第2話 嵐ふたたび

カツミはすぐさま、早退する事と同時に警察に連絡するように同僚達に伝えすぐさま工場を飛び出した。

行先は佐倉の北にあるという廃工場、彼はどんどん強くなる嫌な予感を胸に、ただひたすらにバイクを走らせる。


(しかしなぜ三又さんのような人が遺産を…? とにかく、早く行かなくては…!)


彼はとにかくバイクで爆速し、あっという間に廃工場へと到着する。

実はこの廃工場、田舎でしかも離れにある場所にある為、が良く集まるのだ。

カツミは二年前からこの場所の事を知ってはいたが、まさか今来る事になるとは思ってもいなかっただろう。


(三又さん、無事でいてくれ…!)


彼は心の中で強く願いつつ、廃工場の扉の前に立つ。

扉には板が打ち付けられ、人は入れぬようになっているが…


「フンッ!」


カツミは板ごとたたき割り、中へ易々と侵入する。だだっ広い空間が広がる廃工場の中を彼は見回す中で嫌な匂いが微かにする事に彼は気が付いた。


(…血の匂い!)


彼は匂いを辿り、上を向くとそこには三又が縄で縛られ、血まみれのまま吊るされていて、それを見たカツミは絶叫した。


「み、三又さんッ!!」


何故彼が血祭りに上げられているのか、その答えはすぐ側にいた。


「おやおや、こいつの仲間か? わざわざこの俺、ガルヅ様に殺されに来たか」


吊るされている三股の横に立つ謎の男…

奇妙なのはこの男は天井に足をつけ、逆さまに立っているという事だ。

その男の身なりも、ガスマスクのような顔に黄色に塗装されたアーマーのような物を着込んでいるという奇妙さが極まったその見た目の人間の正体に心当たりがあった。


「サイボーグか…!」

「おぉ? カタギの割にはよく分かってんじゃん、何だ? この男を助けに来たのか? だとしたら、マヌケがもう一人増える事になるなぁ?」


ガルヅの顔はガスマスクのような物で隠されているが、もし彼に人間の表情があるなら恐らくニタニタと下卑た笑みを浮かべているに違いない。

それにしても何故、三又はこのような男に捕まってしまったのか?

怒りが心の中で燃える中、カツミはこの男に何があったのか、聞き出してみる事にした。


「何故、三又さんはこんな所に…お前のような人間に会いに来た?」


カツミは怒りを抑えつつ、静かに質問をするとガルヅはわざと嫌らしく答え始めた。


「あぁ簡単な話さ。この国に眠るお宝を俺の物にしようとしてちょいとネットで情報集めてたらここにヒントがあるってもんで来てみたら、このオッサンがいたのよ」


ガルヅの嫌らしい語りは止まらない!


「んで、このオッサンとちょっとしたら自分もネットで知っただけで何も知らんとか言うからムカついちまってよォ…」

「だから、殺したのか!!」

「おうよ、しかし傑作だったなァ…このオッサン死ぬ間際に娘の為に金がいるんだとか言ってたけど、知らねぇってんだよ!! ギャハハハ!!」


ここまで聞いたカツミは、怒りを抑えるという事を辞めていた。

詳しい事情を知らないとは言え、こんな男に殺された恩人を思うとどんどん怒りが湧いてくる。


「…ククク、久しぶりにお前のようなゲス野郎を見て、しばらく忘れてた気持ちが湧き上がり出したぜ…」

「何ぃ?」


その時、ガルヅは異様な光景を目撃する。

カツミの体から異様に煙が吹き上がっているのだ。

煙というよりまるで水蒸気が立ち込める異様な光景に彼は呆気にとられ、黙って見てしまった。


「な、何だか分かんねーけど、今の内にヤらなきゃヤベェ!」


彼はそう言いながら、腕を振り上げる。

すると腕が金属音を響かせながら変形し、二極のプラグのようなものがせり出した。

そしてプラグの間に稲妻が迸ると、ガルヅは叫んだ。


「このプラズマガンで吹き飛びやがれ!!」


そして、二極のプラグから猛烈な勢いの電撃が飛び、凄まじい破裂音が鳴り響いた。

その威力たるや、コンクリートの地面をエグるほどの凄まじさだったが…


「なっ、い、いねぇ!?」


水蒸気の中には既にカツミの姿は無かった。

嫌な予感がする中、下の方から声がする。


「よう…俺ならここだぜ」


ガルヅはすぐさま声のした方向へ顔を向けると、そこに居たのは、まるでハリネズミのように硬質化した髪の毛と、鋭い牙が生え、その手足は甲殻類のような装甲に覆われ、まるで特撮に出てくるような爬虫類の化け物がそこにはいた。


「テメェ…強化兵士バイオソルジャーか!? 」


強化兵士バイオソルジャー、それはあらゆるウイルスを無効化する強靭な肉体、尚且つサイボーグよりも優れた戦闘能力を発揮する事を目的とした禁忌の兵士。

サイボーグも本来兵士のウイルス感染を恐れた各国がそれらの対策として肺等の臓器を機械に置き換えた事が始まりだった。

しかしサイボーグ技術が発達するにつれ、コストや兵士への多大な負担が掛かる事が問題となった。

そして日本の科学者達は遺伝子レベルでの肉体の改造に目を付け、あらゆるウイルスや病魔を克服、更に改造せずとも最初から高い戦闘能力を持つ事が出来る兵士の製造に着手した。

そして科学者達はもう一つ特殊能力を付与した、それは感情の昂りで更に強い姿へと変身する能力だった。


「く、クソッ! まさかバケモンが相手なんてよ!!」


ガルヅはすぐさまプラズマガンを構えると、今度は先程の凄まじい一撃とは違い、電撃を連射してカツミを追い詰めようとするが、変身したカツミの前のスピードは電撃を遥かに凌駕していた。

彼はジグザグにステップをして的確に稲妻を避け続け、ガルヅの真下へと到達すると、


「いつまでも天井に張り付くんじゃねぇ!!」


とカツミは叫ぶと、地面を蹴って天井にいるガルヅ目掛けて思いっきり跳び、そのままその腹部に拳をめり込ませた。


「ぐえええッ!?」

「おめェも足があるなら地に足つけて戦いなッ!」


そして両手を組み、体勢を崩したガルヅの背中に思いっきり叩き込んだ。


「ぎゃぁぁぁぁッ!」


腹と背中に大ダメージを負わされたガルヅはそのまま地面に大の字になって叩き付けられた。


「このカス野郎が、さっさと立ちなッ! 三又さんの痛みはこんなもんじゃないぜッ!」

「…チィッ!」


ガルヅに立つように促すカツミに対し、ガルヅは瞬時に体勢を整えて仰向けになり、そのまま蹴りをカツミの顔目掛けて放った。

しかし、カツミはその攻撃をいとも簡単に手刀で払い除ける。


「甘いッ!」


不意の一撃を簡単にいなされ、ガルヅはすぐさまバックステップで距離を取る。

そして距離を取った直後、


「グフ、グフフフ…」


突然ガルヅは気味悪く笑い始める。すると、彼の体から稲妻が少しづつバチバチと走り始めている事にカツミは気が付いた。


「何ッ…」

「グフフ、俺の心臓は大型の発電機に置き換えてあるんだよ…つまり俺は全身からもすげぇ電撃が出せるんだよ」


そう言った瞬間、彼の体の稲妻は次第に強くなって行き、遂には青白く光り始めて行く。

尋常でない様子でもカツミは怯まない。

彼は技を出させまいと瞬時に地面を蹴る。


「そうはさせるかよォ!!」


凄いスピードでガルヅとの距離を縮めるものの、既に相手は充電を終わらせたのかその体は青白く発光し、ついにその溜めに溜めた電気が放たれた。


「喰らえッ! 超放電ボディスパーク!!」


彼が叫んだ瞬間、凄まじい閃光によって工場の中は真っ白になった。

もちろん光だけでは無い。電撃の威力も凄まじく、稲妻が工場をズタズタに破壊し尽くした。


「よっと…へへへ、流石に俺の発電機をフルに使った電撃を喰らえばひとたまりもねぇだろ…」


凄まじい放電を終え、彼は工場を見回す。

壁は電撃で焼け、地面も所々が抉れる等、凄まじい一撃だった事が伺える。

恐らくカツミも無事では済まないだろうと思っていたのだが、彼は見回している中あるものを見つけてしまった。

それは自身の電撃で開いたと思えない、謎の穴が大きく地面に開いていたのだ。


「ま、まさか…これ、あの化け物が…? し、しかし! 俺の放電よりも早く地中に逃げる事なんて…!」


と思っていたその時だった。

突然背後から地面を叩き割って何かが飛び出して来たのだ。

しかし、ガルヅはその飛び出して来た物が何かすぐに分かった。

彼は勢いよく振り向くとそこに居たのは…


