第8話 羊共よ震えろ!二人の狼!

シブダスの上司がいるという情報を元に立川の七星商店街へとやって来たカツミ&光明寺コンビ。

しかしそこで二人を待ち受けていたのは大量のならず者達だった…!


「へへへ…」

「コイツらか? 歩く札束は…」


ならず者達はカツミと光明寺に対し、銃やナイフを見せつけるようににじり寄りつつ、まじまじと観察する。

何とも下品な笑い声や笑みを浮かべて来るものの、カツミ達は表情一つ変えない。


「…なるほど数だけは多いみたいだな」


光明寺はこの集団を相手にして、は多いと評した。

カツミもまた、多数に囲まれてるにも関わらず余裕を見せる。


「あぁ確かに、コイツら相手なら余裕だぜ。 おいてめぇら! 時間ねぇんだ、とっとと来い!!」


ここで時間を食ってしまっては偽シブダスに逃げられるかもしれない。もしもそいつがタチアナなら、ますます逃せない。

カツミはビビるならず者に挑発し、早い所片付けようと考えた。

このカツミの自分達は眼中に無いと言う態度に、彼らはキレた!


「な、舐めんじゃねぇ!! オメェら何十人には囲まれてんだぜ!! 」

「ぶ、ぶっ殺せぇッ!!」


目先の金を得る為、ならず者達は一斉に動き出した。

まず何人かは持ち込んで来た機関銃やショットガンなどの多種多様な銃をカツミ達に向けるが、二人はすぐさまジャンプする。

一方は強化された肉体の力で、もう一方は戦闘服による強化により、信じられないほど高く跳び上がった。


「うおっ! なんだコイツら、すげぇジャンプだッ」

「馬鹿野郎撃て!! 撃ち落とせ!!」


彼らは慌てて銃を構え、高く上空からならず者達へと向かって落ちてくるカツミ達を撃ち落とそうとするが既に遅かった。

カツミは落ちながら体から蒸気を出し始めたのだ。


「なんだァ煙幕か!?」

「ち、違う! あれは…」


ならず者達は、カツミの体から噴き上がる煙に驚き、銃を撃つのを止めてしまう。

それがいけなかった、撃つのを止めた途端上空から飛来する黒い何かが着地して来てしまったのだ。

それも、着地の瞬間に大きな爆発を起こして。


「わぁぁぁぁッ!?」


爆風に巻き込まれ、何人かは大きく吹き飛ばされ、何人かは無人の店へと突っ込み動かなくなった。

そして、爆煙の中から黒くイカつい棘を頭から生やした怪物がその全貌を見せると、何人かの変身している殺し屋達は驚いた。


「こ、こいつも改造人間かよ!」

「な、なんか俺らの改造より金掛かってそうだけど…」


強化兵士手術、それは人間を遺伝子レベルで改造し更に力を解放出来るよう化け物になるように変身できる能力を持たせたもの。

しかしこの技術は程なくして違法と判断され、封印されたと思われていた…

だが封印される前にヤケを起こした科学者が技術を流出、ありとあらゆる犯罪者がその技術を使って金儲けをしているのが現状だ。

彼らもまた金を積んで改造人間となったのだが、カツミに比べるとかなり軽い改造をされたのか、爬虫類のような見た目の中に元の人間の部分が多く残っている。


「へっ、あいつが何者か知らねぇけど、束になって掛かりゃ…」


そんな改造レベルの低い殺し屋の一人が動こうとしたその時。

彼の肩を誰かが掴んだ。


「あ? なんだっ…」


彼は仲間が掴んだものだと思い、振り返るとそこには光明寺が睨みながら背後に立っていた。

その腕には既にアームブレイドが展開されている。


「貴様らの相手は俺だッ!」


そう言いながら彼は肩に置いた手に思いっきり力を込め、無理やりこちらに向かせるとそのアームブレイドで斜め一閃。

改造殺し屋は声を上げる暇もなく切り捨てられた。


「やっ、やられた!?」

「クソッ!! どうなってんだよ!!」


と彼らは文句を言いながら光明寺に攻撃を仕掛ける。

一人はその鋭い爪を使った攻撃、もう一人は脚力を活かした蹴り技をコンビネーションで光明寺に仕掛ける。

流石殺し屋だけあって鋭い攻撃なのだが、光明寺はこれらを全て簡単に捌いた。


「…殺しの為に自らの体に改造をしたというのに、この程度とはな!」


光明寺は呆れた口調になりつつ、化け物二人の腕と足を掴む。

そして彼はそのままその二人同士をぶつけるように思いっ切り振り回した。


「グギャッ!」

「がぁぁっ!?」


物凄い勢いでぶつけられ二人はそのままダウン。

