第19話:生徒会室での会議

 昼休みの食後に俺達は生徒会室に集まっている。貞虎、今永麻衣、唐高幸江、俺を合わせた四人。そこに生徒会長の先輩を加えて、作戦会議なのだ。


 最初に改めて先輩にお礼を言われて、知恵を貸してくれと言われた。


 そして、現在抱えた問題を先輩がホワイトボードに書き出していった。黒板に対して、ホワイトボードだと何となく大人の世界のような気がするのは俺がまだ高校生だからだろうか。


 普段教室にはない物が生徒会室にはある。ちょっとわくわくしていた。先輩から紅茶を入れてもらったのも俺の中の「非日常」でそのわくわくを助長させていた。


「一番難しいのは、商店街を盛り上げてお客さんを増やすことだ」


 先輩が、几帳面で読みやすい字でホワイトボードに文字を書いていく。字がきれいだと頭が良さそうに見えるのは俺だけだろうか。


 まあ、先輩の場合いつも学年1位なので実際 頭はいいんだと思うけど。


 ただ、そんな凄い事が俺達高校生5人だけでできる訳がない。そんなことができたら全国の商店街はシャッター街になったりはしない。


「次が、生徒と商店会とのつながりの強化だ」


 先輩は昨日と違って、奮起しているようだった。一晩経って持ち直したというか、やる気を出したのだろう。


「わが校の生徒と商店会のつながりが強化されれば援助も受けやすくなるだろう。これくらいか……」


 先輩はそう言うけど、一時的なつながりじゃなくてずっとつながって行くとしたら難しい。人は言われて動いても、言われなくなったら動かなくなる生き物だ。……少なくとも俺みたいな人間は。仮にうまくいったとしても、俺達は卒業して高校を去ってしまう。


 この教室内にいる陽キャのみなさんはもしかしたら、一度決めたら継続して行けるのだろうか。俺はリア充にはなりたいけど、そんな優れた人間にはなれなさそうだ。


「生徒たちに地域猫のことを知らせないと生徒達が動く原動力にならないだろ」(ぼそっ)


「それだ!」


 俺がぼそっと言ったことに貞虎が敏感に反応して、「3つ目」として「生徒たちに地域猫の保護活動のことを知らせる」と言うのを追加した。


 益々難しくなったので、会議こそはするもののそれらを解決することはできないだろう、と思った。


「じゃあ、1つ目。商店街を盛り上げる方法だが……」


 先輩が俺達に意見を募ったが、俺はあの商店街をあまり利用することがなかった。その理由は、欲しいものがあった時 商店街の店に置いているか分からないからだ。


 そもそもあの商店街の店にはホームページが無い。商店街のホームページも無ければ、店舗のページもない。だから、調べることができないので、モールの方に買い物に行く。


「商店街の店にもホームページがあればなぁ……」(ぽつり)


 テレビを見ている時に茶々を入れるのと同じ、俺は完全に傍観者気分で無意識に好きなことをつぶやいていた。


「確かに、私も商店街の事を検索したことがあるけど情報がほとんどないのよねぇ」


 俺がつい漏らしてしまった事に今永麻衣が同調した。流石 陽キャだ。


「ちょっと待て。ホームページだったらうちの学校のPC部が得意だぞ。確か、活動報告に上げていた」


 先輩が生徒会に提出される各部活の活動記録を取り出していた。


 うちの学校にPC部なんてあったのか。最近じゃ、ワードプレスでサイトを作ることなんて当たり前だしな。色々なユーザーに合わせてテンプレートも多い。ドメインを取って、サーバーを借りて、独自サイトを立ち上げてやれば商店街の店もとりあえず喜ぶかもな。


「ちょっと待て! そんなことが可能なのか野坂くん⁉ 今ちょっとメモするからもう一度言ってくれないか」


 しまった。つい口に出していたらしい。先輩に根掘り葉掘り聞かれてしまった。


 俺もサイトくらいは作れるけど、商店街の店は多い。そんな量の情報をアップしようと思ったら人手が必要だ。聞けばPC部は30人くらいの部員がいるらしい。多くはないけど、それくらいいれば時間をかければ何とかなるかもしれない。


「でも、サイトを作っただけじゃアクセスされないんじゃ……」


 今永麻衣が言った。彼女は「裏垢女子まいまい」の運営者でもある。登録者数が1万人を超えていたはず。当然SNSの使い方が上手い。サイトを作っただけじゃなくてそこにSNSで集客するからこそサイトはアクセスが増えるのだ。今日日きょうび黙っていて検索エンジン上位に行くのは難しい。


