第3話 情報屋

職を手放してから早三日、カツミは遺産の 情報を求めて佐倉の街へと赴いて…はおらず、居酒屋で一人隅っこで険しい顔をしていた。


「くそっ、三又さんの代わりにお宝探しとは言ったものの手がかりも無く飛び出したのは無謀だった…」


とにかく仇討ちと、彼の娘の為に何とかしたいという焦りから飛び出してしまった事に彼は後悔していた。


(三又さんの娘さんは養護施設に行った。まだ中学生なのに突然親を失って何も分からない場所で生きていくなんてキツいなんてものじゃない…それなのに俺はなんだ、何も考えなしに飛び出して…)


一人、居酒屋の隅で険しい顔をし、自分を責め続けるカツミ。

これからどうするかを考えようと思っていたその時、ある事が頭をよぎる。


(いや待てよ! 俺にはまだヒントがあった!)


唯一の手がかり、それはかつて三又が見せてくれた動画だった。

カツミは慌ただしい手付きで動画を再生すると、何とも陽気な曲と共に妙な猿のマスクを被った男が開幕から気の抜けた挨拶を披露する。


「どうも!シブダスでーす!!」


このシブダスと言う男をカツミは全く知らなかったが、彼のチャンネルを見て行くとそのほとんどが都市伝説やこじつけに近い芸能人の噂など、所謂ゴシップネタを扱うタイプの投稿者だと分かる。

そして、チャンネルの投稿者も多くかなり影響力のある人物であると言う事もすぐに分かった。


(確かに、こんなに注目されてる人間がこの日本にすごい物が隠されてると拡散したら飛び付くか…)


そして動画を見ていく内に気になる事をこの男は話し始めた。


「なんでも宝のヒントは千葉県佐倉市っていう地方都市の端にある廃工場にあるらしいんだけど、僕は外に出るの怖いから行けないんだよね〜、もし興味があるならリスナー諸君で探して見てくれ!」


三又はこれを見てあそこへ行ったのだと強く確信が、同時に強い違和感を覚えた。

実はあの後、もう一度探したがそれらしいものは全く無かったのだ。


(何だこの動画…? まるでそこに誘導しているような、露骨な何かを感じる…)


彼の感じた違和感、それはまるでそこに誰かを誘導し、引き合わせようとしているように感じていた。

動画には廃工場というワードは出てないがそれでもあそこを見つけた人間がいたのは事実だ。


「…こいつ、間違いなく何かある」


とりあえず、カツミはこの男の特定を目的として動く事となった。

そして、彼は早速佐倉から近い成田へと向かう事に決めた。

何故成田なのか? その理由はそこに、ありとあらゆるものを取り扱うの存在があった


────────────────────


それから翌日、早速彼は成田へと進出した。

場所は成田山、昔ながらの表参道で賑わう町。しかし、その客層はとても奇妙だ。

黒いスーツの集団、サイボーグ、果ては浮浪者。

そして店も変わっている、成田山はうなぎ屋が多く並ぶがその中に義体修理屋、怪しげなタバコを吸える店、18禁な雰囲気のする店…

昔からこの店を知る人間達は皆こう言う、昔と大きく変わったと。

そんなカオスな町に、その情報屋はいる。


「ここか…例の質屋は」


その情報屋は質屋に擬態し、様々な裏商売に手を出す有名な店なのだ。

そんな店に、カツミは足を踏み入れた。


「いらっしゃ〜い…お客さん、見ない顔だね」


出迎えたのは眼鏡の男で、恐らくアメリカ人だろう。

何処と無く浮世離れした雰囲気のする人物で、カツミは少し身構えた。


「あ、あの…実はある情報を調べたくてここへ来たのですが…」

「ふふーん、当ててあげようか? 悪徳政治家の遺産について…だろ?」


やはり情報屋をやっているだけあってかなりの人間に聞かれたのだろう。

眼鏡の男は何処と無く辟易とした表情をして吐き捨て、更に続けて語る。


「これも何度も言ったけど、俺は信頼出来そうな奴としか取引しない。どいつもこいつも怪しげな殺し屋とかヤクザ、どうやって知ったか知らないけど冷やかしで来るアホばっかで疲れちまったんだよね」


と言いながらコーヒーを啜る男。

しかしカツミが求めているのはそんな情報では無い。


「俺は遺産なんかどうでもいい、俺はもっと別の情報が欲しいんだ。例えばそのくだらん遺産の話を言いふらしてる奴の事とかな」

「…ほう?」

「単刀直入に聞くぜ、この男の事を調べて欲しい」


そう言いながら彼はスマホの画面を眼鏡の男に見せる。

画面に映っていたのは、シブダスだった。


「なるほど…そういう方向から切り込むのね…面白い、君名前は?」

「五十鈴克巳、そういうアンタは…?」

「ウォルスだ、ここの所妙な奴らが出回ってて気が滅入ってた所さ」


するとウォルスは左手を差し出し、握手を求めて来た。

信頼されたのだろうか? カツミは恐る恐る右手を出して握手に応じる。

非常にソフトな感じで握手を終えると、ウォルスが一言。


「一応、俺はまだ君を信頼してないからそのつもりでね」


と、ウォルスは冷たく言い放ったのだった。

















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る