第6話:金髪碧眼ツインテールメイドの秘密
たまたま立ち寄ったメイド喫茶「萌え萌えキュート」のトップメイドと名乗った金髪碧眼メイド「さっちん」を指名して「チェキ&トーク」を注文した。
何となく気になったから10分間話ができるならそれも良いと思ったのだ。
すると「さっちん」が血相を変えて俺の席に一直線に駆けてきた。
「野坂くん! いえ、ご主人様! ちょっと裏まで来ていただけますでしょうか!」
丁寧なメイド口調とは裏腹に「さっちん」が俺の胸倉を掴んで言った。
最近のメイド喫茶ではこんなサービスもあるのか。
俺は腕を掴まれてメイド喫茶のバックヤードの方に連れて行かれた。てっきり「トーク&チェキ」は席で行われるものだと思っていたのに。
俺のイメージでは、10分間きゃっきゃうふふの甘々トークで、金髪碧眼メイド「さっちん」が人差し指で俺の鎖骨辺りを軽くつついて「ご主人様ったら~~~」みたいなのを想像していた。とどめに腕に抱き付くみたいにしてのツーショット。
でも、実際は全然違った。ここまでは割とステレオタイプのメイド喫茶だと思っていたのに、メイドから胸倉掴まれて店裏に連れて行かれるって……。裏ではどんなサービスが⁉
いや、裏に行かないと受けられない様なサービスが展開されるのか⁉
◇
メイド喫茶のバックヤードは……なんて言うか、見てはいけない場所だった。お客さんを呼ぶ為の場所ではなく、本当に控室。
アイスクリームのコーンが入った段ボール箱が置かれているし、ジュースの原液のタンクも置かれている。メイド達が着替えを入れているであろうロッカーが並び、薄暗くて古い事務机も置かれていてスタッフオンリーの場所なのだろう。
実際、連れ込まれた時にドアに書かれていたプレートにも「スタッフオンリー」ってあったし。
俺はスーパーで万引きをした子供の様にお店の裏側に連れてこられた訳だ。何かしたっけ⁈
「何!? 何が目的なの⁉ 私をどうするつもり⁉」
「さっちん」が俺の胸倉を細い両腕で掴み、半泣きで訴えてきた。
「いや、俺には何のことだかさっぱり……」
苦笑いが出てしまう俺。
「しらばっくれないで! こんなに大胆に乗り込んでくるなんて!」
「さっちん」の勢いは止まらない。
8畳ほどの控室で俺と「さっちん」の二人だけ。俺は何を責め立てられているのだろうか。
「じゃあ、俺はそろそろオムライスが冷めるから……」
俺が少し屈み気味にこの場を逃げようとしていると……
「お金⁉ お金はそんなにないけどっ!」
ポケットから勢いよく財布を取り出す「さっちん」。
「いや、金とか要らんし!」
「じゃあ、もしかして、身体が目的⁉ バラされたくなかったら言うことを聞け的な⁉」
彼女が自分を抱きしめる様な仕草で顔を左右に振りながら震え上がる。
「いやいやいや! そんなこと一言も言ってないしっ!」
「だーってそうでしょ! 学校に内緒でこっそりバイトしてるってのに!」
「さっちん」は、学校に内緒でこっそりバイトをしているのか。
ずんずんと1歩1歩近づいてい来る「さっちん」。勢いに押されて1歩1歩後ずさる俺。
「同じ学校の……!」
「さっちん」と俺は同じ学校なのか。
「同じクラスの……!」
え⁉ 「さっちん」は同じクラスなのか⁉
「席が隣の人が偶然たまたま私のバイト先に来るわけないでしょう!」
すいません。偶然たまたまバイト先に来ちゃいました……。
いつの間にか俺の顔と「さっちん」の顔がすごく近い。彼女は興奮しているので意識してないみたいだけど、それこそキスでもできそうな距離だ。
「さっちん」は言いたいことを言ったのか、ぜーぜーと肩で息をしていた。この子は勢いの子だな。こんな威勢がいい子が席の隣にいたら嫌でも覚えているもんだけど、全く記憶にない。
多分、彼女の勘違いだな。
(ガチャ)このタイミングで控室の扉が開けられた。
「さっちん大丈夫? 声がお店の方まで聞こえてるわよ?」
それは、ちょっとお姉さんな感じのメイド服を着た人……何となくお店の社員の人だと思った。
「すっ、すいません。店長!」
え⁉ 店長なの? あの人。
「さっちんは、お店のナンバーワンなんだから、痴話げんかは家でこっそりやってね。お店だと売り上げに影響しちゃうから」
「はいっ! すいませんっ」
いや、痴話げんかじゃないし!
「彼氏くんもいくらさっちんが心配だからってお店まで来たらダメよ!」
「いや、俺は……その……」
「ダーメーよっ!」
店長さんからぎろりと睨まれた。
「「はいっっ!」」
なぜか、俺と「さっちん」は声をそろえていい返事をしてしまった。俺の様に全国陰キャ協会会員だと強く言われたら自分の意志に関係なく相手にとって都合のいいと思われる返事をしてしまう傾向にある。
それにしても、俺だけじゃなくて「さっちん」も同じ行動を取るとは……?
「あの、俺と彼女は別にそう言う関係では……」
「お店の控室でそんな状態の男女を見て……ねぇ」
我に返ると俺は床に尻もちをついていて、そこに「さっちん」が覆いかぶさるようにしていた。見方によっては押し倒されて迫られている様にも見えなくもない。
ばっと離れる俺と「さっちん」。
「さっちん、今日はもう帰っていいから。彼氏くんは今後お店に出入り禁止にさせてもらうわね」
「だから、俺は彼氏では……」
「い・い・わ・ねっ!」
「はいーーーーっっ!」
俺は一旦部屋の外で待って、「さっちん」を家まで送っていく事になってしまったみたいだ。俺はどうしてこうなったのか理解できないでいた。
そして、目の前にいる金髪碧眼メイドの「さっちん」が何者なのかを、メイド服から着替えた彼女に会うことで俺は知ることになる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます