第6話 巨悪の影
(まさか、また警察なんかに戻ってくる事になるとはな)
カツミはシブダスのアパートを訪ね、そこでコートの男こと光明寺と戦った。
その途中、突然入った通信に遮られる形で決着が付き、その後彼は光明寺に連行される形でシブダスと共に警察へと赴いていた。
二年ぶりに元職場へと帰ってきたというのに、特に懐かしいとか感慨深いと言った感想は思い浮かばなかった。
「よしそれじゃ五十鈴、お前はこっちだ。シブダス! お前はこっちの取調室だ、中でゆっくりおしゃべりして来い!」
光明寺はシブダスを取調室へと叩き込むと、今度はカツミの腕を取る。
「お前は別室だ、シャオロン隊長が直々に調書を取る」
カツミはシャオロンという名前と、公安特殊部隊の名前を聞いてからという物ずっと何かを考えているような神妙な顔のまま口を開かなかった。
光明寺もどこかそんな彼に不気味さを感じつつも何も言わず、ただシャオロンの待つ部屋へとカツミを引っ張って行く。
「…よし、着いたぞ!」
「…」
しばらく歩き、二人はシャオロンの待つ部屋へと到着する。
扉越しに何か圧を感じ、カツミは息を飲む。
それと同時に、光明寺もどことなく緊張しているようだ。
「し、失礼します!」
「おー、どうゾ〜」
扉の向こうから気の抜けた声を聞いた光明寺は、ゆっくりと扉を開く。
中で待っていたのは黒いスーツに身を包んだ、切れ目のポニーテールの男だった。
「はじめまして、
「えっ? 知り合いなんですか?」
光明寺は何がなんやら分からない顔をしながら、カツミを見つめる。
どうやら光明寺は特殊部隊に所属したのもつい最近なようであまり事情を知らないようだった。
そしてそんな光明寺を見たシャオロンは不敵に笑い、カツミの過去を暴き出す。
「この男は五十鈴カツミ…かつて警視庁対テロ部隊に所属していた男です」
「対テロ部隊って…確か悪徳政治家が警備員として私的に使ってたって言うあの?」
「えぇ、もっともこの男は部隊に異を唱え、早々に辞めてますけどね…どうですか? 久しぶりの警察は?」
シャオロンの問いに、カツミは真顔で答える。
「昔と変わらずつまんねー所だ、アンタは相変わらずギラギラしたまんまだけどな」
悪徳政治家に鼻で使われていたという事実はカツミにとって忘れ難い屈辱の日々だった。
そして何より、カツミ達と公安はお互いに内部で争っていたのだ。
しかしカツミは正義の味方同士で潰し合う事に耐えれなくなって今に至るのだった。
「フフフ、それにしてもウォルスさんから連絡が来た時は驚きでしたよ…私達と同じ物を追っている男がいると聞いた時は組織の者かと思いましたが、まさか元警察とは」
シャオロンは何処か楽しそうに言うと、カツミは呆れ顔になる。
もし自分が組織に雇われた人間だったらどうするつもりなのだと、ふと思ったがここである疑問が浮かぶ。
「しかし何で俺が元対テロだと分かった? もしかしたら怒りに任せてシブダスをこの手で殺してたかもしれんのだぞ」
「フフ、その辺ですが…実は連絡が来た際しあの投稿者のPCをハックして何者かを確認したのです。 そしたら貴方だったので光明寺くんに任せた訳です、まぁハックしたPCは貴方が破壊したんですけどネ」
まさか光明寺と戦っていた時から既に見られていたとは、カツミも思わなかっただろう。
どうやら全てを見た上で、自分が本当に遺産に興味が無いのかどうかその辺を見極める為にわざと戦わせたのかと、カツミは何となく考える。
しかし、どうやらそれだけでは無い。
「それに…ウォルスさんは貴方が本気でこの遺産をどうにかしたいと言う気持ちがあるように見えたとも言ってましたからね」
「あ…」
ウォルスからは信頼してないと面と向かって言われたが、どうやら本当は信じてくれていたようだ。
カツミは何となく嬉しくなる中、いよいよ本題に入る。
「さて色々と種明かししましたし、そろそろ本題に入りましょうか…貴方が追おうとしている者達の正体について」
「何ッ! もう分かってるのか!?」
「えぇ、既にね…シブダスこと、
やはりあの動画は誘導する目的で作られたものだった。
しかし、カツミはこの先の話を聞いてこれまでに無いほど震撼する事になる。
「何故彼がなぜ人を誘導するような動画投稿をしたか、その理由は一つ…殺し合いを見る為です」
カツミは最初、何を言っているのか理解出来なかった。
それが遺産となんの関係があると言うのか?
意味が分からずしばらく固まっていると、彼の頭の中で最悪な答えが思い浮かぶのだった。
「まさか…遺産の情報で釣った奴らを殺し合わせて、知らない内に賭け事やネタにしてたって事か!?」
「そう…貴方の戦いも、貴方のお知り合いの方の拷問も、そして貴方が遺産の事を知る前からショーは始まっていたのですよ」
衝撃の事実にカツミは震え上がる。
つまりこうだ、動画サイトやSNS、果てはニュースサイトすらを使って殺し屋や先の無い人間を釣り、彼等の命を金儲けのネタにしている連中が裏にいる。
そんな新事実を突き付けられ、彼は唖然とした。
「い、一体何者なんだ! そいつらは!」
カツミは震えた声でシャオロンに問うと、彼は重々しくその口を開いた。
「その名は秘密結社ビッグコンツェルン、彼等は遺産の後継者でもあるのです」
秘密結社ビッグコンツェルン、その正体は不明だが悪徳政治家、大倉が生前貯め込んだ資金を元に活動する異常者の集まり。
カツミは更に事細かく彼らの活動について詳細を聞くと、武器密売、麻薬取引、人身売買、果ては紛争の後押しやテロ行為の支援等何でもありの激ヤバ集団だった。
そんな彼らは現在、理由は不明だが偽の情報を流し訳アリの奴らを騙して訳アリ同士で殺し合わせる動画で収益を得ているのだ。
「つ、つまり奴らは大倉が貯めに貯めた金を既に手中に収めてて、その金で殺し合いの動画を撮ってたのか!? 一体どうやって!」
何度もあの廃工場を調べたが何も無かったというのに、一体どうやって撮影したというのだろうか。
その答えは簡単だった。
「マイクロドローンだ。あの時も小型のドローンがお前とあのサイボーグ、そして三又という男の拷問もショーにしやがった」
光明寺は苦虫を噛み潰したような顔で言いながら、ノートパソコンを開く。
するとそこには、見た事のない動画サイトにびっしりと投稿された殺し屋やその他の戦いの数々があった。
そしてその中から自分と三又の動画を見つけるとカツミもまた、拳を握り締める。
「クソッ! なんてこった…!!」
あまりにも強大な敵の出現にカツミはたじろいだ。
しかしそんなカツミに対してシャオロンは、
「…しかし貴方はそれを止めるべく行動を起こした。違いますか?」
何を言ってるんだとカツミは一瞬言いそうになったが、シャオロンの真剣な目を見ると言葉が出ない。
元々彼の目的は三又の仇討ちと彼が残した一人娘を助けてあげたいという一心から遺産を追い始めた。
遺産がないと分かった上で、彼の中には別の目的が芽生え始めていた。
「…あぁ、俺は…俺はこのふざけた奴らをぶっ潰したい! これ以上犠牲者は増やしたくない…!」
ビッグコンツェルンを倒したいという新たな目的が出来たのだった。
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