

そして、体勢が崩れたのを良いことに光明寺はすぐにカツミの側へと跳んで駆け付ける。  


「オイ! しっかりしろ!」


あと少しで手遅れだったカツミだが、何とか息を吹き返そうと必死に呼吸をし始める。

しかし、どうやら上手く出来ないようで見かねた光明寺は背中に周り、その膝で思いっきり胸のあたりを蹴った。


「ブハーッ!! い、生きかえったぜ…」

「全く、俺が駆け付けなければ死んでいたと言いたいが…確かにあいつはヤバそうな雰囲気プンプンしてやがるぜ」


光明寺はタチアナを見て、とんでもない相手が出て来たと改めて実感する。

焼け爛れた皮膚からは機械が更にはっきりと見えるようになり、ますますその異質さを見せ付けてきた。


「気をつけろ光明寺、アイツ遺伝子とサイボーグのいいとこ取りっぽいぜ!」

「見りゃ分かる!!」


そんなやり取りをしていると、体勢を立て直したタチアナが光明寺とカツミに対して先程のお返しと言わんばかりに胸の機関砲を発射して来た。

これを光明寺とカツミは横へ飛び、何とか回避する。


「てめぇらッ!! 俺をコケにしやがってぇええ!!」


タチアナは腕を高く上げると、折れたチェーンソーをパージし腕を変形させて別の武器を展開した。

高い回転音を響かせて現れたそれは、ドリルだった。


「二人まとめて風穴開けてやる!! もう許さねぇ!!」


凄まじい回転音を響かせながら両腕にドリルを構えてタチアナはカツミ達へと迫る中、カツミはある事を光明寺に耳打ちしていた。


(なぁ、ちょいと策を思い付いたんだが…ちょっと聞いてみてくれねぇか?)

(何…?)


光明寺はこんな時に何を考えているのかと思い、怪訝な顔でカツミの策に耳を傾ける。

そして、すぐに彼の表情は明るく変わった。


「よーし、じゃあやってみようぜッ!」

「ふん、上手く行かなかったら恨むぜ…」 


そう言って二人は迫りくるドリルを躱し、カツミの言う策を実行に移した。

まずカツミは再び血を活性化させ、手足を赤熱化させた。


「来いッ! この木偶の坊が!!」


そう言って彼はタチアナに叫び、ドリルへと拳を叩き込む。

赤熱化した拳と高速回転するドリルが互いにぶつかり合い、激しく火花が散った。

しかし、彼のドリルはカツミの熱によって徐々に溶解を始めていた。


「ち、調子に乗ってんじゃねーッ!!」


先程と同じように、タチアナは機関砲をカツミに撃とうとするが先程とは状況が違う。

機関砲を起動したその瞬間、彼の懐には光明寺が滑り込んでいたのだ。


「なッ…」

「隙だらけだ…!!」


彼はそう言いながらアームブレイドの出力を最大にし、刃の切れ味を高めて一気に機関砲と彼の両腕を斬り上げるように腕を上へと振る。

そして、タチアナの腕と機関砲は宙を舞った。


「な、なぁぁぁぁッ!?」


機械の腕と機関砲から夥しい量のオイルがまるで血のように噴き出し、タチアナは大きな隙を晒した。


「今だッ!」


そして、カツミの拳は切断された機関砲周辺の胸の傷にダメ押しの手刀を突き刺した。

その手は熱によってより威力を高め、その切り口にすんなりと入って行く。


「ごああああッ!?」

「こいつでトドメだぜ…!!」


そうカツミは呟くと、胸の中でカツミの手は更に熱を増して爆裂した。

その際、タチアナの上半身は炎を吹き出しながら爆

発しその上半身と下半身は大きく二つに分かれた。


「ば、バケモンが…」


上半身だけになったタチアナは吹き飛びながらも、その視線はカツミと光明寺に向けられていた。

こうして、タチアナとの戦いはようやく決着がつくのだった。













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