第4話:裏垢女子まいまいの撮影会
「その……エッチなことって具体的には……?」
俺はここで選択肢を間違えていはいけない。
目の前には「撮影会」と「エッチ」があるのだ。それぞれの選択肢が具体的にどんな内容なのかを把握した上で決めないと、俺は死ぬ瞬間の走馬灯を見る時でもこの瞬間を思い出して後悔することになるだろう。
「そうねぇ……」
今永麻衣が顎に人差し指を当てて少し上を見ながら続けた。
「誠が『まいまい』の画像を見て想像していたこと全部?」
「ぶふっ!」
「きゃーーーっっ! 誠! 鼻血が! また鼻血でてるから!」
鼻に詰めたティッシュはポンと吹き飛んで鼻血が再び止まらない俺だった。
◇
俺の想像した「まいまい」が目の前にいるのだから。そして、俺の想像通りのことをしていい……って。興奮せずにはいられなかった。
「もう、一体私の画像でどんな想像してたの⁉ 逆に私 どんなことされちゃうのよぉ?」
今永麻衣が少し困り顔だ。
俺は再びティッシュこよりを鼻に詰めて鼻血を止めようとしているところだ。
「その……撮影会の方……は?」
「そうねぇ、撮影会の方は普通にリクエストのある服を着て撮影かな」
「服は……どんなのが⁉」
ここは重要だった。
「クローゼットに色々買い貯めたのがあるし、フォロワーさんからプレゼントされたのもあるからかなり色々あるわね」
「プレゼントされた服」と聞いて俺の中の嫉妬心が沸き上がっている事に気がついた。それは「まいまい」に対するものなのか、はたまた今永麻衣に対するものなのか。
今永麻衣と「裏垢女子まいまい」は同一人物なのだから、そんな考えは無意味だと分かっているのに、何となく気になってしまう。
「め、メイド服は……」
「メイド服が好きなの? それなら5種類くらいあるけど」
「ぐぐぐぐぐぐぐ」
謎の唸り声にも似た音を発しながら俺は仰け反った。
俺が持っている「まいまい」のメイド服姿の画像は3パターンしかなかった。つまり、まだ見ぬ2パターンが存在するということ!
「ちょっと、鼻息が荒すぎて怖いんだけど……」
「す、すまん。どっちもちょっと想像した以上にすごかったんで……」
「いや、だからどんな想像したの⁉ 私ちょっと怖くなってきたんだけど……」
俺が腕を組んで悩んでいる間に、彼女がお茶とさっき俺が持って来たお菓子をトレイに載せて持って来てくれた。
何だよ、「まいまい」はスタイルがいいだけじゃない。良い子だった。
「まいまい」はかなり細い。それなのに胸がめちゃくちゃでかい。世の中にどれだけ需要があるかは知らないけど、俺は「ガリ巨乳」が大好きなのだ。
腕も足もモデルみたいに細いのに、胸だけはあり得ない程巨乳。世の中にはそのような恵まれた体型の人間が存在する。
彼女はまさにそれ。お腹なんか無駄な脂肪が一切ないし、脂肪が無い分 腹筋がうっすら割れているようにも見える。それなのに、胸は溢れんばかりに豊満で……
腕組み継続中で彼女の部屋で仁王立ち状態で悩み続ける俺。
「そんなに悩むならまずは、『撮影会』からやっちゃう?」
「……やっちゃう」
少し残念な気もするけど、たしかに「撮影会」の方がハードルは低そうだ。
まだ見ぬ2パターンのメイド服も気になるし。
「じゃあ、着替えてくるから。そこのクローゼットは全部衣装だから見ててもいいよ?」
「なん……だと⁉」
壁に取り付けられた観音開きの3つのクローゼット全部が衣装⁉
今永麻衣が着替えるために退室したので、その間に衣装を楽しませてもらうことにした。家主がいないのに勝手にクローゼットを開けていいというのはすごく悪い事をしている様な気すらする。
彼女からの許可はもらっているので犯罪性は全くないのだけど、この行為は俺の心の中では有罪だった。ぞくぞくする。めちゃくちゃ興奮する作業だ。
クローゼットを開けると、童貞を殺す服、ワンピース、スク水、体操服……どれもこれも「まいまい」に着て欲しい服ばかり。
ここで一つ言っておきたい。俺は服に興奮する変態ではない。この服を見て「まいまい」が着た時を想像して興奮しているのだ。
……世の中の服を見て興奮する人が同様だったら俺も立派にその変態の一味ということになる。もうそれでいいです。
ただ、ここに並べられた服達は俺の頭の画像フォルダーを検索すると「まいまい」が一度は着たことがあるものばかり。どうせなら新しいものが見たい。
次のクローゼットを見ると、こちらはずらりと制服が並んでいた。
「あ! これは!」
その中で1着の制服が目に留まった。
(ガチャ)「おまたせー。ん?」
メイド服姿の「まいまい」が部屋に入ってきた。ちゃんと頭には白いブリムも付けてある。そこは良い。
全体的に黒を基調としているゴスロリ風のメイド服でスカートはひざ丈くらいまである。そこも良い。
ただ、全身のメイド服の生地がシースルーなのだ! スケスケのスケスケなのだ!
下着もガーターベルトもけしからん程に透けて見えてる。
えっろ! いや、えっろ! これは見ただけで逮捕されてしまうやつじゃないだろうか。
「こっ、これはっ!」
「どう? 似合うぅ?」
今永麻衣がスカートの裾をぴらっと持ち上げてみせる。
彼女の殺人的に優れた体型も相まって目が離せない。
さらに、いつもの画像なら顔はフレームの外になっていて、髪型すら見ることができなかった今永麻衣の顔も露わになっている。
彼女の白い肌に、黒いシースルーのメイド服。
無駄が一切ない彼女の身体に、遊びしかないメイド服。
普段学校で見かける今永麻衣の顔に、普段身体しか見られない「まいまい」。
普段見せてはいけない部分が色々見えていて俺の興奮は最高潮だった。
「どう? 可愛いでしょう?」
「可愛い」
「似合う?」
「似合う」
「エロい?」
「エロい」
「全部オウム返しじゃない!」
今永麻衣が苦笑いしていた。
それでもしょうがなかったのだ。
見ているだけで罪悪感すら沸き上がって来る程似合っていて、目が離せない。
「ちょっとトイレに……」
「こらこら! 女の子の家のトイレで何するつもり!」
俺がティッシュ箱を持ってトイレに行こうとしているところを襟の後ろを今永麻衣に捕まれて止められた。
「じゃあ、スマホ構えてー」
「……」
俺は半ば放心状態でスマホを構えていた。
……その後は覚えてない。
とにかく、今永麻衣と「まいまい」の魅力をこれでもかと見せつけられた。世の中にはこんなにきれいで美しくて可愛い生き物がいるのだと思った。
おみやげに例のUSBメモリーももらった。
俺は気づけば帰りの電車の中だった。夢見心地と言うのはこの事で、あまりの体験に俺は地面から数センチ浮いているのではないかと感じるほどだった。
窓の外のビル達が電車の揺れと共に流れていく。まだぼんやりしているらしい。俺は「まいまい」が持っていた制服について思い出していた。
彼女が持っている制服はいわゆるコスプレ衣装でどこかの学校の制服ではない。それでも、最後に見ていた1着だけは隣の女子高の制服だった。全国女子高生制服鑑定協会の会員である俺があの制服を見間違えるわけがない。
今永麻衣は間違いなく俺と同じ学校だ。1年の時から同じクラスなので間違いない。それなのに、なぜ彼女は隣の女子高の制服を持っていたのか。いつかの「まいまい」の画像に少しだけ映り込んでいたから、俺は「まいまい」があの女子高の生徒だと思っていた程だった。
ぼんやりそんなことを考えていると、気付けば家の最寄り駅はとっくに過ぎていて、普段まず来ることが無いところまで来ていた。時間も夕方に差し掛かっていた。
少し頭を冷やそうと思って、一番早く着いた駅で俺は電車を降りた。我に返るとすごく疲れている。疲労困憊とはこのような状態なのだろう。
少し風に当たろうと思って改札を出て座って休める場所を探した。俺には癒しが必要だ。
そして、気付けばとあるビルの5階にあるメイド喫茶に入っていた。俺はそこで奇妙な体験をすることになる。
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