光明寺はまだ残ってないか周りを見渡すが、どうやら三人しかいなかったようだ。


「フン、大した事もなかったな…よし、このままもう一人のシブダスの捜索を続けるとしよう」


と、脇目も振らず光明寺はその場を後にする。

一方カツミはと言うと、ならず達をなぎ払いながら偽シブダスの捜索を行っていた。

その暴れっぷりに、数では優位に立っていた男達は逃げ惑うしか無かった。


「な、何てヤツだ!!」

「来るんじゃなかったよぉ!!」


何人かはカツミに対して発砲してはいるが、彼の体は自身の爆発に耐えれるように体組織が特殊で非常に頑丈なのだ。

その為銃弾を真正面から浴びても強引に突破する事が出来る。

この事もあり、余計にカツミが恐ろしく見えていたのである。


「オラ、俺を殺せば金になるんだろ! もっとかかってこいや!!」


と煽るように叫んだ時だった。


「なるほど、そんなに死にたいか…もの好きめ…」


ならず者達とは違う声が聞こえてきた事にカツミはすぐに反応する。

声のした方向を向くと、そこにいたのは見覚えのある猿の仮面を被った青年だった。


「お前は…!!」

「どうした? 何で逮捕されたはずの動画投稿者が動画を投稿出来たのか気になるか? それとも俺の正体が気になるか?」


と言いながら、猿の面を付けた男はゆっくりとその仮面に手を掛け、その素顔を晒す。

その仮面の下にあった顔は端正だった。

何処となく異国の血が混じっているような顔付きに、冷たい青色の瞳。

この男を見た途端、カツミは光明寺から聞いていた前情報を思い出す。


(…こいつ! ハーフッ! つーコトはコイツがタチアナか!)


そう、この偽シブダスの正体はタチアナだったのだ。

もう一人のシブダスはこの男にそそのかされ、人と人が殺し合うように誘導する動画を作らせ、その利益を啜っていたのである。

しかしそのもう一人のシブダスが捕まり、さらに自分とその上にいる者達の事をゲロってしまった為に自分が出る羽目になってしまったのだ。

何故タチアナ本人が出る羽目になったのか、その理由は一つだった。


「フフフ…本当なら俺は出る事は無かったんだよ。だがあの馬鹿がやってくれやがったせいで責任を取れってよ、俺の命で…損失分を取ってこいってよ!」


そう言うとタチアナの身体は赤く発光し、蒸気が勢いよく噴き上がる。

カツミも変身する際に熱気が体内で発生する。

そしてその熱気を蒸気として放出する際、その水上機に含まれる多量の鉄分と強化された生体電流によってその鉄分を鎧とする、かなり複雑で常識外れなプロセスを経ている。

しかしタチアナの変身は水蒸気というより、まるで体そのものが燃え上がっているような異様な物だった。


「な、何だこの熱量は…!?」


その熱量はついに周辺の店や物に火をつける程にまで高まり、まるでそこに太陽が降って来たかのような凄まじさにカツミとならず者達は息を飲んだ。

そしてついにその熱量は臨界点を超え、カツミ達に向けて雄叫びと共に一気に放出された。


「うおおおおおおおおッ!!」


轟炎がカツミ達に襲い掛かり、大きくふっ飛ばされる。

カツミ自体、強固な体のおかげで吹き飛ばされてもすぐに受け身を取って体制を整えたものの、彼は自分の腕を見て驚いた。


(…! 腕の殻が溶けてやがるッ)


となると、周りにいたならず者達はもっと悲惨な事になっているに違いない。

案の定、他の者達は炎に包まれて阿鼻叫喚と化していた。


「ひぃいいいッ!! 」

「熱いィィィィッ!!」


彼らの中にはサイボーグもいたのだが、それすら関係なく燃えていてその炎の威力を改めて確認し、カツミは怖気を感じていた。

しばらくならず者達を見ていると、タチアナの声が聞こえて来る。


「す、すげぇ…これ俺がやったのかよ」


気の抜けた声であったが次の瞬間、炎の中から想像を絶する怪物が姿を現すのだった。

恐らく三メートルもある巨大な体に、どこに埋め込んでいたのかも分からない機械の部品が顔を覗かせた恐るべき姿が、カツミの眼の前に現れた。


「なっ、なんだ…コイツ!?」


明らかに普通でないその怪物を前に、カツミは恐怖を隠せなかったのだった。
























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