第5話 決戦 二人の化物

事件の鍵を握る謎の投稿者、シブダスの住居を突き止めたカツミ。

しかしそこへ先に辿り着いていたコートの男と鉢合わせ、激しい戦闘を繰り広げていた。

防戦一方だったカツミは咄嗟の一本背負いによって何とか事態を打開したのだった。


「しゃあっ! 昔取った杵柄って奴だぜ!」


昔の経験、つまり警察にいた頃の経験が上手い事噛み合った事にカツミは喜びの声を上げる。

一方でカツミの強烈な投げを受けたコートの男はコンクリートの上で悶え苦しんでいた。


「ちくしょお…なんて奴だ!」


男は膝を付き左手を見る。

その手には警棒は無く、投げ飛ばれて叩き付けられた際に何処かへと飛んでしまったようだ。


「…流石は強化兵士…すごいパワーと言った所か」


男は感心しつつ、もっと気を引き締めて戦う必要があると改めて確信しながらスッと立ち上がると、それと同時にカツミも男の側へと近付いていた。


「よう、まだやるかい」


カツミは相手に戦意があると分かっていながら敢えて戦う意思があるかどうかを聞き出す。

これは挑発をしている訳ではなく、カツミ自身彼がなにか事情がある事を察知してこれ以上戦ってもしょうがないと感じていたからだったのだが…


「あぁ、あるに決まっているだろう? 貴様らのような犯罪者にこれ以上好きにはさせんぞ」


相手は完全に血が昇ってしまっているようだ。


「…なぁ、何か勘違いしてるけど俺はただあいつからどうしてあんな情報を持ってるか知りたいだけで…」

「言っただろう! 問答は無用!!」


と男が叫んだその時、カツミの視界は何かに覆われた。


「なっ! 何だ!!」


男はコートを投げ、カツミの視界を奪ったのである。

カツミはすぐさまこれを破り捨てようとするが、男の方が速かった。


「 貰ったぞッ!」


そう言うと男は腕を前に伸ばして交差すると、なんと前腕の側面が割れ、中から分厚い刃が展開された。

そして彼はコートを被せられ一瞬動きを封じられたカツミに容赦なく、その隠していた刃を振るった。


「ちぇりゃあァァァッ!!」


気合いの入った叫びと共に斬り裂かれるコート。

しかし、斬り裂いたのはコートだけで既にカツミの姿は無い。


「っと! なるほど、サイボーグかと思ったら…義手と強化スーツか!」


カツミはコートによる目隠しを何とか潜り抜け、すぐ近くにあった塀へと着地していた。

そして着地してすぐ、カツミは男をまじまじと見る。

コートを着ていたので見えなかったが青色を基調とし、胸に十字の銀のラインが入った服と物々しい義手が特徴的で、どうやら腕だけを改造したサイボーグのようだ。


「やっぱり只者じゃ無かったようだなッ!」


カツミは相手の凄みを改めて感じながら塀を蹴って跳び、空中から強襲を掛ける。

それを見た男もまた地面を蹴ってカツミへ向かって跳び、激しくぶつかり合う。


「うおおッ!」

「むんッ!」


空中でお互いの攻撃を凌ぎつつ着地すると、カツミはすぐさま自身の血を活性化させる。

これで決めるつもりだが、相手もどうやら同じらしい。

振り向くと男が展開した刃から電流が激しく流れ、強烈に発光している。


「さぁ来い…! これで終わりにしてやる!」

「…上等ッ!」


カツミの右腕は熱気を出しながら赤く光り、男の腕は稲妻が走りながらその両腕を青白く発光させる。

お互いが睨み合い、中々動かず睨み合いが続く。

果たしてどちらが先に動くのか? と互いに思考していた時だった。


「…奥の手使うぜ!」


先に動いたのはカツミだった。

彼は頭上で手を交差させると、発光する左腕の動脈を右手の甲殻で切った後、その出血した左腕を横に振って血を男に向かって撒き散らした。

そして、血で塗れた地面を左腕殴り付けた次の瞬間、叩き付けた地面を起点に撒き散らした血が誘爆。

ある程度離れてるにも関わらず目の前に爆炎が迫ったのだ。


「な、何だとォォォッ!?」


男は何故突然爆発したのか理解出来なかったが、それも仕方ないだろう。

カツミの活性化した血液と甲殻が衝撃を受けると爆発を起こす。

しかしながらその血が体外へと出ると数分の内に急激に冷めるのだが、冷める前に爆発に巻き込む事で広範囲を爆破する事が可能になる。

これも彼が強化兵士かつある程度の経験から為せる技だった。


「だが…やられん!!」


男は爆炎を振り払い、カツミへ向かって走って距離を詰めようとしたその時。

既に目の前にカツミが姿勢を低くして今にもパンチの姿勢を取っていた。


「こいつで終わりだぜッ!!」

「ぬうううううッ!! 」


カツミは発光した左腕を男の顔目掛けて振り、男は相打ち覚悟で出力を限界まで高めた右腕を振るう。

互いに無事では済まないであろう大技同士のぶつかり合うその瞬間。


『光明寺隊員! 応答せヨ!!』


突然聞こえて来たくぐもった声に、お互いの攻撃が止まる。

突然起こったなんとも言えない沈黙に、カツミが先に口を開いた。


「…出た方がいいんじゃねぇか?」

「あ、あぁ…」


先程まで戦ってたというのに男はカツミの言葉を素直に聞き、腰にあった無線機に手を伸ばして応答する。


「…こちら光明寺雅彦隊員、ただ今正体不明の勢力と戦闘中で…」

『ふむ、情報通りですネ』

「え…?」


まるで最初から戦う事が分かっていたかのような言葉に男は呆気に取られると、続けるように無線相手から言葉が続く。


『フフ、どうやらいいタイミングで貴方に会えたようですね。元対テロ特殊部隊隊員、五十鈴カツミさん?』

「な、なんで俺の名前を…お前ら…一体なんなんだ?」

『申し遅れました、我々は公安特殊部隊…そちらは光明寺雅彦隊員。そして私は楊小龍(ヤン・シャオロン)、彼の隊長です』


公安特殊部隊、その言葉を聞いたカツミは全身の毛が逆立つような感覚を覚えるのだった…















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