「よう! 確かにすげぇ電撃だったな!」

「な、て、てめぇ!? 」


振り向いた先にいたのは、カツミだった。

何と彼は放電された瞬間、すぐさま地面に拳を叩きつけ、地中へと退避してガルヅの背後へと回ったのだ。

だがいくら改造を受け凄まじい力を持っているとは言え、そんな簡単に穴を開けて地中を掘り進む事が出来るのか?

と言っても、その答えはすぐわかる事になるのだが。


「まずコイツはお返しだぜッ!!」


彼は先程の攻撃のお返しとして拳を固く握り締め、目にも止まらぬパンチをガルヅに放った。


「ひっ、ヒィィッ!!」


ガルヅは怯えた声を上げながらパンチを防ぐ為に両腕を合わせて防御の構えを取る。

すると彼の腕は変形し、如何にも硬そうなプレートのような物が飛び出す。

しかしカツミはその鉄板を見ても拳を振るうのを辞める所か、ますますその勢いを強めながら叫んだ。


「ぶち抜けッ!!」


そして拳が鉄板に当たった時だった。

凄まじい金属音と、赤い光を放ちながら爆炎が上がったのだ。

ガルヅは何が起こったのか理解できなかった。


「あ…? あ、ああああ!?」


何とも間の抜けた声を出す彼だったが、次第に彼の声は恐怖を帯びた声になって行く。

理由は単純、彼の肘から先が無くなってしまったのだから。


「な、なんで俺の腕が…!? 」

「フフ、これが俺の能力の一つ。爆発する拳! あえて言うなら爆裂拳ボンバーナックルってとこかな」


カツミの能力、それは自身の血液を活性化させ、高温になった血を拳や手足に集中させる。

さらに言えば彼の手足は甲殻に包まれていて、その甲殻が強い衝撃を受ける事により、高温となった血液と反応する事で爆発を起こすのだ。

なお、自身はその頑強な体組織のお陰で爆風のダメージは無い!


「ひ、ひぃいいいッ!! わ、悪かった!! 俺が悪かったよ!!」


自身の腕が破壊された彼は必死に懇願する。

これなら自分がどういう目に合うか既に分かっているからだ。

しかし、カツミの態度は冷たい。


「きっと三又さんもアンタにそんな風に助けを求めただろうよ」


カツミは冷徹に吐き捨て、強く拳を握り締める。

ギリギリと音を立て、拳からは熱気が湧き始めるのを見たガルヅの命乞いは止まらない。


「そ、そうだ!! 俺と組もうぜ!! んでその遺産を山分けしようぜ!! な! な!!」

「地獄に落ちるお前には必要ねぇ!!」


命乞いの努力も虚しく、容赦なくカツミの拳がガルヅの顔面へと振るわれる。

ガルヅは叫ぶ事も、その拳を防ぐ事も出来ぬままモロにその拳を受けた。


「ぴぎ────」


拳が炸裂する瞬間、僅かに聞こえた彼の断末魔は爆発音と共に掻き消され、その醜いガスマス付いた顔と僅かに残った人間の部位は綺麗に辺りに飛び散った。

電気男は怒らせてはいけない相手を怒らせ、破滅したのであった。


────────────────────

それからカツミは痛ましい事件があった事を伏せ、三又の家にも行ったが姿は無かったと職場の同僚達に伝えた。

それからしばらくして、三又は正式に行方不明者となった頃…


「ホントに辞めちゃうのかい?」

「はい、私には絶対にやらなければならない事が出来てしまったのです」


カツミは三又の出来事を受けてからある決断をし、それを全うすべく彼は退職届を出した。

折角ありつけた仕事を投げ出してまでやらなければならぬ事、それは…


(三又さん、これが恩返しになるかは分かりません…だけど俺は決めました。ガルヅのようなクソッタレに遺産を取られるくらいなら…俺がアンタの代わりにお宝を手に入れる! )


こうして、彼はこれから始まる地獄のバトルロワイヤルに足を踏み入れたのだった…











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