第3話 卒業後の

 わたしは独り、図書室で勉強していた。やはり、心がイガイガする。


「佐津間くん、勉学もいいが『世界の雫』の方は大丈夫かな?」


 後ろから声をかけるのは、高等部三年の南逗菜さんであった。彼女もまた園月ゼミの一員だ。


「これでも、国立狙いです」

「エスカレーターで大学に進まないのか?」

「はい」

「君の人生だ、他人がとやかく言う事ではない。しかし、『世界の雫』は君には必要なはず、そのイライラした顔立ちからして本当の幸せを考えるといい」


 南逗菜さんはわたしから離れて去って行く。わたしはペンを止めて大きく息を吐く。


 少し休もう……。


 部室棟の下にある自販機でお茶を買う。ふと、横を見ると小鳥が飛んでいた。小枝に止ると、小さな声が聞こえる。わたしはスマホを取り出すとユーチューブを見る。妹のピアノ動画が少しでもヒット数を上げる為にこうして観ている。



 しかし、この癒されるメロディーは何故、日の目を見ないのであろう?


 さて、勉強に戻るか。


 お茶のペットボトルを捨てると。立ち上がるのであった。


 部室棟の下にある自販機から図書室に向かう途中の事である。立ち寄った、掲示板にピアノコンクールの張り紙がある。わたしは妹にコンクールから世の中に出る機会があればとスマホで張り紙を撮る。この偶然が妹の将来によく働くことを願う。早速、添付メールで妹のスマホに送ってみる。


『兄さん、ゴメン、わたしは大勢の人の前ではピアノを弾く勇気がないの』


 ふ~う、わたしは肩の力が抜けて行くことを感じていた。ダメな兄だ、結局なにもできないでいる。


『世界の雫』か……。


 わたしは図書室に向かうのを止めて、園月ゼミに足を運ぶ。南逗菜さんがロビーにいた。


「一局、稽古をつけてくれませんか?」

「いいだろう」


 とんとん拍子で南逗菜さんとの稽古がスタートする。南逗菜さんは長刀を構える。長刀に小太刀二刀流では距離を取られると不利だ。防御に徹して、スキをうかがうか。南逗菜さんは突きをメインして様子をみている。この不利な戦いは体力を消費しては不味い。

わたしは一瞬のスキを見逃さなかった。刹那、小太刀二刀流の突撃が炸裂する。


「勝負ありだ」


 わたしは木刀を引くと礼をして稽古を終える。

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