第4話 お宅訪問

情報屋としての顔を持つ男、ウォルスと出会ったカツミ。

面と向かって信頼されてないと言われつつも怪しげな情報をバラ撒く謎の投稿者、シブダスの情報を得る事に成功する。

そして彼は情報を元に千葉を離れ魔都、東京へとやって来ていた…


「なんか、前よりヤバい事になってんな…ここ」


魔都、東京。

パンデミックの混乱、そして私腹を肥やす為に悪事に手を染める政治家達、更には裏社会の人間達の手によってこの東京はまさに魔都と化した。

そんなカオスの都市の、ある場所にカツミは足を踏み入れた。


「さて…足立区の何処でシコシコやってんだい? シブダスくんよ」


すっかり荒れ果て、スラム街のような風貌になった町。

この町のどこかに彼が潜んでいる。

しかしウォルスは既に彼の住所すら何処にあるのかを調べてカツミに教えていた。

どうやって調べたのか具体的には教えて貰えなかったが何でも、


『ちょっと彼のしたのさ』


と涼しい顔して言い放って来たのだった。

その顔を思い出す度にカツミは冷や汗をかく。


(全くとんでもない奴だ、絶対敵に回したくねぇ)


ウォルスの底知れなさを感じつつ、彼は手に入れた情報を元に目的地へと到着する。

その目的地とは、何とも言えない古臭さを残すボロアパートだった。

不気味さすら感じるその建物の中へとカツミは入って行こうとした、その時。


「ま、待ってくれよ!! 俺は知らねーんだよ!!」


アパートから何か言い争う声がする。

そしてその聞き覚えのある甲高い声に、カツミは叫んだ。


「シブダスッ!!」


彼はその声を頼りに、アパートのどこに彼がいるのかを目星を付け、思いっきりジャンプする。

そして彼は、壁を突き破る為に足を伸ばし気合を入れる。


「ぶち抜くッ!!」


すると彼の足から水蒸気が吹き出し、瞬く間に甲殻に包まれた足へと変身を遂げる。

そのまま彼の足は壁へ突き刺さり、勢いよく壁を破壊する。

カツミはそのままゴロゴロと転がり、恐らくシブダスの部屋と思われる場所をめちゃくちゃにしながら着地をするとそこには、中年太りした男と紺色のコートを着た怪しい男が驚いた表情で固まっていた。


「な、なんなんだよ…お、俺の部屋…」


中年太りの男はがたがたと震えたままカツミを見ているが、果たして彼はシブダスなのだろうか?

カツミは用心深く部屋を見回す。

すると…


「あっ! 猿の仮面!! それに、カメラ機材…!! 間違いない!!」


どうやらこの中年男がシブダスで間違いないと確信を持った時だった。


「貴様、何者だ!」


紺色のコートの男が収縮式の警棒を構え、カツミに怒鳴りつけるように割り込んで来た。

どこからどう見ても堅気ではないその男に、カツミは警戒心を強める。


「ハン、見るからに怪しいヤツにテメーの身分を明かすヤツがいるかよ」


とカツミは不敵に笑うのだが、それが良くなかった。


「何ぃ? 答える気がないとなると…貴様組織の手先か!」


斜め上の言葉に、カツミは堪らず呆れた声を出し、慌てて否定を始める。


「は? いやいや! 別に俺はそういう怪しい組織には…」

「問答は無用!! 行くぞッ!!」


必死に否定した物の、コートの男は聞く耳も持たず警棒をカツミに対して振るった。

凄まじくキレのある警棒の一撃をカツミはその腕で受け止める。

鋭く、重い痛みが腕を走り、カツミはこの男が只者では無いことを悟った。


「ぐっ! こいつ…!!」


カツミはこの男が只者では無いと察知し、すぐさま感情を昂らせる。

すぐさま体からものすごい熱気と水蒸気を発生させ、部屋を煙で満たした。


「うわっ! 俺の機材が!!」

「こ、こいつ! 体から煙幕を!?」


突然煙を発する人間に驚く二人の男。

しかし、コートの男はすぐに冷静さを取り戻してカツミがこの煙の中からどうやって攻撃してくるのかを身構えた。


「くっ、卑怯な…」


と呟いたその時。

背後からぬっと甲殻のような腕が煙の中から

音もなく突然現れる。

音もなく現れた腕はそのまま、コートの肩へ伸びるのだが…


「…甘いッ!!」


すぐさまコートの男は振り向いて鋭い一撃を伸びてくる腕ヘと叩き込んだ。


「チッ! 我ながらいい作戦だと思ったのによ!」


コートの男が大きく動いた事で、煙は一気に晴れていく。

その為カツミの変身した姿も顕となり、それを見た男はグッと息を飲む。


「なるほど…強化兵士か! 二年前対テロ部隊の科学班が技術を流出させたと聞くが、貴様もか!」

「そんな事、俺が知るか!!」


とカツミは叫びながら、勢いよく回し蹴りを繰り出す。

素早い回し蹴りだったのだが、男の反応速度がそれを凌駕した。


「ぬぅ!!」


カツミの蹴りはしゃがんで回避され、代わりにシブダスが大切にしているであろう漫画やフィギュア、そして家電等を無惨にも破壊するだけに留まった。


「あ、あぁぁぁ!! 俺のパソコン!!」

「チィッ!!」


中年男の叫びも届かず、カツミは回し蹴りから更に素早く回転し、かかと落としの体勢を取る。

そのまま勢いよくコートの男の頭目掛けて足を振り下ろすが、それすら警棒を横にされて防がれてしまった。


「コイツ、なんて警棒捌きッ!?」

「ぬんッ!!」


力いっぱい警棒で押され、体勢を崩してしまうカツミ。

そこへ間髪入れず警棒のなぎ払いがカツミの胴へと振るわれるが、この攻撃こそがカツミの反撃の糸口となる。

彼はこちらに振るわれる警棒を避けずにそのまま胴体に受け、その片腕を捕まえたのである。


「何ッ!?」


まさに肉を切らせて骨を断つ戦い方、コートの男もこれには驚きの声を上げずにはいられない。

警棒は彼の頑丈な体すら無視して軽くめり込むがこれくらいで音を上げるカツミではない。


「へ、へへ…捕まえた、ぜッ!!」


カツミは掴んだ腕を両腕で強く握りしめ、逃げられないようにする。

必死にもがくコートの男、しかしその努力は虚しく次の瞬間には彼は宙返りをしていた。


「どっせぇえええいッ!!」


カツミは気合いの入った叫び声を上げ、自身が飛び込む際に破壊した壁の穴へと男を全力でぶん投げた。


「うおおおおおおッ!?」


まさか全力でぶん投げられるとは思わなかったのか、男は驚愕の声を上げながらものすごい勢いでアパートの一室から投げ出された。

そして、カツミも男を追う為に部屋から飛び出そうとしたその時。


「じゃ、また後でな」


と一言、中年男ことシブダスに告げて壁の穴から飛び去って行った。


「な、何なんだよぉ…あいつら…」


中年男は全身の力が抜けてしまい、ヘナヘナとその場に倒れるのだった。











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