第4話 魔女の条件


 園月ゼミからの帰り道、わたしの心は乱れていた。


 うん?


 美々からのメッセージが届く。


『心から願いが届きますように』


 わたしの願い?妹の杏のことか……。この三角関係はどうすればいいのだ?美々は勘の良い女性だ。シスコンの男など興味がないかと思えば、そうではない。二人きりになれば甘えてくる。わたしが何もできないと知りつつ近寄ってくるのだ。


 まるで、魔女だ。


 イヤ正確にはわたしにとっては魔女である。女子サッカー部のキャプテンをこなしているのだ。勿論、人望もある。なのに、わたしの前では魔女である。このチクチクする恋愛感情は実に厄介なものだ。きっと誰からも共感は得られないであろう。わたしは返事を適当に返すと帰路に着く。そう、ここがスタートである。

わたしと妹の杏と美々との奇妙な三角関係のスタートであった。


***


 自宅に帰ると静まり返っていた。双子の妹の杏が居るはずである。



 この音は……防音室の中から人の気配がする。妹は今日も籠っていたのか?防音室の扉を開けると。ピアノの音が聴こえてくる。



 妹の杏はやせ細り、今にも倒れそうである。わたしは心配になり、少し外に出る様にと言う。ご飯を食べさせて、散歩に連れ出す。


「兄さん、少し疲れたわ」

「そうか?ならこの先の公園で休もう」


 わたし達は銀杏並木の道を進み公園にたどり着く。公園には誰も居なく静かであった。空にある雲が速く流れ、それが印象的である。


「……」


 言葉が止まり、沈黙の時間が流れると。


「兄さん、ありがとう」


 妹の謝意にわたしは素直に喜ぶのであった。ふ~う、照れるな、シスコンもここまでくれば一等賞だ。イガイガする恋愛感情と比べても心が和んだ。


***


 わたしは自室に籠り、趣味の油絵を描く。美々の油絵は止まったままだ。結局、描くのは妹の杏である。白い肌、か弱い体の線に、伸びた髪。決して綺麗な訳ではない。でも、わたしにとって妹はかけがえのない存在であった。それに比べて美々である。思い出しただけで、イガイガする。無実の罪で捕まらないかな。イヤ、その存在じたいが罪である。うん?その美々からメッセージだ。


『わたし今裸なの』


 は?知らんがな。


『佐津間くんはムッツリだから想像しているわね』


 このままでは本当に喰われてしまう。わたしは美々が魔女だと言うことにした。


『美々さんって魔女だよね』


 やったぞ、言ってやった。


『誘っているの?』


 美々の反応に少しとどまっていると。


『わたしを魔女にして、誘っているの?』


 不味い、美々の機嫌をそこねたらしい。あれ?言いたいことを言ったのだ。それなりのリスクはあったはずだ。


『魔女を魔女と言ってなにが悪い』


 少し、感情のままに行動してみる事にした。このまま、縁が切れてもいいと思ったからだ。


『そう、わたしは魔女……でも、この姿はあなただけの前だけよ。わたしに魔女と言うなら、その代償として、わたしの言いう事をききなさい』


 要約すると捨てないでと言っているらしい。


 ホント、イガイガする恋だ。


***


 わたしは今、美々に呼び出されて一階の空き教室にいる。次の日から美々の名前は『魔女子さん』になった。何故かと長考するがイマイチ理由がわからない。本人も魔女と呼ばれることが嫌ではないらしい。


「佐津間くんは、それで、園月ゼミの一員らしいわね」

「ああ、ただの剣術の稽古と勉強会だ」


 『世界の雫』のことは秘密ではないが紹介状が必要だ。美々には関係ない話と思い適当にはぐらかす。


「世界の終わりについて研究しているとか?」


……。


 ここは面倒臭いが本当のことを言おう。でないと、この魔女子さんは何時まで経っても聞いてきそうだ。


「どんな願いも叶う『世界の雫』について研究している。部外者は立ち入り禁止だ。魔女子さんには関係ない」

「入れて……」


 それは野心を感じる一言であった。


「完全紹介制だ、少し考えさせてくれないか?」


 この美々こと魔女子さんはサッカー部を全国に行かせたいらしい。そんな願いなら紹介してもいいが。何かイガイガする。


***


「わたしは中庭のベンチの上で長考していた。魔女子さんこと美々を園月ゼミに紹介するかだ。何が一番問題かと言うと。美々がライバルになるのだ。その器がデスを倒すことになれば、わたしの願いである妹が悲しむ。仕方ない、ライバルになってもいいから、紹介状を書くか。わたしは紹介状の文面を考えていると。


「佐津間くん、ここにいた、紹介状は書いてくれた?」

「ああ、今、書いている」

「やりい」


 ラフな返事だな、デスと戦わないと『世界の雫』は手に入らないのに。わたしが呆れていると。


「武器は刀でいいのね」

「そうだが……」


 この魔女子さんこと美々は何処まで知っているのだ?


「ここだけの話だけど、デスを呼び覚ますには絶望がいいらしいの。佐津間くんの妹さんの腕をへし折ったら絶望する?」


 とうとう、本音が出たか、このイガイガする恋の正体は美々が魔女であることだ。

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