08話
「都子ちゃんに似ているかな」
「都子に似ている? 流石にそれはないだろ」
「確かに恥ずかしがり屋なところは似ていないけど盛り上がるところとかがね」
「あーそういうことか」
私はお母さんではないから分からないけど喜んでくれたように思う、それと相手はお母さんなのに彼が黙ってばかりで困ったというのが今回の感想だ。
「ありがとな、あと、悪い」
「悪いと思うなら君からして?」
「それって……どっちだ?」
「それは君にお任せするよ、彼女の私が求めていることが分かる――」
全部私からしていてここは抱きしめるでもよかったのにキスを選ぶのか。
「こ、これでいいか?」
「はは、ありがとう」
駄目だな、やっぱり格好いいではなく可愛く見えてしまう。
だからついつい意地悪をしたくなる、が、ずっとこんなことばかりをしていてもばかっぷるになってしまうからやめておこう。
「はぁ、今日は疲れた」
「お疲れ様、寝てもいいよ?」
「いや、こういう時間に寝ると鳴海が悪戯をしてくるからやめておく」
「やだなーまるで私が悪いことをしているみたいじゃん」
やるとしてもじっと見たりお腹を枕にさせてもらうとかその程度だった。
それぐらいは普通だろう、彼風に言うなら健全だ。
「悪いことをしているんだよ、寝ているところを邪魔しちゃいけないって習わなかったのか?」
「習わなかったよ?」
「……とにかくくすぐったり頬を突いたりするのはやめてくれ」
「はは、やらないから休みなよ」
毎回疑われるようになると面倒くさいから今回は本当になにもしないつもりでいた、それと市崎君と話したかったのもある。
こちらに興味がなかったから当たり前と言えば当たり前かもしれないけどあの偽彼女の件からまともに話せていないことが気になったのだ。
「もしもし? 矢子さんからかけてきてくれるなんて珍しいね」
「こうしておいて言うのもなんだけどいま大丈夫だった? 都子ちゃんといるならやめておくけど」
「大丈夫だよ、今日はまだ来ていないからね」
今日は、か、変な遠慮をせずにちゃんと一緒にいられているならそれでいい。
こういうところでいちいち慌てたりしなくなったのもいいところだと思う、って、偉そうに言えるほど彼のことを知らないんだけど。
「ならよかった、ちょっと市崎君に相手をしてほしくなってね」
「泰二となにかがあったの?」
「いや、あれから市崎君とほとんど話していなかったから話したかっただけ」
「そういうことか、確かにそうだね」
彼はそれからすぐに「いいよ、話そう」と言ってくれた。
ただ、細かく説明していないことで気になったのか話はこちらのことばかりだった、身近で付き合っているということで色々と聞いて参考にしたいのかもしれない。
「うーん……鳴海さんのやり方は女の子だからこそできることだよね、男子側がやると避けられかねない気がする」
「ちなみにいまはどれぐらいなの?」
「手を繋ぐぐらいかな、一回だけ別れる前に抱きしめたことがあるけど都子さんはなにも言わずに帰っちゃったんだ」
「でも、それからも普通に一緒にいるよね、それが答えだと思うけど」
この前、家から連れ出したときはどういう話をしたのだろうか? それともそのときに初めて抱きしめたのだろうか。
そのときが初めてなら結構変わってきてしまう、冬休みに入って直接この目で一緒にいるところを見られているわけではないからね。
「過去と比べれば積極的になれていると思うんだ、だけどやる度にいいのかなって考えてしまう自分もいてさ」
「焦らないで」
「うん、聞いてもらえてよかった」
「違うよ、私が気になっただけ――あ、ちょっと」
「悪い富久、ちょっと鳴海に用があるから切るぞ」
すぐに携帯を返してくれたけどこちらを怖い顔で見てきている彼がいる。
「別に浮気なんかじゃないよ」
「……気になって無理だった」
「素直に言うんだね」
「……悪い」
彼はまた寝転んでこちらに背を向けた。
悪いことをしていたわけではないから無駄に謝ったりはしないけど少し気になったのは確かだ。
「泰二君、抱きしめて?」
「……これでいいか?」
「うん、こうすれば安心して寝られるでしょ? あとお互いに温かい」
布団を持ってくればよかった、触れていない部分は少し冷える、なんてね。
こちらからすれば寝ることが目的ではないからね、そこはしっかりしなければね。
「ふぅ、しっかりしないとな」
「別にほとんどはいままのままでいいけど急に取ったりするのは駄目だね、相手も驚いちゃうでしょ?」
「ああ」
「それと、あれからはちゃんと君だけを見ているよ」
市崎君だって都子ちゃんに対してそうだった、でも、まだ付き合ってはいない、と、組み合わせによって全く変わってくるというのが面白いところだ。
「あれっていつだ? 全部最近のことすぎて分からないぞ」
「彼女のふりをした件からだよ」
「ああ、確かにそうだな、あっという間に終わってそれからは俺と……」
「ま、君が積極的だったのもあるんだけどね」
「一年無駄にしてしまったからな」
去年来ていても別にいまと同じように対応をしていた、私はそんな人間だ。
だけど去年に来ていたらいまの彼とは違うわけだから気に入っていたかどうかは分からない、だってその場合はいまよりも積極的になってしまうわけだからそうなる。
「だが、結局近づけてもあんまり変わらなかったよ」
「でも、去年までとは違うでしょ、気になった異性の彼氏になれている時点でさ」
「俺はもっとこう……鳴海を照れさせられると思ったんだが無理だった」
「それは無理だよ、私は逆に君を慌てさせることができると分かってよかったけどね」
「笑みを浮かべて言うなよ……」
や、自分が照れているところを直視することになったら都子ちゃんではないけど爆発をしていたからこれでよかったと思う、爆発をするということはいまのようにはいられなくなっていたから彼のためになっているわけだ、関係が変わってもほとんど付き合う前と同じだったら悲しいだろうしね。
「だから決めたんだ、俺は二年生が終わるまでに鳴海を照れさせてみせるって」
「はは、頑張って」
「顔を真っ赤にさせてやるぜ」
「いい顔をしているところ悪いけど無理だと思うよ」
そればかりを意識して行動をされるとこちらが困る、まず疲れることは確定しているから止めておかなければならない。
大体、わざとそういうことをしてどうなるのかという話だ。
「……あのときだって笑っていたしな」
「はは、なんか楽しくなっちゃってね、だからこれからも変わらないよ」
「まあいいか、勝ち負けじゃないしな、それにそのことばかりに意識を割いていたらもったいないことになってしまうからな」
「うん、それでいいよ。あと、意識をしていないときの方が案外、いい結果が出るかもしれないよ?」
恋どころか他人に興味を持っていなかった私がこうなっているのだからありえない話ではない、無理だと言ってからこれだから矛盾どころの話ではないけど。
「はは、よせよ」
「どうなるのかなんて分からないからね」
「はは、そうか」
「うん、そうだよ」
これで緩くやってくれるだろう。
コントロールというわけではないけどある程度は口にしてもいいと思う、もちろん無理強いなんかはしないから安心してくれてよかった。
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