「今永さんがSNSについて教えたらいいんじゃないか」


「確かに、あの『猫森さん』って人くらいだったらSNSを使いこなせるかも!」


 だから、なぜ今永麻衣は俺の心の声みたいなつぶやきも確実に捉えていくのか⁉ 絶対俺の心を読んでるだろ。いや、俺がぶつぶつ言っているのか⁉


「SNSと言うと、ツイッターとかみたいなやつか?」


「そうですね。インスタとかも。最近だとYouTubeとかTikTokとかも集客効果がありますねフォロワーを1万人にすることくらいはできますよ」


「今永くん、詳しそうだな! ぜひ、詳しく教えてくれ!」


 先輩が今永麻衣からSNSについて聞いてメモをしていく。やっぱり、裏垢サイトとはいえ一つの事を極めた人は色々に応用が利くらしい。


「でも、そんなにお店の情報をPC部が集めて来れるだろうか。彼らはパソコンやソフトについては詳しいが人とのコミュニケーションには少々難があってだな……」


 オタクはやんわり言うとそんな感じなのか。なんだかシンパシーを感じるので分かる気がする。


「取材なら新聞部みたいなのがあればいいのに」


(ビクッ)俺が言った言葉に唐高幸江が過剰に反応した。


「「「ん⁉」」」


 全員が唐高幸江に注目した。


 すると、おそるおそる彼女が右手を上げた。


「そうか! 唐高くん! きみは新聞部だったな! 商店街に取材をしに行ってもらえるか⁉」


 そうか、唐高幸江は新聞部だったのか。


 多分、彼女そのままでは無理だろう。何しろ初めて会う人と会話がままならないレベルの人見知りなのだから。でも、新聞部は他にもいるはず。先輩が新聞部の活動報告を引っ張り出していた。


「そこにボランティア部に協力を仰げば……」


 先輩は何かを思いついた様だった。


「ボランティア部なんてあったのか」


「そうだな。確かに漠然と『ボランティア部』と言われても俺も具体的にどんなことをしているのか分からないな」


 今度は貞虎が俺に同調した。陽キャのコミュ力怖い。


「そうなのか? ボランティア部は10人ほどでボランティア全般をやっているぞ? 私も生徒会と兼任している」


「じゃあ、新聞部とかと合わせてさながら『地域猫保存会』ですね」


 みんなが動けば、だけど。


「……ちょっと待て。それはいいアイデアじゃないのか⁉」


 先輩が部屋の中をうろうろしながら考え事を始めた。


「まず、今後学校に『地域猫保存会』を立ち上げる。PC部、新聞部、写真部、ボランティア部、そして私の生徒会がこれらに強制加入とする!」


 あ、また先輩の独善的なところが顔を出したのではないだろうか。


「商店街を新聞部が各店舗からヒアリングをして、写真部が写真を撮ってくる。その情報を元にPC部が各店舗と商店街自体のホームページを作る」


 みんなフンフンと頷いた。


「これらのホームページはアクセスされないとうまく効果を発揮できないから、今永麻衣くんが中心になってSNSの活用方法をレクチャーする」


「フォロワー1万人にしてみせるわ!」


 今永麻衣があの猫森さんのきわどい写真を撮って来ないか心配になった。


「誠、あんた今 失礼な事を考えているでしょう!」


 今永麻衣が俺の顔を覗き込みながら言った。しまった。彼女には俺の考えが読めるスキルがあるんだった。


 反対側に座った唐高幸江が俺の袖を引っ張る。


「少なくともこれでうちの生徒と商店街のつながりができるね。紹介する側になったら急に興味を持つ事もあるからね」


 確かにそんな効果もあるかもしれない。脱線しかかった話を戻す貞虎のコミュニケーションスキルもすごい。


「じゃあ、私はここまでを資料にまとめておくよ。今日はありがとう。野坂くん、きみの人望とアイデア、行動力には助けられたよ」


「ん?」


 先輩の言葉に目が点になった。俺? 俺は特に活躍していない。


 今永麻衣がSNSの活用に長けていて、唐高幸江が新聞部で、貞虎がみんなをまとめるトーク力と陽キャ力で話がまとまっただけた。


「俺は何も……」


 みんなを見ると俺の方を見ていた。


「元々、私が生徒会室に呼んだのはきみだけだ。きみの人望でなけれは、彼らはここにいないだろう。だから、ありがとう」


 え? え? ええ? そんな陽キャのリア充みいな事を俺がやっていただと!?


 そんな、まさか。


 みんなの目は肯定していた。そんな事、俺でも分かる。


 変な汗が止まらない。


 明らかに動揺して挙動が不審になっている俺。


「やったな」


 貞虎が俺の肩をポンとたたいた。


 ヤツは俺がリア充になれるよう努力しているのを知っている。


 俺はふいとそっぽを向いてごまかした。


 少しリア充の仲間入りをした様な気になっていた俺の心を砕くような事件が起きたのは翌日の休み時間だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る